思えば僕はあの日からずっとお前に救われていた。端から見ればお笑いで天下を取るというお前の無鉄砲な夢に振り回されていたようだったと思う。実際、大変じゃなかった訳ではない。時には疲れてお前を恨んだりもした。ただ、苦労だけじゃなくてしっかり楽しかったのも確かだ。
今になってこそ分かるが、僕はきっとお前に手を引いて貰うくらいが丁度いいんだろう。昔からテンプレのような夢も意思もないつまらない人だったから。
つまりな、お前が手を引いてくれないと僕が困るんだよ。
「いつまでたそがれてんだよ。お笑いで天下取るんだろ?お前が笑えてなくてどうする」
僕の声に反応して君はゆっくりと赤い空か。
「……大炎上してるんだ、もう無理だろ。お前も、俺の夢に巻き込んでごめんな」
気味が悪い。そんなしょぼくれて勢いのないお前は見たくもない。だから、さっさと目を覚ましてやらないと。
「その炎上は事務所の不手際だろうが。大体、お前の夢がお前一人のものだと思うなよ。僕だって嫌だったらここまで来ずにやめてるさ。」
僕の言葉にお前は目を見開いた。だろうな、僕だってお前がこんな情けない姿になってなければ言うつもりなかったんだよ。
「ほら、帰りにコンビニよってつまみと酒買って帰ろう。世間への釈明はその後だ」
「……」
「今日は特別に奢ってやる」
「…っははっ!そうだなぁ、俺、お前と見たい映画があったんだ、それも見ようぜ!」
「あぁ、いいぜ。先に寝るんじゃねぇよ」
「あたりまえだ!」
ほら、やっぱりお前はそのくらいおバカで明るいのがちょうどいいんだ。
10/1/2024, 11:10:31 AM