シラヒ

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3/15/2023, 7:10:23 AM

ふと、側に立って見下ろした時。
決まって「なに?」と、俺より背の低い彼女は顔を上げて、目を見つめてくる。

その、瞳。
俺に対する愛で満ちた、心底幸せそうな瞳。
俺だけを映す、愛しい愛しい瞳。

それだけが見たくて。
それだけを見ていたくて。

今日も俺は彼女の側に立つ。

2/22/2023, 1:17:33 PM

しみるような優しい眼差し

愛のこもった柔らかい声音

肌が触れ合ったところから伝わる温もり


どうしてこうなった

なにを間違えた

いつから、おれは



ねぇ、いつもみたいに名前、呼んでよ

いつもみたいに笑ってよ

優しく抱きしめてよ

ずっと、ずっと一緒にいてよ


おれの太陽そのものなんだ

もう元には戻れないけど、それでも

『      』

2/20/2023, 11:30:41 AM

「同情は決して悪いものじゃない」
 メガネちゃんはそう言って、黙々とインスタを見ている。私も横から覗き込んでみたけど、画面にずらりと並ぶ投稿のゴテゴテした感じにうんざりした。
 だから体勢を戻して、さっきメガネちゃんが言ったことを考えてみる。
「……『可哀想』ってさ、明らかに下に見てるのに?」
「受け取る方が卑屈になってるだけ。もちろん本気でそう言ってる人もいるかもしれないけど」
 逆になんで全員が全員、そうだと思うの?とメガネちゃんは首を傾げた。
 確かにそうかもしれないけど。
 勝手に寄り添われてもなぁって感じだから、私は同情ってよくないと思う。
「やっぱり同情はよくないんじゃないかな?」
「でも同情って、相手の気持ちを想像して理解しようとすることでしょう?さっきの例は置いといて、それって悪いことなの?」
「んー……それって共感じゃない?」
「じゃあ、同情と共感の違いってなに」
 言葉に詰まる。
 どっちも相手の気持ちや苦しみを理解して、寄り添うこと寄り添おうとすること。

 二つの違いは何だろう?
 もし誰かに寄り添ったら、『同情はやめて』って言われるのかな。自分はその人の気持ちに共感しているのに。

「メガネちゃんの言う通り、受け取り方の問題かも」
「どういうこと?」
「受け取る人が『同情だ』って思ったら同情で、『共感だ』って思ったら共感なんだよ」
 メガネちゃんが顔を上げて、ちょっと私を見つめてから眼鏡をとった。

「またひとつ、答えが見つかったね。パーマちゃん」


***
皆さんは『同情』と『共感』の違いはなんだと思いますか?
なぜ共感は良いイメージがあって、同情には悪いイメージがあるのでしょう。
誰かと話してみると、結構楽しいかもしれませんよ。

2/19/2023, 10:43:16 AM

「ねぇ、ここどこ?」
 いつのまにか周囲の景色は、見慣れた公園から不気味な神社へと変わっている。

 公園で遊んでいたら、男の子が一人、声をかけてきた。

もっといっぱいあるところに連れて行ってあげる。

 ほら、と見せてくれた手のひらには、きらきらと輝くガラスの破片。佳子が集めていたモノよりも角が丸くて綺麗で、まるで本物の宝石のようだった。
 大喜びで男の子に手を引かれるまま、こうしてやってきたのだけれども。いつのまにか日は暮れかけていた。空の端に見えるオレンジ色の空に佳子の不安が募る。木が風に吹かれてざわざわと、まるで意思を持っているように揺れた。
 足元の枯葉がカサカサ音を立てる。

 ふと佳子は気づいた。
 男の子の足元からは、何の音も聞こえないことに。でも枯葉は同じように踏んでいる。だから、音は出るはずだった。
 いや、出ないといけない。

「ね、ねぇ!ここ、どこ__」
「もっといっぱいあるところ」

 振り向いた男の子の、顔の部分にあったのは

2/19/2023, 4:12:17 AM

 スプレー缶を振る。カラカラと撹拌玉が軽快な音を立てた。
 黒と緑、それから白を使って壁に絵を描く。無機質な灰色がアートに塗り替えられていく。
「あなた、なに、描く?」
 振り返ると一人の東洋人がいた。壁に背をつけて、笑顔でこちらを見つめている。
「俺に聞いてる?」
「うん」
 東洋人は俺の作品を指さして、「かっこいい」と真剣な表情で言った。
 嬉しいけれど、これは立派な犯罪だから少し居心地が悪い。肩をすくめて作品を仕上げた。スプレー缶をリュックに入れた。缶を入れるとどうしても汚れる。メッシュ素材のリュックはバレやすいけど後処理が便利だ。
「行こうぜ」
 きょとんとしていたが、「来ないのかよ」と聞くと顔を輝かせてついてくる。童顔なのもあって犬みたいだと思ったのはここだけの話だ。

 午後の街はいつもより時間がゆっくり流れる。道端に座ってもよかったが、ケイゴが物珍しそうに見回すので、結局案内することにした。
 東洋人の名前はケイゴ。俺より少し背が低くて、目が少し細かった。日系というわけではないらしく、肌が黒いのはすっかり日焼けしているだけだという。
「なんでここにいんの?旅行?」
「あー、親の仕事、一緒にきた」
「ふぅん。何の仕事?」
 ケイゴは顔を顰め、しばらく唸ってから「ジャーナリスト」と一言呟いた。説明できるだけの語彙がなかったらしい。
「かっこいいじゃん」
 お世辞のつもりだったが、ケイゴは嬉しそうに頬を緩ませた。


「俺はさ、アートが好きなだけだよ」
 プロ並みのテクニックを披露するスケーターたちを見ながら、俺はいつのまにか話し出していた。
「他の人たちみたいな、『街を作りたい』『認めてほしい』ってのはないかも」
「でも有名。なりたい。違う?」
「当たり前だろ。有名になったら仕事になる」
 俺がやっていたことが仕事になる、というのが結び付かなかったのだろう。ケイゴはしばらく考え込んでいたが、すぐに答えに辿り着いた。
「あ、大きい絵か。ビルの」
 ビルの壁はキャンバスだ。
 行政に認められて、堂々と自分の傑作を作り上げていける。それができる人たちに憧れた。俺もいつか、絶対描き上げたい。
「仕事にできたら、今日みたいにコソコソ描くのとはもうおさらばだ」
「……ストリートで描く、やめたい?」
「やめないけど。これは俺の原点だし」
 軽くリュックを蹴ると、缶どうしがぶつかって高い音が響く。ケイゴはずっと楽しそうにしていた。しばらく無言が続いたけど、俺たちは気にしなかったし、気まずくなんてなかった。
「君が有名になったら、俺が取材する」
「マジ?じゃあ頼むわ」
 俺たちは拳をぶつけ合った。



 今日という日にさよならを。

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