【透明】
『指定難病レベル6ですね。、、、今どちらに?』
目の前には気難しそうな医者がカルテを見つめている。
『目の前に、、ずっといます。』
医者は一旦かけていた老眼鏡を外し、顔を近づけてきた。
僕からすればポッキーゲームでもしなきゃ近づかない距離なのに、この医者は本当に僕が見えていないらしい。
今朝に突然やってきたんだ。
目を覚ましたら、自分がベッドに寝転がっている窪みが見えた。
何かがおかしいな。
そう思いながらも着替えて階下に降りた。
お母さんに挨拶をした時に、初めてわかった。
自分の体が透けていることに。
お母さんはショックから寝込んじゃったから、僕は1人で総合病院までやってきた。
難病指定をされたけれど、僕の体調に何の変化もないから実感が湧かない。
『とりあえず、入院で様子を見ながら、研究データを採取できればと考えています。入院費は研究所が負担してくれるので。』
そしてそのままあれよあれよという間に誓約書と保証書を書かされ、入院するハメになった。
あれからお母さんはお見舞いにも来てくれなくなった。
僕が見えないなら、来る意味がないと思ったのかもしれない。
最初は少し面白がってお見舞いに来てくれた友達も、
段々とこの状況に飽きてきたのか、それとも今になって不気味だと感じたのか、最近は誰1人として来てくれなくなった。
『優里君、大丈夫よ。みんな忙しいだけだからね。』
担当してくれている看護師の口癖はいつもそれだった。
ただの気休めにしか聞こえなくて、僕はやがて死にたいと思うようになった。
透明だから何だというのだ。
みんなに見てほしい。
相手にされてないのが悲しい。
苦しい、辛い。
そんな言葉ばかりが頭の中を交差して交差して。
最近は頭の中にいもしない誰かの声が聞こえるようになった。
『オイデ。コッチニオイデ。』
『クルシイヨネー。クルシイ、ツライ、シニタイヨネー。』
やがて声は黒い人の形を成していって、チリが集まり合って出来た不気味な人形に見えた。
『うん、行こう。君も見てもらえないの?僕と同じだね。』
気づけば、手を取っていた。
ーー
バタバタと慌ただしい病院内。
『先生!透明病の男の子が、、』
彼を担当していた看護師が担当医に切羽詰まって話す。
『いなくなりました、、』
医師は驚いた様子もなく、看護師に淡々と言い放った。
『ああ、よくあることだよ。』
看護師は唖然とし、持っていたバインダーを床に取り落とした。
『ああいう患者は、自分が理解されないと嘆き悲しみ、やがてあっちの世界のものに惹かれ連れて行かれる。だから指定難病なんだよ。患者の方が耐えきれなくなる。』
後始末よろしくね。
医者はそう言い看護師の肩をポンポンと叩き部屋を出た。
少年がいた病室のベッドには、時々そこに誰かがいるかのようにベッドの端っこが凹むそうだ。
5/21/2024, 10:48:20 AM