「楽しかったか?」
「ヒトの命をモノみたいに扱うの、そんなに快感だったか?」
「邪魔だから消すって、ガキかよ」
「おれが宇宙の中心なのか?全てはおれのための駒か?」
「なぁ」
応えろよ。
おまえのためにわざわざ、地獄から這い戻ってやったんだから。
答えろよ。
なんのためにおれのおとうともしまつした?
「この、バケモノめ……」
こたえろよ
はやく
毛穴ひとつない美しい肌。
目は強気なカラーで丁寧に彩って。
アイラインは目尻を少し跳ね上げる。
淡い桃色のチーク。
ハイライトは適度に自然に。
完璧な保湿のおかげでふわふわの唇にとっておきの赤を乗せる。
何度か唇を擦り合わせて最終調整を。
そうして鏡を覗き込み、惚れ惚れする。
「あぁ…すごくキレイだよ、姉さん」
鏡の中の姉さんが、蕾を咲かせた花のように柔らかく微笑む。
ありがとう。本当に自慢の弟ね。
口が動いて、これ以上ない褒め言葉をくれた。
「そろそろ時間だから、行かなくちゃ」
気をつけて。急いでいると危ないから。
「大丈夫だよ姉さん。僕はちゃんとやれるから」
そう、それは楽しみね。
僕の姉さんは、わらっている時が一番美しい。
1つだけ、なんでも手に入れられるなら何が欲しい?
「世界。」
予想外の規模の大きさ。冗談を言っているのか、本気なのかは目を見れば分かるけれど、それにしたって世界なんて。
「1つだけ、とかセコくないか。おれには欲しいものがたくさんある。1つだけじゃ満足できない。」
おまえだけで満足、とは言ってくれないの。
「それはおまえの気持ち?それとも存在?」
……どっちも。
「ふざけんなよ。おまえと過ごすためには生きなきゃならない。一緒に過ごす時間も、金もいる。全然足りない。」
だから世界なの?
「世界だ。おまえだけで満足しろって言われて、はいって言えるような出来た人間じゃないんでね。おれはおまえも、その他も全部欲しい。」
まさに俺様。ジコチュー。子供みたい。
「なんとでも言えよ。おれは諦めねぇから。」
知ってる。
「なら、いい」
にぎられた手のひらが、じんわり熱くなった気がした。
「おれはお前を愛してるから、何も言われなくたって分かる」
「お前がおれを『愛してる』って」
「だから、おれは愛して欲しいなんて思わない」
「言葉だっていらない」
「でもな」
「最期になるのなら」
「一度でいいから、言葉で聞きたいと思うんだ」
君にさよならを言う前に私がすべきこと。
「いきなり呼び出してなんだよ」
相変わらず微妙にダサすぎる服、人を舐め腐った態度。
「ま、どうせあれだろ?『まだ私のことが好ーー
右ストレート。
拳が綺麗に決まると、人はあんなに吹っ飛ぶものなのか。
私はにっこり笑って「浮気したくせに頭が高い」と吐き捨てた。
「電話も出ないくせに勝手に押しかけてくるなんて、ほんとに気遣いができないのねアンタは」
ドアを開ける瞬間は若々しいマダムの笑顔だったのに、私だと分かるとこの表情。
「いい歳した大人なんだからもういい加減ーー
ラリアット(威力4分の1バージョン)。
床に倒れる老人ぐらいではもう痛まないぐらい、心は傷つけられたんだよ。
私はにっこり笑って「反抗期遅くなってごめん」と吐き捨てた。
最後にやってきたのは君の元。
ベッドに横たわる君を見て、私は溜息を吐いた。
「君の望みはなんでも叶えると言ったけど、後で大変な思いをするのは私じゃない」
「でも引き受けてくれたじゃないか」
君はにっこり笑ってこう言った。
「冥土の土産はこれぐらいインパクトがなくっちゃね」
「ありがとう」
「さよなら」
私もにっこり笑ってこう言った。