○月×日 てんき はれ
友だちににっきっての教えてもらった。
から、今日から書いていく。
ようし?ってのになってから、ここでの生活にもなれてきた。
今日はすごくいいてんきで、おひさまもぽっかぽか、畑の米も、元気いっぱいによろこんで、芽を伸ばしてた。
明日もこんななら、いいな
○月×日 てんき はれ
今日も晴れた、こういう日は外で遊べるから好きだ。裏山でかけっこした。
とちゅうでウリぼうにあった。近くにイノシシがいるかもしれないから、あぶないって、お父さんが言ってたから、山をおりた。
わたし、とってもえらい。
○月×日 てんき はれ
最近友だちとあそべてない、みんなたがやすのにいそがしいみたい、水も引かないといけないから、しょうがない
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○月×日 てんき くもり
ずっと雨がふってない。
今日やっとくもった。
でも、お父さんもお母さんも不安そうに私を見てた。このまま雨がふらなかったら、イネもぜんぶしおれちゃうかも、大丈夫かな。
○月×日 てんき あめ
すごく痛い、お腹がいたい
よく覚えてないけど、昨日の夜、
だれかきたの、たぶん、ゴツゴツしてたから
入りこんできて
雨、ふってよかった。これで元気になるかな
○月×日 てんき あめ
ずっと雨、なんかモヤモヤしている。
どこも湿って、米も野菜も元気だけど、
お礼された、みこさまだっけ
わたしはそうみたい
○月×日 天気 曇り
晴れないでずっと曇りのまま、
お義父さんもお母さんも優しい。
好きなものを作ってくれるし、友達とも遊ばせてくれる。隠してるようだけど、何だか焦ってるみたい、この間なんか、社と村長の家を行ったり来たりしてた。何かあるのかもしれない。時間は有り余ってる。
○月×日 天気 全部消えろ
嘘つき
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「空から槍が降るなんて、例え話だろ、そんなこと本当にあったのか?」
震えながら、足軽は答える。
「ここから、三千里あったところ、俺はみたよ。降った雨が槍みてぇに鋭くて、それはそれは世にも恐ろしい阿鼻叫喚だった」
『心の天気模様』
今日のお題は、”遠くの空へ”か。
なら、竜と少年の話でも書いてやろう。
この間、ちょうどファンタジー小説も読んでいたし、文体も軽いものでよい。
ストーリーはどうしようか。
冒険家を目指す少年は、小竜と出会う。
そうだな…井戸に捨てられていたところを見つけることにしよう。
捨てられた理由…。
そういえば昔、日本ではトリソミーやモノソミー…まあ、いわばなんらかの障害を持って生まれた赤ん坊は、産婆によって殺されていたそうだ。選別し、生活ままならぬ依頼者に、苦労をさせないようにとだ。
竜が、ある種そういう選別をおこなったらどうだろう。それならば、捨てられているのも納得だ。
さて、じゃあこの子は病気ということにして、少年が大人になったら死ぬ。
その鱗を胸に抱いて、少年が旅立つシーンを入れて完成としよう。
……………いや、やっぱり、やめておこう。
親がたまたま落として、最後に見つけることにしよう。
違和感はあるが…、まあでも仕方ないだろう
『たとえ、間違っていても』
それは私にとっての正解でしかないのだから。
皆さまは神仏を信じますでしょうか?
言い換えますと、神社を訪れたり、一回でもお祈りを捧げたことがあるでしょうか?
ええ、まあまあ、そういう定義であれば、だ
いたいの人は当てはまるものです。
日本には古くから多神教ー自然であれ物であれ神様が宿るーという考えがございます。
言霊に付喪神、お天道様にお米の神様、神仏習合と、仏すらも祈りの対象としてしまうのはなんとも面白い。
つまり、今日の我々には、モノに神が宿るという考えが深く染みついているわけです。
さて、前置きはこのくらいにしておきましょう。
今回私が話すのは、一つの付喪神。ある仏像についてございます。
その仏像は、チベットの密教が、瞑想か何かで使っていたというもので、平安時代に日本に伝わりました。
この仏像、いわゆる修行僧を模した観音菩薩なのですが、変わったところがありまして、
何もつけていないのです。
普通、仏像というのは、芸術品の一種ですから、多くの装飾が施され、法冠や蓮華、光輪などをつけているものです。
しかし、この仏像は、腰布をつけた仏が坐禅を組んでいるだけの造形で、その上、
身体は骨が浮きでるほどに痩せ細っていて、遠目で見れば死骸と見間違えかねないほどのものでした。
ですが、表情は笑顔なのです。
そんなものでも、当時は随分と大事にされたようで、戦後になるまでは、修行僧の見習うべきさまと、本尊として祀られていたそうです。
ですが、時代も移り変わり、寺の老朽化や後継者問題もあって、住職は寺を引き払い、法具等も、ほとんど博物館へ寄贈してしまいました。
一応、あの仏像だけはどうしてもということで、住職の死後、古物商に売られるまでは、家においてあったそうです。
(男は咳き込む、痰混じりの苦しげな声)
おっと、これは失礼しました。
どうも最近、体調がすぐれなくて、
続けましょう。
さて、この仏像ですが、ある資産家が購入することになりました。
彼は筋金入りのけちん坊で、
それで財を成したような男でして。
冠婚葬祭も安く済ませ、飛行機はエコノミークラス。タクシーは絶対使わず、電車か車で取引に向かう。
教育費は最低限、子供たちには奨学金をとらせ、国公立に通わせても、留学は許さない。
格好も質素でした。
ですが、そんな彼にも趣味がありました。
それは、骨董品を集めることです。
なぜそんなことをしていたのかは、今になってはわかりません。
骨董品が何億で売れたとかの儲け話を聞いて、いつしか趣味になっていったのか。
それとも、数少ない人情だったのか。
ともかく、彼はあの仏像を購入しました。
鑑定士に価値を観てもらい、歴史のあるものだとわかると、和室にずっと置いていたそうです。
それからというもの、彼の様子は変わっていきました。
最初は、小さなことでした。
電車に乗るのを頑なに拒否し、車で移動するようになりました。
他にも瞑想をはじめたり、ランニングしたりと、前の彼ならば無駄と嫌っていた物事に前向きに取り組むようになったのです。
一番の驚きは子供の留学を認めたことでした。
世界は広いのだから、いろんな考えを知るために行ったほうがいいと言って、資産の約一割を譲渡したそうです。
他にも、慈善団体への寄付、アフリカ寄金への参加もして、かつてのケチだった彼は何処にいったのか。
ですが、おかげで交友関係も増えて家に人を呼んだり、家族での外出も多くなったので、
この変化に妻や友人の多くは喜んでおりました。
無論、あまりの変わりように不気味に思う人もいたことは確かです。
話しかけると、いつも顔をしかめた彼が、
食事に誘うと頷いて、”世話になっているのだから、奢らせてくれ”と、笑顔で言ってくるのです。しかも、自分は食事を少ししか取らず、友人にたっぷり食べさせるなんて、てんでおかしいですから。
それから数ヶ月経った頃のことです。
彼の旧友ーここでは仮にAとしておきますーが久しく、彼の家を訪ねました。
庭にあった家財は消えていて、雑草がボーボーと茂り、なくなった窓から、線香のような匂いが漂っていました。
Aがベルを鳴らすと、すぐに扉は開きました。
現れたのは、
腰の曲がった痩せぎすの老人で、服の代わりにボロ切れを腰に纏い、肌は焼けたように黒く染まっていました。口角が高く吊り上がった、張りついたような笑顔をAにむけていました。
二度三度と咳き込んだ後、それは言いました。
久しぶり
その声で、老人が変わり果てた友人であるとAは気づきました。
少し話した後、和室まで案内すると言われ、
Aは迷いつつも、従うことにしました。
中には、家具は一つとして、置いておらず、廊下に残る泥臭い足跡を除けば、まるで新築のようででした。電球は全て取り外され、音といえば廊下の軋む音くらいでした。
和室に入って、ようやくAは家具を発見しました。張りついたような笑顔をした、骨張った真鍮製の仏の像。それが和室の中心から、Aを見つめるように鎮座していました。
Aは身体の震えが止まらなくなり、酷く動揺しました。
それは、案内してくれた友人と、
何ひとつ違いないものだったからです。
Aあまりの恐ろしさにそこから逃げ出し、もうその家には行きませんでした。
その後、資産家は失踪し、山奥で座禅を組んで、飢え死にしているところを発見されました。笑顔だったそうです。
家財整理の話となり、仏像もその中にありましたが、あまりに不気味だということで博物館に寄付されました。
ですが、数日後に倉庫から姿を消していたそうです。
これにて、この話は終わりでございます。
長きに渡り、ご清聴ありがとうございました。
どうぞ気をつけてお帰りください。
ああ、もしよければ交通費くらいなら差し上げます。悪銭身につかずともいいますので、遠慮なく
『何もいらない』
これがいい、あれがいい。
アクアリウムみたいに映る、無限の未来を眺めながら、多くの人が期待に胸を躍らせている。
「俺は将来、弁護士になるみたいだ」「私はお金もちと結婚するって」
「僕は…、何かの運転手になるみたい」
暗闇で何かを握って、アクセルを踏む私。窓辺からは、青赤と明滅する星々がきらめいていた。
「なんだ、やっぱおまえは大したことないな」
「…そうなの?」
小学生に過ぎなかった私には、実感がなかった。映像だけが写されても、自分がそうなってる未来など想像がつかず、どこか別の世界に迷い込んだようだった。
あれから十年後、
私は宇宙を旅している。
同級生も未来に達したようだけど、弁護士はどこも飽和状態で就職が大変。女の子はどうも幸せそうにみえない。なんでも、軽い監禁状態だとか。
だからといって、私が幸せかと言われたらそうでもない。ただ、生きることはできている。
みんなは未来を手にしたけれど、それで本当によかったのかしら。
『もしも未来が見えるなら』
渇ききった草木一つ見えぬ砂漠の沿岸に、縄で縛られた人々の群れがあった。
彼らは皆々藁で結ばれた積荷を背負い、鋭い砂利石に血が滲んでも歩き続けていた。
彼らはそうせねばならなかった。
逃げ出せば、馬上の者たちによって、煙のでる筒で殺される。喉がいくら渇いても、空きっ腹が消えなくとも、死ほどたえがない恐怖はなかったのだ。
二日は歩いただろうか、途中で何人かが脱落し、砂漠に小さなオアシスを作ったものの、大部分は生き残っていた。
海上の大きな家に彼らは搭乗し、陽の光が一つも入らぬ部屋に詰め込まれた。
暗闇、蒸し暑く不衛生な部屋には、病気と恐怖が蔓延した。
血反吐と汚物によって、酷い匂いが充満していたが、もはやそれを違和感と覚えなくなるほど、彼らは恐怖に慣れてしまっていた。
船員に身体を売って助けを乞う者、踊り狂う者、見えぬ朝日を浴びるもの、謀略を企む者。その空間では、もはや狂気は一種の日常であった。
だが、天はまだ彼らを見離してはいなかった。
彼らが船に詰め込まれて、約一ヶ月の時が経たころだ。甲板は、暗がりと伝染病が広がり、彼らは憔悴しきっていた。もはや誰もが母語の形を忘れてしまったのか、波の音だけが響いていた。
突然、激しい衝突音と共に船が揺れる。
すし詰めの彼らもぶつかり合い、多少の混乱が生じたものの、すぐに落ち着きを取り戻した。
「今のはなんだ、何かぶつかったんじゃないか」一人がひそひそと言った。
「海には怪物がいるというから、きっとその類だ、俺たちは食われちまうんだ」
周囲が喚き立つ、それは死に喜んでいるのか、悲しんでいるのかもわからない悲鳴だ。
不意に戸口が開かれると、彼らの声はぴたりと止んだ。過度な会話には、鞭打ちが待っている。身体を震わせ、懺悔する。騒ぐべきでなかったと。
だが、その思いはつゆ知らず、彼らの見たのは意外なものだった。
白い人、手には筒と鞭がある。その恐怖は変わらない。しかし、その体には節穴が現れて、腕に抉れた赤い傷ができていた。
誰がはじめるでもなかった。
合図を待つことなく、彼らは白い悪魔を殴りつけた。呆気に取られたそれは、猛然たる野蛮を受け、次第に動きをとめた。
久しく光の下に現れた彼らの眼には、もう一つの大きな家と、青々しい海があった。
船上には、赤くなった悪魔の遺体と、
槍と筒で悪魔たちを成敗する彼らによく似た人々がいた。
互いに言葉は伝わらない。
だが、その境遇と憤怒が同じものであることは、どこまでも明白だった。
彼らは反旗を翻し、悪魔を追い詰めた。
鞭で叩き、海に落とし、怪物への供物とした。船上に既に悪魔はなく、残ったのは”彼らたち”だった。
その日の彼らは病に罹ったかの如く、踊り歌い、食らった。
短くも長い晩餐は終わり、似た人々は船に戻っていった。彼らもまた、船内を調べ、行き先を羅針盤に定めた。
『ここではない、どこかへ』
はるか先の故郷を目指し、船はどこまでも進むのだった。