Ino.

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4/10/2026, 4:57:20 PM

春爛漫

 春が咲いている。ただ、綺麗に咲いている。
 新しい町、新しい景色、新しい日常。
 だけど、一つだけ変わらないもの。
 桜並木。ふと、後ろから私を呼ぶ声。
 振り返る。その笑顔はいつもと同じようだけど、今日はどこかオトナっぽく感じた。
 私は今日、晴れてキミと同じ高校に入学する。
 新品のバッグの上、花びらが舞う。いつの間にか見え始めた新緑の若葉は、これからみるみるうちに大きくなっていくのだろう。

6/14/2025, 9:50:59 AM

2025/06/14
お題:君だけのメロディ

 エレキギターを手に、今しがた思いついたメロディを形にしていく。

 最後まで弾き終えたところで、僕はヘッドホンをつけて音を確認する。今日はいつもと違って、少し落ち着いた感じの曲に挑戦しているのだ。

 ……そうして旋律を聴き終え、僕は確かな手応えを感じた。――手前味噌ながら、今回のメロディーは凄く良いものだったのだ。

 僕が思うに、メロディというのはいわばガチャのようなものだ。良いメロディが引けるときもあれば、普通のメロディしか引けないときもある。――僕も最近、良いメロディが中々浮かばずに困っていたのだが、ここにきて大当たりが引けるとは。本当に分からないものだ。

 半ば興奮した状態のまま、僕はメッセージアプリを開き、今録った音源を作曲仲間の友達に共有する。既読はすぐにつき、二分ほど経った後、返信がきた。

――『いつもと違う感じで凄く良いし、正直驚いた。僕も今さっきメロディ思いついたから、聴いてくれると嬉しい。』

 どうやら、相手も同じように感じてくれたらしい。共感を得られたことに満足しつつ、相手から送られてきた音源を開く。聴き始めて数秒後、僕は目を見開いた。

 それはもう、とにかく素晴らしいものだった。曲調は落ち着いたバラード。優しく寄り添うようで叙情的なメロディに、心が和らいでいく。一度聴いただけで、僕の脳裏に深く刻み込まれていくのを感じた。

「凄すぎるよ、もう……。」

 あっという間に聴き終わってしまい、僕は感嘆のため息を漏らす。

 僕にとって君は作曲仲間でもあり、なかなか超えることのできないライバルでもある。

 そのことを改めて自覚させられた僕は、未だ興奮冷めやらぬまま、ベッドで一人うなだれるのであった。


 ――でも、仕方ない。

 君の作るメロディは君にしか生み出せないし、僕の作るメロディだって、僕以外には生み出せないものなのだから。

6/13/2025, 9:28:08 AM

2025/06/13
お題:I Love

 今日はクチナシの花が咲いた。

 学校に行く前に花を愛でる。それが私の日課だ。

 私の家の狭い庭には、毎月毎月様々な種類の花が咲く。それらは全て私が趣味で植え始めたものだ。

 ――私は元々、花に興味があるわけではなかった。私が花に目覚めたのは、ひとえに君に出逢ったからだ。

 君は花を誰よりも愛していた。だから、私も花を好きになった。

「好き」という気持ちは、少しのきっかけで芽生えて、ぐんぐん成長していく。

 私が最初に愛したのは君だ。だけど君はもう一つ、今の私に欠かせないものを教えてくれた。

 その二つを今でもずっと愛することができているのは、なんて幸せなことなのだろうか。


 ――花の世話を終えたとき、ちょうどスマホの着信音が鳴った。そろそろ登校した方が良い時間帯だ。

 身だしなみを再度整え、私は歩き出す。

 今日も私は、愛する君に会いに行く。

6/12/2025, 7:09:08 AM

2025/6/12

お題:雨音に包まれて

 雨音に包まれて、私は一人歩く。道端では雨の雫を受け、紫陽花の花が咲いていた。

 いつもなら隣にいるはずの“君”は、今日はいない。
 私と君との関係は――少なくともこの学校にいる間は――変わらないと信じていた。
 そんな考えも、今となってはなんだか胡散臭い。
 きっかけは一つ。且つとてもシンプルなものだ。
 “クラス替えでクラスが離れた”あぁ。何て単純なのだろう。
 最初はよかった。お互いクラス替えの結果を悔やみながらも、仕方のないことなのだから。と、この関係を続けられるよう努力することを決めた。
 しかし、一緒にいる時間が減ったことによる影響は、思っていた以上に大きかった。

 私と君との関係は元々、帰り道から始まった。
 中一の今頃、部活に入らず一人で帰っていた私を、同じく帰宅部だった君は「一緒に帰ろう」と誘ってくれたのだ。
 小学校の頃から一人で帰るのが常だった私にとって、その言葉は君が思う以上に強力なものだった。
 話をするのが下手な私は、私なんかと帰って君は退屈ではないのだろうかと何度も考えたが、その後も君は私と一緒に帰ることを選んでくれた。

 ――なのに今日、君はいない。
 勿論、今までにもお互い用事などで一緒に帰れない日はあった。
 だけど、今日君から送られてきたのは、「今日は一緒に帰れない」の一文だけ。なんだか、そっけないのだ。

 雨音の中を、少し早歩きで帰路につく。――一人で帰る道というのは、こんなにも退屈なものだったのだろうか。心做しか、家までの道が遠く感じる。

 君は人気者だ。私と違って友達だって多いし、私の知らない一面を見せているのを見て、嫉妬を抱いたことだって何回もある。

 私は君が好きだ。だけど君にとって私は、ただの複数いる中の一人でしかないのかもしれない。クラスの違いごときで崩れてしまう、脆弱な関係でしかないのかもしれない。

「嫌だよ。そんなの……。」

 私の呟きは、雨音の中でかき消されてしまった。

6/9/2025, 2:52:12 PM

 黄昏の涼風が心地良く、君の影法師が薄くなる。
 二人だけの世界。二人だけの静寂で、君の頬に一筋の涙が伝う。

「ねえ。もしもこの世界が、綺麗なものだけでできていたなら……こんなことにはならなかったのかな。」

 沈黙を破り発せられた君の呟きに、私は一瞬目を瞬かせた後、落ち着いた口調で言葉を返す。

「……綺麗なものは、汚いものがなければ輝けない。綺麗なだけの世界なんて、きっとどこにもない。もう、どうしようもないんだよ。」

「……そっか。」

 再び訪れる静寂。橙の空は小さくなっていき、未だ青っぽい空に星が瞬く。

「……陽、沈んじゃったね。」

「……だね。これから、どうすればいいんだろう」

「さあ、分からない。……とりあえず、やれることをやるしかないでしょ。」


 廃墟街にはずっと、二人の声しか聞こえない。

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