好き、大好き、愛してる、ずっと一緒にいたい。
その思いは当たり前のようにうちの中あって、誰彼構わず好かれてる印を求めてしまう。例えば誕生日に貰ったメッセージカード、お揃いの小物、一緒に遊んだ時の写真、貰った折り紙。うちはもう高校生だと言うのに机の引き出しの中には幼稚園の頃もらったピンク色の指輪ですら大事に仕舞われている。
うちが友達のことがだいすぎだと言うのはうちのなかでは当たり前なこと。だけど、あっちがそうだとは限らない。ネットで他人のエピソードトークを聞きすぎたのか、人は自分の本心を建前で隠す事で平穏を保つということもうちの中で当たり前になってしまっている。その二つの歪な前提があれば人に上手く好きを表せないのは当たり前でしょう。
だから、うちはちょっとした相手からの接触でも凄く嬉しい。今カラオケの王様ゲームでバグしてるのも、建前ではちょっと気まずそうにしてるけど多分家に帰っても何回か思い出してにやけるだろう。だってすっごい嬉しいから。
青く、果てしない海の中。そこで僕は世界一きれいな貴方と出会った。
透き通った青い尾ひれ、光を反射したきらきらの白い鱗、きれいに整ったギザギザの歯。一目見ただけだど、凄くきれいだと思って、気づけば群から離れて話しかけていた。
「あ、あの‥…!」
「!‥…?」
貴方はいきなり声をかけた僕に驚いていたが、
僕を見て捕食者じゃない事に気づいたら聞く姿勢を取ってくれた。
「いきなりすみません、あの、凄くきれいだなって思って‥…!良ければ、名前を教えてくれませんか‥…?」
うまく喋れなくて、はずかしさで頭のなかで思考がぐるぐるした。そんな僕を見て貴方は天使のように微笑んだ。
「んははっ、ありがとね~坊や。特別に教えてあげる、あたしの名前はね」
✅ 🐟️ 🐚 🐚 🦈
貴方の名前を知れる前に、サメが襲ってきて僕は群の大人に手を引かれていった。群の大人越しに貴方が逃げるのが見えて凄く安心した。だけど、その日から僕の群はサメが現れたその場所に寄り付かなくなってしまった。貴方の名前も知らず、貴方が居た場所にも行けず。この広い海で貴方とまた巡り会うことはほぼ不可能だと察して泣いた。今では海で生きていく上で他の魚との別れをいちいち惜しんではいられないと分かる。だけど、あんなにも綺麗な貴方を忘れられるわけもなく、僕は未だに密かに貴方に会えるのを期待している。
「愛梨ってさ、かわいいよね
高校一年生の夏、君がそう言った時には私は大して驚かなかった。ただ、宿題を写させてほしいのかとしかおもわなかった。
「……どこが?」
どうせ答えられないだろう。そうふんで私は意地悪のつもりで聞いてみただけだった。
「えぇ、どこだろ?……字が丸っこいとことか、肌がすべすべなとことか、髪めっちゃサラツヤなとことか?」
その答えは今でも頭から離れてくれない。
ちょっとした意趣返しのつもりだったんだ。
答えられるなんて思ってなかったんだ。
しかも、全文私が烏滸がましくも少しだけ自信を持っていた所だったんだ。
そんなの、嬉しくなるに決まってるじゃんか。かわいいなんて罰ゲームとか、ごますり以外では聞いたこともなかったし。かわいいって本心から言ってくれたのは君だけだったんだ。
でもさ、正直こんなんになるならそんなの言ってほしくなかったよ。君に会えてかわいいって言って貰えたのは奇跡同然なんだ。いくら髪と肌、服やスタイル、体臭に気を遣っても顔がブスじゃあ本心からのかわいいなんて貰えない。なのに一回その味を知ってしまったら身の程知らずに求めてしまう。そのせいで苦しいんだ。「かわいい」を期待して、その度に世間から「イタい」と言われる。君に連絡しようと想って、そして私と君がただのクラスメイトってだけの関係だったと思い出して寂しくなる。そんな日がずっと続くんだよ。神様おねがいだからさ、また本心からのかわいいが聞きたいな。
思えば僕はあの日からずっとお前に救われていた。端から見ればお笑いで天下を取るというお前の無鉄砲な夢に振り回されていたようだったと思う。実際、大変じゃなかった訳ではない。時には疲れてお前を恨んだりもした。ただ、苦労だけじゃなくてしっかり楽しかったのも確かだ。
今になってこそ分かるが、僕はきっとお前に手を引いて貰うくらいが丁度いいんだろう。昔からテンプレのような夢も意思もないつまらない人だったから。
つまりな、お前が手を引いてくれないと僕が困るんだよ。
「いつまでたそがれてんだよ。お笑いで天下取るんだろ?お前が笑えてなくてどうする」
僕の声に反応して君はゆっくりと赤い空か。
「……大炎上してるんだ、もう無理だろ。お前も、俺の夢に巻き込んでごめんな」
気味が悪い。そんなしょぼくれて勢いのないお前は見たくもない。だから、さっさと目を覚ましてやらないと。
「その炎上は事務所の不手際だろうが。大体、お前の夢がお前一人のものだと思うなよ。僕だって嫌だったらここまで来ずにやめてるさ。」
僕の言葉にお前は目を見開いた。だろうな、僕だってお前がこんな情けない姿になってなければ言うつもりなかったんだよ。
「ほら、帰りにコンビニよってつまみと酒買って帰ろう。世間への釈明はその後だ」
「……」
「今日は特別に奢ってやる」
「…っははっ!そうだなぁ、俺、お前と見たい映画があったんだ、それも見ようぜ!」
「あぁ、いいぜ。先に寝るんじゃねぇよ」
「あたりまえだ!」
ほら、やっぱりお前はそのくらいおバカで明るいのがちょうどいいんだ。
全校生徒が見てる前で君は自殺した。
それだけ聞けば悲劇的だろう。
なにせ絶世の美少女が学校の屋上から飛び降りたんだ。ネットでは既に君は悲劇のヒロインとして祭りたてられている。
だけどな、私だけは知ってるんだ。
君の人生は安っぽいテンプレ悲劇なんかじゃなく、誰もが羨む程の逆転劇なんだって。
むしろ、それ以外に何がある?
その美しさ故に人様の身勝手な欲望を押し付けられていた少女がやっと笑顔で世間に反抗したんだ。努力は報われる、清純なものは更なる高みに登る。ああ、得られる教訓まで素晴らしい。
そんなことも知らずに、いや、知ろうともせずに世間は君を不幸にしたがる。どんな形であろうと死は不幸だと決めつけてやがる。
いつまでも他人主催の下世話で的外れな同情大会を開催しとけばいいさ。
君が最上級の幸せを感じながら死んだことは揺るぎない事実なんだから。