「これ…」
目の前でもじもじしていた女からずいっ…と出されたものは、薄紫色の包装紙で可愛らしくラッピングされた中にこれまた一輪の紫色の花が可愛らしく咲いている。
「これ?俺に?」
女は首を縦に振って更に顔を真っ赤にさせる。
ふーん、ととりあえずそっけなく受け取りそのままカウンターに置く。
花は嫌いじゃない。殺風景な店に少しの花があるだけでも雰囲気は明るくなる気がするからだ。まあ、なんだかんだすぐに枯らしてしまうが。
「これなに?菖蒲?かきつばた?」
驚いた女はあたふたしながら言う。
「あの、かきつばた、じゃなくてたぶん、あやめ…かな?うう、ごめん、よくわかんない…」
目を半目にしてしょんぼりしている女を見る。きっと普段行くこともない花屋で上がりすぎて店員の説明を聞いていなかったんだろう。ここは察してやろう。
「まあとりあえず受け取っておくよ。ありがと」
店の奥に行こうとすると、口をぱくぱくさせてまだ何か言いたげな表情をしている。さすがに貰ってはいサヨウナラはそっけなさすぎるかと思い、もう少しとどまることにした。
「どうしてこの花を選んだの?」
俯いた目をこちらに向けると彼女の金色の瞳が少し潤んでいる。
「目の色が…似て、るから」
「へ、へぇー…?そっかな」
胸の奥から湧いてきた暖かさに照れくさくなって、カウンターに目をやると、紫色のささやかな花がこちらを向いている。
彼女は別段仲良くは無いと思っていたが、よく見てるんだなと感心する。
「今度、これなんの花か一緒に聞いてみるか」
目を丸くした彼女はこくんと頷いて、蚊の鳴くような小ささで「わかった」と誘いに乗った。
3/4/2024, 5:16:14 PM