ォㇺㇾッ

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4/1/2024, 11:49:59 AM

起きてきて開口一番が「今日は早めに帰ってくる」と、下らない嘘を真顔でつく父親。
去年の今頃は同じ事を言って遅れてきたし、それどころか毎日0時を回ってからも帰ってくる様子はない時も多い。
顔なんか忘れそうなくらいすれ違ってるのに、どうして信じれるの?と半目で睨めつけると、散れといわんばかりに手をさっさと振って学校の支度を促される。
支度を終え、玄関のドアノブに手をかける時に二度寝を決めようとする父親に「パパのそういう所、信じられない」と吐き捨てて勢いよく扉から出ていく。
今日がエイプリルフールだから、いつもより強気な発言を言えてスッキリした。
道中で一個下の妹分に挨拶をして、学校に向かい、何時もの変わらない日々を消費する。
帰りの帰路で夕暮れの空を見ながら思いふける。誰もいない部屋にただいまと言って虚しさを抱えながら夜を過ごすのだろう。
それが日常なのだから、もう何も期待することはない。
そう考えてるうちに家についてしまった。
でも、どうして期待してしまうのだろう。嘘なのに。帰ってくるとその言葉だけで胸が締め付けられる。
ドアノブに手をかけると、不意に後ろから振ってきた声に口を強く結んで振り返る。そして言ってやるのだ。

「嘘なんでしょ」

3/4/2024, 5:16:14 PM

「これ…」

目の前でもじもじしていた女からずいっ…と出されたものは、薄紫色の包装紙で可愛らしくラッピングされた中にこれまた一輪の紫色の花が可愛らしく咲いている。
「これ?俺に?」
女は首を縦に振って更に顔を真っ赤にさせる。
ふーん、ととりあえずそっけなく受け取りそのままカウンターに置く。
花は嫌いじゃない。殺風景な店に少しの花があるだけでも雰囲気は明るくなる気がするからだ。まあ、なんだかんだすぐに枯らしてしまうが。
「これなに?菖蒲?かきつばた?」
驚いた女はあたふたしながら言う。
「あの、かきつばた、じゃなくてたぶん、あやめ…かな?うう、ごめん、よくわかんない…」
目を半目にしてしょんぼりしている女を見る。きっと普段行くこともない花屋で上がりすぎて店員の説明を聞いていなかったんだろう。ここは察してやろう。
「まあとりあえず受け取っておくよ。ありがと」
店の奥に行こうとすると、口をぱくぱくさせてまだ何か言いたげな表情をしている。さすがに貰ってはいサヨウナラはそっけなさすぎるかと思い、もう少しとどまることにした。
「どうしてこの花を選んだの?」
俯いた目をこちらに向けると彼女の金色の瞳が少し潤んでいる。
「目の色が…似て、るから」
「へ、へぇー…?そっかな」
胸の奥から湧いてきた暖かさに照れくさくなって、カウンターに目をやると、紫色のささやかな花がこちらを向いている。
彼女は別段仲良くは無いと思っていたが、よく見てるんだなと感心する。
「今度、これなんの花か一緒に聞いてみるか」
目を丸くした彼女はこくんと頷いて、蚊の鳴くような小ささで「わかった」と誘いに乗った。

1/30/2024, 11:43:23 AM

あなたに届けたい

君の心臓〈こころ〉に届く最高傑作。
そうでなくともきっと──。



【1】

─先生、これでいいんでしょうか。

「ん、ああ…。大丈夫だよ。ところでどうだい?」
この状態。と言われて周りを見渡す。いま、大層な機械の中に裸で入れられている。
前面はガラス張りなので、自分がショーケースの中に入っているような不思議な感覚だ。その外に男が手を振っているので、振り返す。

─私ではだめだったのでしょうか。

「アレを幻滅させるわけにはいけないからね。残念だけど君には倒せない。さて、準備をしよう」
口元は笑っている。
が、目では真剣にこちらを捉えている。少し悲しくなって逸らすと、ふふ、と笑われてしまった。
アレ──を見た瞬間全身が震え上がった。人ではないことは確かだった。異次元の存在。思い出すたびにまた恐怖が湧き立つ。だが、この方法なら先生はもう戦わなくていいと言ってくれたが…。
「安心してくれ、絶対に成功するから。最初は苦しいだろうが死ぬことはない。肺の中に液が満たされてから息は出来るから安心してくれ」
と、言って直ぐに上部の大きな管から大量の翡翠色の水がなだれ込んでくる。
あ、と言う間に全て満たされてしまった。

─…!…ー…

「ああ、頑張ってくれ」
窓を叩くと君の力だと壊れるかもしれないからやめてくれと言われた。肺の中に水が入り込んで意識が薄れる中、この研究所へ一緒に来た「あの子」が脳裏に浮かぶ。 と、同時に苦しさが嘘のように引いていく。成功したのだろうか。両手をガラスについて先生を満たされた培養液の中から見下ろす

─…!!…。

「うーん?まだぐっすりと寝てるから安心してくれ。…、よし、バイタル、信号、全て正常。これより第二段階へ移行する」
ここからは意識がない。先生が言うには神にも等しい行為だと言っていた。なんでも一度"溶かして遺伝子を書き換えて再構築"するのだと。
溶かすという言葉に身の毛がよだったが、今私はラボのベッドの上で天井を見つめているから成功したのだろう。それよりも─

ドアにノックがかかる。どうぞ、と促すと先生だった。我が子も抱いている。
「いいかな?」
頷くと先生はベッドの横の椅子へ腰をかける。
「いや、全く生命の神秘だね。君が寝てる間僕にそっぽを向いてずーっと泣いていたよ」
先生が残念そうな顔をして赤子を見つめ、それから赤子を渡された。この重みが懐かしくなり涙を落とす。
「もう、安心して暮らせるんですね」
「そうだね」
どこか他人事──もう私達には興味がないような反応だ。
会話もすることもなく、先生はやることがあると言って直ぐに病室から出ていってしまった。
完全に扉が閉まるのを見届けてから、静かに涙を落とす。
「ごめんなさい…赤ちゃん。私の赤ちゃん」
売ってしまった。"将来"の私の子。

研究所に来る前に二つの事を提示された。
アレを殺すか、将来に託して赤子と静かに暮らすか。
前者の成功率は限りなく低いが、暫くは生きれるだろうと。
後者は身体を提供する代わりに死ぬまでこの子と共にいられる。
一人だったら迷わず前者を選んでいたであろう。腕の中で笑顔を見せる赤子を見てしまったら、急に死が怖くなってしまった。

「決心は決まったかい?」
「はい」
「私の子はあのバケモノを確実に殺しうる存在になります」
握った拳を震えるくらい強く握る。手のひらから血が伝うと、先生はハンカチを出してそれを拭い、優しく両手で私の手を包む。
「物事は単純だよ。もっと皆ハッピーになろうじゃないか」

再び病室からノックされる。きっと成功した知らせだろう。扉がゆっくりと開くと全身から鳥肌が立った。

「こんにちは」

1/30/2024, 9:59:45 AM

I love...

生まれた時は、白で無垢だったはずだ。
母親の呼び声に応えようと、形を得たはずだ。
生まれ落ちた彼女は、今、戦火の中、血だらけの死体の中から産声をあげた。
「かわいそうに」
何処からともなく現れた男は生きんとする彼女の姿に、微笑みかけるが、そのまま踵を返してしまった。
だが一層激しく泣く声に、男は興味を引いたのかそれを拾い、羽織っていた自分の白い布を巻いてやり、歩き出した。
たどり着いた場所は残骸となった教会だった。ここなら誰かが拾うだろうと思い、男は煤けた像の足元に彼女を置き、十字を切って祈りを捧げ、教会を後にした。
「君はきっといい人生を歩むよ。だって神様に愛されてるから」
そう言い残して。



【1】
睨み合う、二人の少年。
「仕合開始!」
一人の少年が飛びかかるようにして剣を縦に振るうと、もう一人の少年はそれを真正面から受け、木剣がカン!と響く。
受けた少年は素早く剣を押し返して、開いた胴に思い切り蹴りを入れた。
「いて!」
受けてしまった少年は、後ろにごろごろと転がり込みお腹を抱えて膝をつく。

1/28/2024, 11:41:15 AM

街へ

電車の呼び鈴が鳴る。
家から急いで飛び出してきた私は休む暇もなく駆け込んで乗り込むと、すぐに扉は閉まってしまった。
この電車を逃してしまうと、この電車が次来る時は明日のこの時間だ。危なかった…。と胸を撫で下ろす。
それくらい何も無い田舎なのに街へ行くにはこの乗り物しかない。
寝坊したのも、忘れ物がないか準備や買い物リストのチェックやらで忙しくて家中は大騒ぎ、あれよこれよと時間がどっぷりと過ぎてしまったし、それに胸いっぱいの期待と興奮のせいで中々寝付けなかったせいだ。

一息ついて、切符をまじまじと見る。C-23と書いてある。
これが私の座席の番号。
少し乱れたスカートの形を整えリュックを背負い直して、案内板を見る。右は1〜10、左21〜30…と確認して歩き出す。
すれ違う隙間もない狭い廊下を歩き、次の車両の扉を開いて、番号を良く確認する。
「あった」
つい声に出てしまい慌てて口を塞ぐ。母の教えでは、誰か寝てるかもしれないから静かにしてね、と。
カーテンの仕切りを静かに開けると大きな窓…と狭い空間に狭そうなベッドが一つ。両サイドには硬そうで狭い長椅子。これは寝台列車というらしい。

とりあえず荷物をベッドに置いて長椅子に座り、外の景色を見る。何も無い真っ青な地平線だけが写っている。
あれ…こんなだったっけ?
街へ行くのは初めてではない。といっても記憶があやふやな位子供の時だけど。
椅子の硬さも覚えていない。眠るまで母の膝の上にいたから。母の言う事なんでも首に縦に振って、街がどんな所か聞いていた。いつの間にか眠ってしまった。次に起きた時はもう駅のホームのベンチだった。
あの街はすべてがキラキラしていてなにもかもが目新しくて知らないお菓子や便利なものに驚いて道行く人全てに活発さがあった。

靴を脱いだらリュックと自分の場所を入れ替えて、寝転がる。狭い天井にため息が出てしまう。
ここは少し記憶と違って残念だったがきっと今の街はもっと素敵な所になっているだろう。
まどろんだ目を瞑って眠りについた。


──終電、□□、□□。


重たい瞼を上げて、起き上がる。ベッドの質が悪すぎて背中が痛い。
ここで降りなければいけないのでリュックをさっと持ち上げて靴を履く。
カーテンを開けるともうこの車両の人は私以外いないようだ。

電車を抜けて降りたつと、ぬるい風が頬を撫でる。
ああ、昔見た小綺麗なホーム、見たことのない看板!
とあるものを見つけて駆け寄ると、大きい箱の中におしゃれなお菓子が沢山入っている。こんなものは私の住む所にはなかった。
出口はどこ?とキョロキョロと見渡し、見つけた人の流れに足早へ向かう。
切符を改札に通し、胸を躍らせながら大きな出口へ向かう。外へ。あとちょっとで憧れの街へ。

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