駄作製造機

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6/17/2024, 12:56:21 PM

【未来】

『お腹に、、赤ちゃんがいるの。』

どくん。

感じたことのない形容し難い気持ちが溢れてきて、頬が紅潮してるのが自分でもわかる。

口を鯉のようにはくはくとさせてうまく言葉が出てこない俺は、代わりに彼女をそっと抱きしめた。

『もっと、2人の分まで頑張るよ。』

私は彼の胸の中。

血の匂いを漂わせている彼の、いつもの匂いに包まれて幸せを噛み締めるようにゆっくり目を閉じた。

私の夫は裏社会で暗躍している殺し屋だ。

数多に名を連ねる殺し屋達の中でも仕事が丁寧、後処理が綺麗と名高い。

殺しのセンスはまだまだだと言っていたけれど、始めた時より顧客も増えて軌道に乗り始めている。

『いってきます。』

彼は出かける時いつも私の手にキスをして出かける。

私も彼の手にキスをする。

まだ膨らみかけたお腹を摩りながら、1人じゃない事を実感する。

彼が帰って来るまで不安で怖くて仕方なかったけど、この子がいるから、彼がどんなに遅くても大丈夫。

_____________

パシュッ

見事に心臓を撃ち抜く。

殺し屋が子持ちだって、世も末だな。

そう思いながら家で待っている我が子と愛しい妻に思いを馳せる。

死体を海へ転がし落としながら、名前はどうしようかと頭の中にいくつか候補を挙げてみる。

まだ性別はないみたいだから、どっちでも通用する可愛い名前をつけよう。

帰りが遅いこの仕事は、いつも1人で待たせている妻が寂しがっているから心が痛かった。

でも今は、新しい生命と共に俺の帰りを待っていてくれてる。

その事実があるだけで、どんな仕事でも必ずこなして帰って来ようと思える。

パシュッ、パシュッ

見張りの男達も頭を撃ち抜き、早く家に帰りたいともどかしくなった。

俺が彼女と出逢ったのは、俺がまだ殺し屋として新人でやっていた時。

彼女はスナイパーだった。

敵対している殺し屋組織同士だったが、ターゲットがよく被り、そこから不思議と共闘関係になっていった。

彼女は強かった。

どんなに風が吹いていても、その風さえもを利用して必ず標的の脳天を撃ち抜いていた。

そんな強いところにも惹かれたし、何より彼女は男勝りだった。

男性経験がまるでなくて、すぐに顔が赤くなるのが可愛かった。

彼女を幸せにしてあげたい。

いつしかそう思うようになって、彼女と結婚してからは裏社会から完全に隔絶させた生活を送らせた。

もう危険な事はしなくていい。

彼女もそれをわかっていたらしく、相棒だったライフルは床下にしまってくれた。

『2人で必ず幸せになろう。』

彼女は笑顔で俺に言ってくれた。

だから、必ず帰る。

待ってて。愛しい2人。

__________________________

ガチャ

『ただいまー。』

シンと静まり返った部屋の中。

俺は何故か胸騒ぎがした。

彼女はいつも笑顔で玄関まで駆けてくるのに、今日は来ない。

つわりが酷いのかな。

一応警戒しようと懐の銃を片手に壁伝いに部屋へと向かう。

カチャ、、

部屋は真っ暗で、夜目が効くけど争った形跡も何もない。

その時。

窓の外から強烈な光を当てられ、目が一瞬にして眩む。

その間に後ろから来た何者かに銃を蹴り飛ばされ、床に膝をつかせられた。

『離せ!誰だ!!』

『黙れ。お前の妻と子供の命の保証はない。』

動きがフリーズした。

彼女と俺達の子供に何をした?

いつの間に?彼女が所属していた殺し屋組織か?

誰の差し金だ?この場所は誰にも言ってない。

『助けて、、』

愛しい妻の声がか細く聞こえる。

今、今助ける。

『やはり子を身籠もっていたか。殺せ。』

『はっ。』

銃を構える音が聞こえる。

嫌だ、やめてくれ。

やめろ。やめろ!!!

力を振り絞り、抑えられていた腕を折る勢いで振り払う。

『俺の妻と子供に触るな!!』

パァン!パァン!

銃で敵の足を撃ち、怯んでいるところに相手の銃を奪い2丁構える。

『この人数に勝てるわけがない。おい。やれ。』

ドガガガガガガ

ガトリングガンを使って来る敵に、ダイニングテーブルをひっくり返して簡易盾を作る。

『舞美、聞こえるか?』

銃が乱射される中、妻を抱えてテーブルの裏へ隠れる。

『ごめんなさい、、私のせいなの。組織とは完全に縁を切ったのに、、』

『今はそんな事どうでもいいよ。無事で良かった。、、いいか?俺が敵を引きつけておくから、お前はそのうちに床下に隠れてろ。あそこは簡単には開かない。そんな時のために床下には下の階に行ける通路を用意してるから。』

みるみるうちに妻の顔が強張っていくのがわかる。

『どうして?!一緒にいるって言ったのに!』

俺の胸を叩き、悔しさに唇を噛む舞美。

『大丈夫。必ず俺も行くから。お前のお腹の子が優先だ。な?』

泣きそうになっている彼女の頭を優しく撫で、お腹の子に手を添える。

『元気に産まれてこいよ。待ってるから。』

そろそろテーブルがもたなくなってきた。

『じゃあ、また会おうな。』

優しく唇に口付けをした後、煙幕弾をその場で爆発させた。

妻の気配が消えた。

銃を構え、敵の気配を感じながら弾丸を確実に命中させていく。

彼女と出逢った頃は、彼女に笑顔はなかった。

いつ何時でも何かを警戒していて、気を張り詰めていた。

そんな彼女が今や好きなように笑えるようになった。

その笑顔を、その小さな生命を、俺は未来へ繋ぎたいと思う。

例え自分が死んでも。

生きてくれてるなら、俺は彼女の中で生き続ける。

パァン

何処からか飛んできた銃弾が太ももに命中する。

足をつくな。戦い続けろ。

愛しい彼女と子供の未来のために。

『こいつ、、もう10発以上命中してるのに、、』

『バケモノだ。』

なってやるさ。バケモノに。

あの笑顔だけで、俺はどんなものにでもなれる。

だから、お願いだ。

笑顔を絶やさないで。幸せな未来を生きてくれ。

6/6/2024, 10:48:44 AM

【最悪】

ガタンガタン、、、

やっと仕事が終わった。

終電ギリギリに駆け込んだ電車に人は乗っておらず、私は上がる息を整えながら座席に腰をかけた。

『はぁ、、はぁ、、』

普通の高校を出て、普通の大学を出た私が勤めた会社は何とブラック企業。

毎日毎日早朝出勤で残業三昧。

もちろん残業代なんて出なくて、上司からは自分のイライラをぶつけられセクハラとパワハラ、モラハラの地獄だ。

こんな環境で生活している私にもちろん人権などなく、自宅にはいまだに荷解きしていないダンボールが積み重なり、出し忘れたゴミなどが玄関付近に鎮座している。

はっきり言えば最悪だよね。

辞めたいけど、いつも上司に流されてはぐらかされるからどうしようもない。

『明日も仕事だー、、』

明日は祝日。

何とか休みをもらえないかと上司に直談判したけど、私がいないと会社が回らないとか何とかで結局出勤コースになってしまった。

ブルーライトの見過ぎで疲れた目頭を抑えながら、暗い窓に映った妖怪のような見た目にため息をつく。

もう何日くらい2時間睡眠の生活をしているんだろう。

いっそのこと死んだ方が、、

プアアァン

電車の汽笛が鳴り、少しだけ明るかった外が線路に入ったことにより暗闇に閉ざされる。

チカチカと電車の照明が不意に点滅し、しばらくして戻る。

『、、?』

不思議に思いながらも駅が近づいた事を知らせる車掌アナウンスが聞こえたから重い身体を起こす。

〜ご乗車、ありがとうございます。まもなく、ガガガッピー、、、〜

アナウンスが止まった。

え?何で?

思考が上手く回らず、グルグルと疑問だけが頭の中で回転する。

電車はゆったりと止まった。

ピンポーンピンポーン

扉が開く音にビクッとなりながら恐る恐る外を覗く。

暗い。

そして霧が立ち込めている。

駅のホームの看板はハゲていて駅名が見えなかった。

『ここ、、どこぉ?』

半泣き状態になりながら辺りを見回す。

スウゥッと霧が晴れていき、月が姿を表す。

光を頼りに改めて周りを見回すと、駅のホームの真下に川があった。

私の最寄駅はそんな場所じゃない。

しかもそこそこ大きな川だし、船浮かんでるし。

何で?乗る電車間違ったかな、、?

『誰かー?いませんかー?』

意を決してホームに降りた。

コッ、、

一瞬で目の前の景色が変わり、会社の近くの駅に場面が変わった。

あれ、?何で、?

プアアァン

遠くから電車の汽笛が聞こえる。

『ようこそ。黄泉の駅へ。』

耳元でそう聞こえた瞬間、私の体は機体に押しつぶされた。

本当に、最悪の1日だ。

でも、、これでもう会社に行かなくて済む、、なぁ、。

ゴシャッ

6/5/2024, 10:42:59 AM

【誰にも言えない秘密】

言えないの。

そのたった何文字かが。

喉の奥でつっかえて、未来が変わる事を恐れている。

運命は決まっている。

友情が崩れるのを恐れて言い出せないその秘密。

貴方とそのままの関係を求めているけれど、あわよくばそれ以上を行こうと考える自分もいるの。

欲深い自分に気がついて、そしてもどかしくて。

言えない。言えないの。

だって笑顔の貴方が好きだから。

笑顔じゃない貴方は寂しいの。

私は恐る。

誰にも言えない秘密を抱えて。

ずっと言えないの。

言えないのがお腹の底でグルグル回って、爆発しそう。

口を開けば出ちゃいそう。

『好き。』って。

5/22/2024, 10:20:05 AM

【また明日】

『、、、ウソやん。』

今日はさ、天気が本当に良くって屋上で昼寝したら気持ちいいだろうなーって思って屋上行ったんだよね。

ガチャってドア開けたらさ、三つ編みの女の子が先にいたの。

んで、俺、先客か〜確かに今日風もあんまりないし授業サボりたいよね〜なんて思ってその子に近づいたの。

そしたらその子何してたと思う?

フェンスの向こう側にいたの!!!

俺もう心臓止まるかなって思っちゃって!!

慌ててやめさせたんだけど、その子思い詰めてたみたいでめちゃくちゃ泣いちゃって、、

結局午後の授業サボって一生懸命慰めたよね。

夕日が出て来た頃に、女の子はもう大丈夫って言って俺に帰りを促したんだけど、さすがに心配じゃん?

だから俺、精一杯の応援を言ったんだ。

『また明日。』

って。

これで効くかはわからないけど、その子には死んでほしくないんだよね。

なんていうか、、

泣いてる姿とか、力なくヘラッて笑った顔がめちゃくちゃ可愛かったの。

、、、、明日も来るかな。

ーー

『また明日。』

物好きな彼はそう言った。

誰もいない午後の屋上。

穏やかな風が吹く空の下に、私は靴を置いた。

側に遺書も置いて、フェンスも超えた。

いざ下を見下ろしたら、足がすくんだ。

此処まで来たんだ。もう戻れない。

後ろは振り返らない。

早く、飛べ。トベ。

暗示をかけるように言い聞かせ、一歩踏み出そうとした。

でも、そこに貴方が来てくれた。

私と目があった瞬間、めちゃくちゃ慌てた様子で転びそうになりながら私の元に来た。

そして言ってくれた。

『やめよう。やめてよ。』

貴方が私より泣きそうだったのに、貴方が私の腕を掴む力は誰よりも強くて、安心してしまった。

プツンと切れた後は涙がドバドバ出て来た。

貴方はうんうん、と相槌をしてくれながら私の話を親身になって聞いてくれた。

嬉しかった。

止めてくれた。

私はまだ、この人に必要とされている。

そう思ってしまったの。

そしてまた、明日も行こうって思ったの。

ーー

『最近ね、頑張ろうって思えるんだ。』

彼女は涼しい笑みでそう言った。

よかった。俺でも人を助けられるんだ。

そう思えたから。

『じゃあ、また明日。』

彼女は俺の好きな笑みで最後まで手を振ってくれた。

ーーーーーー

数日後だった。

学校に救急車が来た。

サイレンは鳴っていなかった。

鳴らす必要もないんだろう。

俺はただただ虚しくて悔しくて、自惚れていた自分を呪った。

彼女のあの最後の笑みは、何もかもどうでもよくなった笑みだったんだ。

また明日。

言葉一つでどうにもならない時もある。

でも、言わないで後悔するより、言って後悔する方がいいんだ。

それだけで、踏みとどまれる人も必ずいるから。

どうか、その勇気を与えてください。

奇跡をください。

5/21/2024, 10:48:20 AM

【透明】

『指定難病レベル6ですね。、、、今どちらに?』

目の前には気難しそうな医者がカルテを見つめている。

『目の前に、、ずっといます。』

医者は一旦かけていた老眼鏡を外し、顔を近づけてきた。

僕からすればポッキーゲームでもしなきゃ近づかない距離なのに、この医者は本当に僕が見えていないらしい。

今朝に突然やってきたんだ。

目を覚ましたら、自分がベッドに寝転がっている窪みが見えた。

何かがおかしいな。

そう思いながらも着替えて階下に降りた。

お母さんに挨拶をした時に、初めてわかった。

自分の体が透けていることに。

お母さんはショックから寝込んじゃったから、僕は1人で総合病院までやってきた。

難病指定をされたけれど、僕の体調に何の変化もないから実感が湧かない。

『とりあえず、入院で様子を見ながら、研究データを採取できればと考えています。入院費は研究所が負担してくれるので。』

そしてそのままあれよあれよという間に誓約書と保証書を書かされ、入院するハメになった。

あれからお母さんはお見舞いにも来てくれなくなった。

僕が見えないなら、来る意味がないと思ったのかもしれない。

最初は少し面白がってお見舞いに来てくれた友達も、
段々とこの状況に飽きてきたのか、それとも今になって不気味だと感じたのか、最近は誰1人として来てくれなくなった。

『優里君、大丈夫よ。みんな忙しいだけだからね。』

担当してくれている看護師の口癖はいつもそれだった。

ただの気休めにしか聞こえなくて、僕はやがて死にたいと思うようになった。

透明だから何だというのだ。

みんなに見てほしい。

相手にされてないのが悲しい。

苦しい、辛い。

そんな言葉ばかりが頭の中を交差して交差して。

最近は頭の中にいもしない誰かの声が聞こえるようになった。

『オイデ。コッチニオイデ。』

『クルシイヨネー。クルシイ、ツライ、シニタイヨネー。』

やがて声は黒い人の形を成していって、チリが集まり合って出来た不気味な人形に見えた。

『うん、行こう。君も見てもらえないの?僕と同じだね。』

気づけば、手を取っていた。

ーー

バタバタと慌ただしい病院内。

『先生!透明病の男の子が、、』

彼を担当していた看護師が担当医に切羽詰まって話す。

『いなくなりました、、』

医師は驚いた様子もなく、看護師に淡々と言い放った。

『ああ、よくあることだよ。』

看護師は唖然とし、持っていたバインダーを床に取り落とした。

『ああいう患者は、自分が理解されないと嘆き悲しみ、やがてあっちの世界のものに惹かれ連れて行かれる。だから指定難病なんだよ。患者の方が耐えきれなくなる。』

後始末よろしくね。

医者はそう言い看護師の肩をポンポンと叩き部屋を出た。

少年がいた病室のベッドには、時々そこに誰かがいるかのようにベッドの端っこが凹むそうだ。

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