私には初恋の人がいた。
もう、小一の頃だから、曖昧だけれどもね。
でも、よく公園で遊んでたな。
確か、彼が遠くへ引っ越してしまったんだっけ。
『ねぇ、龍くん!どこへ行くの?』
『ごめんね。さくちゃん。』
『結婚するって言ったよね!龍くん!』
『うん。ねぇ、さくちゃん、俺、必ずさくちゃんのこと迎えに行くから、待ってて』
あの時は、帰って、ずっと泣いて…
なんか、懐かしいことを思い出したな。
龍くんとは、5歳差で、本当にお兄ちゃんみたいだったな。
自分の席に座る。
龍くん、私、今日で高校生になったよ。
ガラガラガラ
教室のドアが開く。
「はーい。座ってください。」
聞き覚えのある声が聞こえ、伏せていた顔をバッと上げる。
え…もしかして
「今日から1年、皆さんの担任の藤田龍介です。よろしくお願いします。」
龍…くん…?
なんで?ここにいるの?
「まぁ、一通りの説明は以上です。この後は授業とかないので、気をつけて帰ってください。」
皆各々と教室を出ていく。
それに紛れ私も教室を慌てて出る。
待って、なんで、龍くんが…?
「おーい。片倉ー?お前説明聞いてたか?」
後ろから、私の大好きな声が聞こえる。
「お待たせ。さく。」
私の目からは、沢山の涙が溢れ出た。
《待ってて》
私のクラスには、すこし変わった男子がいた。
名前は、たしか杉田(スギタ)くん。
誰とも関係を持たずに、ずっとひとりでいる。
まるで、一匹狼のようだ。
そして、最近彼からの視線をやけに感じる。
わ、私の顔に何か着いているのかな…?
はぁ、それより、今日はやけに頭が痛い…
「莉央(リオ)ー!体育一緒に行こー!」
仲の良い友達から誘いを受け、「うん」と言って席を立った。
あー、今日ちょっと体調が優れないかも…
寝不足かな…
まぁ、成績を上げるためなら、少々無理をして体育出るか…
「じゃあ、グラウンド5周自分のペースで走れー」
あぁ、もう最悪だ。
こういう時に限って、こう言う辛い内容だ…
「莉央ー!一緒に走ろー?」
「あー、ごめん、私足怪我してて、先行ってて!ゆっくり行くから!」
そう断って、ゆっくり走る。
あー、本当に痛い…
休むべきか…?
どっちにするか迷っている時、後ろから声をかけられた。
「おい、ちょっと。」
私を呼んだのは杉田くんで、グイッと腕を引っ張られた。
「えっ!」
連れてこられたのは、校舎の日陰になる場所。
「ほら。これ。羽織っとけ。」
杉田くんは着ていたジャージを脱ぎ、私に渡してくれた。
「えっ、でも…」
「お前、体調悪いんだろ。安静にしとけよ。」
ひょいっと背中を向けてしまった杉田くん。
ドキッ
「えっと、ありがとう…」
杉田くんって、少し、不器用なのかもしれないな
私は、彼の事をもっと知りたいと思った。
《優しさ》
午前0時。
今日も、現れてくれなかった。
少し派手な窓を開ける。
はぁ、夜の空気は心地が良い。
『日付が変わる頃、必ず僕が貴方を迎えに参ります。』
"必ず"
彼が最後に残した言葉を頭で再生させる。
もう、1年がたつ頃か…
私は、ある貴族の一人娘。
昔から両親が過保護で、外にはあまり出られない。
それに合わせて、恋愛なんてしてこなかった。
けど、私はある1人の執事に恋をした。
私達は話していくうちに、仲良くなり、しだいに、恋人同士になった。
けど、ある日、ほかのメイドに関係がバレてしまった。
そして、彼はクビになった。
私がクビにしたようなもの。
「早く、迎えに来てよ。」
そんな声は、誰にも聞こえなかった。
「迎えに来ましたよ。お嬢様。」
えっ?
今、幻聴?彼がここに来れるはずがない。
声がした後ろを振り向く。
そこには、紛れもない、彼がいた。
「ふふっ、随分待たせちゃいました。」
「な、なんで、ここに…」
緊張で手が震える。
まさか、会えるなんて。
「ご主人に、『なんでもします。全て期待に応えますので、どうか、お嬢様との婚約を認めることは出来ないでしょうか』って、何度も、何度も申したら、許してくださいました。」
お父様…
すると、彼は静かに跪(ヒザマツ)いた。
「私と、結婚してください。」
嘘…指輪まで用意してくれたの…?
もちろん、私の返事は…
「喜んでっ!」
外は真っ暗な中、私達の周りは真夜中の夜空の星達よりも輝いていた。
《ミッドナイト》
「ねぇ!颯太(ソウタ)くーん!」
「これなんだけどー!」
この学校でも、トップクラスに入るほどモテる颯太。
実は、彼と内緒でお付き合いしている。
理由は、私がそんなに目立ちたくないから。
颯太くんは、そんな私のわがままを受け入れてくれた。
そして、いくつかの約束が出来た。
__________________
1 異性と仲良くしない
2 2人きりにならない
3 連絡は基本取り合わない
__________________
颯太も、そんな仲良くはしていないけど、周りには私より何倍も可愛い子が沢山いる。
はぁ、
何回もため息が出てしまう。
これも、私自身のせい。
可愛くなる努力をしないから。
ダイエットとか、お肌のケアとか、どうもすぐ飽きてしまう。
10人中、あの周りにいる子と、私、どっちを恋人にする?と聞かれたら、10人全員が周りにいる子を選ぶだろう。
そう思うと、どんどんと不安が私を苦しめる。
もし、颯太に別の好きな子が出来たら?
もし、私が飽きちゃったら?
考えただけで恐ろしい。
颯太と出会ったのは、本当に奇跡としか言いようがなかった。好きになってくれたのも、奇跡だった。
はぁ、
私はもう何も考えたくなく、机に顔を伏せた。
「凛(リン)大丈夫か?」
心地よい低音ボイスが耳にスッと入ってくる。
えっ?颯太?
「どうしたの?体調悪い?」
心配するように顔を覗き込んだ颯太。
「保健室、行こう?」
普段強要はしないから、颯太が何を考えているのか分からないけど、こくりと頷いた。
教室を出て、しばらく歩く。
私は1つ疑問に思った。
「えっと、保健室はこっち側じゃ…」
「しーっ!」
唇に人差し指を当て、少し小走りで廊下を歩く。
少しして颯太はピタッと止まった。
「空き教室…?」
颯太は私の手を引き空き教室へ入っていく。
「どうしたの?颯太。」
何かあったのかな…
…このシチュエーション、もしかして…
昨日読んだ小説には、ここでヒロインの子が別れを告げられていた。
も、もしかして…
「あのさ、凛。」
ビクッと肩が震えた。
私、どうやって立ち直れば…
ポンっと、優しく私の頭に手を置いた颯太。
「お前、ずっと心配そうに俺のこと見てただろ。」
聞こえてきたのは、そんな優しい声だった。
「えっ?」
「大丈夫。俺、本当にお前しか見てない。気づいてないかもだけど、俺、結構凛のこと見てるからな?」
その言葉に、酷く安心した。
「颯太の周りの子、すごく可愛い子ばっかりだから、不安だったんだ…」
私がそう言うと、颯太は私を抱きしめた。
「お前が、1番可愛いよ。」
顔は見えないけど、私も、颯太も。どっちの心臓もドキドキしているのは分かった。
そして、私の不安はさっぱりと無くなった。
《安心と不安》