駄作製造機

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3/16/2024, 10:33:17 AM

【怖がり】

『ほらー、早く来なよ!』

俺の手を引く小さな小さな手。

顔は見えない。もう何十年も前のことだからきっと、、覚えてない。

俺は子供の姿のまま、彼女に手を引っ張られている。

彼女は、、彼女の名は、、

ーー

ピピピピッピピピピッ

何とも、不思議な夢を見た、、気がする。

全部曖昧に、断片的にしか思い出せないが、懐かしい夢を見ていた。

朝。

まだ5時半。

睡眠時間、約2時間。

家を出るのは6時。

そこから始発で電車を乗り継いで、会社に行く。

『こんなことも出来ないのか!!使えねぇ無能だな!』

『すみません。』

『これ終わるまで帰るな!』

『はい。』

上司からの叱咤激励も日常になり、残業手当ても出ない。

そう。いわゆるブラック企業ってやつだ。

入社したての頃は上司も、社長もみんな優しくしてくれた。

一緒に入社した同僚は此処がブラック企業だとわかれば、スタコラさっさと辞めていった。

俺もその流れに乗って辞めようとした。

けれど、、

『お願いだ、君がいないと此処が回らないんだ!』

『君にかかってるんだ!』

優しい優しい上司達の引き止めにあい、入社3年目、未だ此処に止まっている。

なーんて、、こんなのただの言い訳。

ただ、俺が臆病だから。

昔っから、俺は危機を察知できる子供だった。

いや、ただ単に怖がりだった。

鉄棒が怖い、暗闇が怖い、お化けが怖い、キノコが怖い。

何でもかんでも怖がって遠ざけていた。

でもある時、近所に住んでいた小さな女の子に言われた。

『だっさ。』

と。

その一言が俺の言葉に刺さったし、何だか悲しくなった。

でもその女の子は、その悪口だけで済ませようとせず、殻に閉じこもっていた俺を外に連れ出してくれた。

たくさん、いろんなことに挑戦した。

動物が怖いと言えば、次の日ふれあいコーナーへ連れて行かれた。

虫が怖いと言えば、舗装も何もされてない天然物の山へ投げ込まれた。

お化けが怖いと言えば、近所の出ると有名な心霊スポットへ行ったりもした。

俺は最初、俺の嫌いな事を平然とやって俺にも強要してくるその子が心底嫌いで仕方がなかった。

けれど、登山をした時、息切れしながらも頂上へ辿り着いた。

その時に見た山頂の夕日が、今までで1番美しくて、何故か涙が出て来た。

その時俺は、達成感というものを知った。

怖がらずに、挑戦したらいい事もある。

もし、それが上手くいかなくっても、大丈夫。

『好きなだけ怖がったら、次する事は決意だよ。』

その子は、泣いている俺に向かって笑いかけた。

年相応に見えない言葉が印象的だった。

ーー

4時半。

いつもの時間に起きて、寝不足の頭のまま会社に行く。

でも不思議と眠たいのに俺の意識はハッキリしていた。

『、、決意、、しなきゃね。』

もう名前も思い出せないけれど、その子の言葉は俺の中にある。

怖がりな俺を、少しだけ変えてくれた勇気の言葉。

『『好きなだけ怖がったら、次は決意をする。』』

ギュッと懐にしまった辞表を握りしめた。

3/15/2024, 11:38:06 AM

【星が溢れる】

『紀穂〜!朝よ起きなさーい!』

騒がしい母に起こされ、私は起き上がる。

母の手を借りてベットを立ち上がり、手探りで着替える。

私の目が見えなくなったのは、理科の授業で実験をしている時だった。

炭酸水を作る至って簡単な実験だった。

だけれど、、

恐らく、重曹かクエン酸の量が少しばかり多かったんだ。

それでガラス瓶が破裂し、たまたま私の目に、、

実験中の事故として処理された。

学校からは保険金が出て、私は両目を失ったため補助用具を購入した。

両親は綺麗な私の目が見えなくなってしまったのが残念らしく、私を見る目が少し他人行儀で辛い。

いや、見えないんだけど、そう感じる。

親との距離がどんどん離れて行く感じがして、悲しい。

悲しい気持ちになった時は、毎夜星を眺めた。

でも、、見えなければ何千何万の綺麗な星々は視界に入らない。

『うぅ、、、寂しい、、』

今の私を照らしてくれる唯一の光は、、なかった。

ーーーーー

此処は盲目学校。

目が見えない、または少ししか見えない人が通う学校だから、お互いに協力し合って、自分をわかってくれる居場所を探す。

今まで付き合いがあった友人とも離れてしまって、転入という形で此処に来た私にとっては、此処はとても居づらい場所だ。

何人か話しかけてくれる人はいるけれど、それでも感じるのは、心そのものの距離だった。

次第に私は自ら壁を作り、みんなを遠ざけた。

昼休み。

学校の屋上で空を見上げる。

ただ、私の前には真っ暗闇。

あんなに大好きだった空も、星も、何も見えない。

『もう、、嫌い。』

全部が。ただひたすらに嫌いだった。

『君、、こんなとこ来ちゃ危ないよ。』

突然後ろから声がした。

振り返るけど、何も見えない。

白杖をつきながら声のした方へと進む。

彼もカツン、、と白杖をつきながら私に近づく。

2人の伸ばした手が、空中で重なる。

『っ、、、』

そのまま手を合わせ、お互いの距離を測る。

『あの、、あなたは?』

『僕は、筒塁照史。君は?』

彼の声はどんなものでも包み込む様な優しさを纏っていた。

『私は、、七海紀穂。』

彼女も自然と名前を名乗り、存在を確かめる様に手をギュッと握った。

ーー

彼との出会いは、今まで塞ぎ込んでいた自分を変えた。

彼は弱視だった。

ぼんやりと周りが見えるので、完全に盲目ではない。

彼は私の手助けを快くしてくれた。

どんな文句も言わず、どんな時でも私を1番に考えてくれた。

私は彼が出逢ってから、私は周りのみんなに『変わったね。明るくなったよ。』と言われる様になった。

彼は周りを明るくさせる星の様だった。

金星の様な綺麗で輝いた彼が、私は好きだ。

いつしか、彼に照らされた私の心には星が溢れていた。

3/11/2024, 10:28:56 AM

【平穏な日常】

多分、私はこの変わりない日常に飽きていたのだと思う。

それと同時に、この変わり映えのない日常が好きだった。

友達と遊んで、たくさん喋って。

家族と喧嘩して、仲直りして。

好きな人を見つけて、フラれて。

失って気づくのは、日常がどれだけ大切だったか、どれだけ愛していたか。

でも、好きだった日常は、本当は愛していた家族は、どれだけ願えど戻っては来ない。

空気にさらされればいつかは割れるシャボン玉の様に。

いつかは壊れる運命だったのかもしれない。

私はこの運命に抗う術を持ってない。

神殺しだとか、本当はするつもりはない。

神を殺したいとも思ってない。

だけれど、、

自分の能力を恨んだ事ならある。

これで、この能力のおかげで、どれだけの人の心を不安にさせ、良心を追い詰めたか。

私は私を否定している。

変わることはないだろう。

ーーーー

1952年、イギリスの山岳地帯付近の村。

そこで私は生まれた。

他のところより発展が少し遅いこの村は、まだ魔女狩りの概念が根強く残っていた。

そんな中、私は金髪とブロンドの両親から黒髪黒目で産まれてきてしまったのだ。

親には気持ちが悪いと罵られた。

村のみんなは私を魔女だと決めつけ、私を殺そうとした。

両親は気に病んでしまい、先に森の中で頭を撃ち合って自死した。

妹と私は訳もわからず逃げていた。

迫り来る銃声、怒声。

結果的に妹と私は捕まってしまい、妹は苦しまない様ギロチン刑、私は焼死させようということになった。

家族が死んでしまい、私は生きる気力を失っていた。

家族の最後の言葉は

"お前を産んでしまったから、、"

"お姉ちゃん、私はお姉ちゃんの妹だよ。"

だった。

嗚呼。失って気づくのは、家族の大切さでもあり、私がどれだけ守られ支えられて来たか。

もう誰も、私を知る人はいないだろう。

だって、、

私が殺してしまったから。

気がついたら、目の前は血の海だった。

さよなら。私の平穏な日常。

3/7/2024, 11:02:28 AM

【月夜】

『どうしても行かれるのですか。』

『ああ。行って参る。』

彼はそう言って出て行った。

私にとっての行って参るは、煩わしいものに他ならなかった。

誰も、戻って来なかったから。

行って参るは、いつしか嘘吐きの言葉と化した。

それでも私は送り出す。

彼の武士道に恥じぬ様に。

『、、行ってらっしゃいませ。』

歪んだ顔を見られない様、しっかりこうべを垂れて。

ーーーー

彼と出会ったのは、ただの見合いだった。

今のご時世、そういうのがつきものだ。

親のために結衣の儀をした様なもの。

だけれど、彼は私をしっかり人として見てくれていた。

私はただの後継ぎを生み出す道具でしかないというのに。

彼の武士道精神は他の人とは比にならないくらいしっかりしていた。

彼は必ず何処かに行く時には伝えてくれる。

遊郭などには言語道断。

最初から近づかなかった。

彼は私を愛している。信じている。

それが何よりの救いだった。

そして今回の戦も、彼は己の精神に基づき、弱気を助けるために赴いた。

私は信じている。

彼が私を信じて愛してくれているから。

ーーー

ガタンッ

彼が戦へと赴いてから約3ヶ月。

深夜、戸が軋む音がし目を覚ます。

月夜に照らされてこの3ヶ月間恋焦がれた人物が浮かび上がる。

『おかえり、、なさいませ。』

涙も拭かずに彼に思い切り抱きついた。

『ああ、今、帰った。』

2人抱きしめ合いながら。

彼はいつもの厳格な顔で私を見下ろしている。

嗚呼、、幸せ。

ーー

目が覚める。

『夢、、、』

着物の裾を破れるくらいに握った。

やっぱりだ。

やはりあの呪いの言葉は私を苦しめる。

彼はもう帰って来ない。

まだ闇夜に包まれている時刻。

『、、、』

私の背後には、憎たらしいほどに輝く満月が。

『月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身一つの秋にはあらねど』

あの人を思って唄を読む。

もう2度と帰って来ない、あの人を思って。

3/3/2024, 11:32:19 AM

【ひなまつり】

バタバタ

『たっだいま〜!』

午後4時半。

私は学校から帰る。

『おかえり!』

家には既に小学生の弟と2歳の妹が居間で遊んでいた。

『たでーま。お母さんは?』

続けて帰って来たのは中1の弟。

『あー、、今日も遅くなるみたい。』

『ふーん。』

私達は母子家庭で育っている。

毎日母親がいないのは当たり前で、長女の私が1番しっかりしないといけない。

『今日何が食べたい?』

『肉ー!』

『はーいもやし炒めね。偉いね勇将。』

『言った意味!』

弟の意見を聞かなかったことにし、弟の頭を撫でて料理に取り掛かる。

『むー、、』

『克平、茉里の面倒見ててくれる?』

『おーす!』

料理の間はみんなで協力する。

勇将には学校の課題をしてもらい、後から茶碗洗い。

克平は茉里と一緒に遊んで茉里から目を離さないようにしてもらう。

私が母親代わりだから、弟達もわがままを言いたい歳なのに大人になっている。

私がしっかりしないと。

『さ、出来上がり。いただきますするよー。』

『はーい。』

ちゃぶ台を囲んでみんなでもやし炒めと昨日作った低コストなおからの炒め物を食べる。

『食べ終わったら、勇将茶碗洗いお願いしますね。』

『うぃーっす。』

食べ終わった後は妹からお風呂に入らせる。

『う〜!お風呂やーだ!』

『こら、ヤダじゃないでしょ!ほら、早く入らないと克平にぃと遊べなくなるよ?』

駄々をこねる妹を動かすのにもかなり苦労する。

『こら、暴れないの!』

『わーい!あわあわ!あわあわ!』

シャンプーが目に入らないようにシャンプーハットをつけようとするのにも時間がかかる。

妹よ、、落ち着け、、

あがらせた後も時間がかかる。

『濡れてるから走らないでー!』

『うぉー!!』

ビチャビチャのまま床を走り回る茉里。

私はタオルを持ってワイシャツ姿のまま追いかける。

『茉里確保ー!』

そんな時に助かるのは長男の勇将の存在。

『ああ、ありがとう勇将。』

『ん。姉ちゃん茉里は俺が見てるから、克平の宿題見てやってくれ。』

勇将に重ね重ねお礼を言いながら居間へと急ぐ。

そこには撃沈している克平がいた。

『ほら、克平、さっさと終わらせてお風呂入って寝るよ。』

克平に宿題を教えながら明日の夕食を考える。

下の子達をお風呂に入らせた後は自分も入り、妹を寝かしつける。

『ねーんねー、ねーんねー、いい子だよー。』

寝た茉里を確認したら克平と勇将も寝かせる。

みんなが寝ているのを確認し襖を閉め、時計を見たらもう11時だ。

『ふー、、疲れた。』

ちゃぶ台に突っ伏し、静かな室内で今日の出来事を振り返る。

ガチャ

しばらくしてからお母さんが帰ってきた。

『おかえり。』

『ただいま〜今日もありがとね。』

お母さんは強い。

少し寝たらまた早朝に起きて仕事に行ってしまう。

母と話せる少ない時間を、寝て過ごすわけにはいかない。

『今日ね、学校でね、、』

お母さんは疲れてるのに、頷きリアクションしながら聞いてくれる。

『春陽、今日は何の日か知ってる?』

もしかして、誰かの記念日だった?

茉里の誕生日でもないし、克平の誕生日でもない、勇将の日でもないし、、

『わかんない、、』

『今日は、3月3日ひなまつりだよ。お姉ちゃん、いつもお母さんの代わりをしてくれてありがとね。』

そう言って渡してくれたのは小さいけれども可愛いお代理様とお雛様。

『、、うん。』

堪えてくる涙を唇を噛み締めて抑えながら、何とも愛らしい2つの人形を見つめる。

『これからも健やかな成長と健康を願ってるよ。』

久しぶりのお母さんのハグは、暖かかった。

寒かった私の体と、愛に飢えていた心を母は溶かし包んでくれる。

『ひなまつりは、お姉ちゃんの日だよ。』

今までずっと、頑張らなきゃと思って来た。

何でも、しっかりしとかないとダメだって。

『この日はお姉ちゃんは何もしなくていい。大丈夫。勇将達が支えてくれるからね。よく頑張ってくれたね。』

私にとってひなまつりって、実感がなかった。

だって私の家には雛人形なんて無いし、毎日毎日バタバタ忙しいからいつのまにか終わってるなんて事もザラにある。

でもこれからは、私のひなまつり。

3月3日は、ひなまつり。

お姉ちゃんのひなまつり。

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