「それ、外さねぇの」
彼に指摘され、彼女は振り返る。
胸元で光るドックタグ。
ランプの灯りに反射して、彼の目を刺す憎い光。
彼女は決して彼のものにはならないのだ。
「ねえ、来てよ」
彼の醜い心のうちなどお見通しだとばかりに彼女は腕を広げた。
あけすけな誘いには応じず、彼はつ、と指で冷たい金属のふちをなぞる。
それは、本当に憎らしいことに、彼女の心臓の上にあった。
「分かってたでしょう?」
彼女はずっと前から彼奴のもので、これからもずっと彼奴のものだということ。
「分かってるでしょう?」
それでも、彼は彼女の側にいることを選んだということ。
返事の代わりに舌打ちをこぼし、ランプの灯りを消した。
光源などない暗闇の中で、しかし彼にだけは胸元で光り輝いている彼奴の証が見えたのだった。
5/15/2025, 2:15:20 PM