ゆきしろ

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7/7/2023, 12:05:09 PM

「七夕祭り、一緒に行きませんか?」

小さく震えた声からは、緊張が滲み出ていた。
気になる異性をイベント事に誘ったことなんてないから、もし断られたらどうしようとか、直接会って誘うべきなのかとか、全くわからないまま廊下で出くわしてしまった彼に思わずそんな言葉を投げつけてしまった。

「…あ、俺?」

「いや、その。無理とかだったら全然いいの。蒼空くん忙しそうだし」

断られるのが怖くてか、早口で変な言い訳を連ねる。

「いいよ」

「…え、え?」

返ってきたのは、意外と軽い了承の言葉。

「ほんとに?ほんとにいいの?」

「うん。ちょうど雪菜ちゃんとどこか出かけたいなと思ってた」

そんな言葉で舞い上がって、それからは七夕祭りまでの日を毎日毎日数えて。
服も新しいのをわざわざ用意して、普段しないヘアセットなんかに力を入れたり。



そうして迎えた七夕祭り。
大きな笹に吊るされている色とりどりの短冊には、その数ほど人の願いがあるということを改めて感じられた。

「雪菜ちゃんは何おねがいするの?」

早速2人で書き始めた短冊。
彼は水色、私は白色。もうお願い事はとっくに書いたんだけれど、言うのが恥ずかしくてそっと短冊を隠す。

「内緒」

「じゃあ俺も内緒」

そう言って笑った彼。
身長の高い彼は上の方に吊るすけど、背の低い私は彼の位置からは明らかに見えてしまう。

「飾ってあげようか?」

わかっていながら、ちょっぴり意地悪そうに聞いてくる彼の表情は初めて見た。
普段とは違う彼に少しドキッとしたけど、こんなお願い事を見られる訳にはいかないので、沢山短冊が吊るされている場所に紛れさせた。

それを見てまた笑った彼。

「面白いね。もっと雪菜ちゃんのこと知りたくなっちゃった」

そんな一言にすらドキッとしてしまう。
あ、もしかして今お願い事、叶ったかも…。







────もっと仲良くなれますように。







テーマ:七夕

6/29/2023, 2:01:49 PM

梅雨入り前だけれど、夏の暑さが訪れ始めていた。



高校に入学して、約2ヶ月も経つというのに、せっかくのJKライフを謳歌せず、図書室に入り浸っていた私は、気になる人がいた。
図書室にいるのは、いつも同じような顔ぶれ。
その中でも、一際目を惹くのが彼だった。
図書室だから当たり前なのだけれど、それでも他の人とは違う、落ち着いた雰囲気。
上履きの色は、私と同じ学年を示す赤色。
いつでも私より先に図書室にいる彼を、いつの間にか目で追っていて、いつしか図書室以外でも彼を探すようになっていた。



そんなある日に、珍しく私は彼より先に図書室に訪れていた。
今日はいないのかと少し肩を落としながら、今日読む本を探す。前々から気になっていた本があったな、とその本を探しつつ、本棚を回っていく。


あった、と目に付いた本は、低身長の私には届かないような上の段に置いてある。かといって他の人に頼むのも恥ずかしいし、司書さんも今日に限ってお休みだ。
いや、なんとか届きそうだろうか。
低身長だってやる時はやるのだ。
変なプライドを捨てきれず、脚力を頼りにその場で跳び始めたのは、今思い返せばかなり恥ずかしい。

「あ、」

「…これ、取りたいの?」

まるで、夢見ていた少女漫画のワンシーンのように、私の後ろから伸びた腕が目的の本を掴み取った。

「あ、ありがとうございます…」

目線ははるか上。
普段は座っていたからあまりわからなかったが、彼は驚く程に身長が高かった。

にこりと笑った彼は、私に本を渡すと軽く会釈をして戻ろうとした。

「あ、の!」

思わず出た言葉だったけど、チャンスだと思ったから、止められなんてしなかった。

「お名前、なんですか!」

「…白井 蒼空(そら)です」

その日は、青い空に真っ白な入道雲が浮かんでいた。



テーマ:入道雲

6/19/2023, 2:46:51 PM

相合傘なんて、そんなの恋人がするものだと思ってた。

晴れになっていた天気予報には、どうやら裏切られたらしく、生憎の雨だった。
もちろん傘なんて持ってきていない。
今日に限って委員会で遅くまで残っていたから、仲のいい子なんてみんな帰ってしまっていた。

仕方ないから制服のブレザーを頭に被り、走り出そうとした時だった。
大きな影が私の足元に落ちる。

「それはさすがに風邪ひくよ」

片想いしている彼だった。
嬉しさと同時に、ブレザーを被っているのが恥ずかしくなって、直ぐに頭から取った。
それを見てくすくすと笑っている彼の笑顔もまた、好きだった。

「送ってくよ」

学校から駅までの10分間。
たった10分間だけれど、きっとすぐに過ぎ去ってしまう。だって、君との相合傘なんて、ドキドキしてたまらないから。


お題:相合傘

6/16/2023, 1:12:38 PM

2年前はちょうど、好きな人ができたころだった。

彼女はいるのかなとか、私の事どう思ってるんだろうとか、自分磨きしてた。

だんだん距離を縮めて、体育祭では写真を撮って、ペアダンスを一緒に踊った。

夏休みは2人きりではないけど一緒に遊園地に行った。
沢山写真を撮った。

文化祭ではたまたま一緒に回ることが出来て、調子に乗って苦手なお化け屋敷に入ったりして。
後夜祭で上がった、小さくても立派な花火を見ながらまた来年も回りたいねって話をした。

後夜祭が終わったあと、今度近所で花火大会があるから、今度は大きい花火を見に行こうと誘われた。

珍しく冬に行われた花火大会では、寒くても彼が隣にいるからか、ずっと熱かった。
私は彼の横顔ばかり見ていて、花火に集中したのなんてほんの少しだった。

クリスマスには、初めて2人きりで出かけた。
映画を見て、軽くショッピングをして、イルミネーションを見た。
お互いクリスマスプレゼントを交換したりなんかもして、なんだか恋人みたいだと思った。

そのうち年が明けて、一緒に初詣に行った。
彼が凶で、私が大凶。こんなことあるんだと2人で笑って、逆に運がいいかもね、なんていいつつ、おみくじを結んで帰った。

バレンタインはもちろん彼にチョコを渡して、周りに騒がれたけど、彼も少し顔を赤らめていたのを見てまさかと、少し浮かれた。ホワイトデーのお返しもきた。写真を撮ろうと言われ、撮った写真は、初めて写真を撮った時よりも遥かに距離が近くなっていた。


終了式の日、私の教室にわざわざ来た彼は、私にある手紙を渡した。
こんなこと初めてで、メールで言えばいいのにどうしたのと聞いた気がする。

「照れくさいから」

そう言って笑った彼。改まってどうしたんだろうと思った。

「始業式の日に開けて」

中身は気になったけど、絶対ね、と念を押され、私は大人しく中身を見ずにバッグへしまった。

「ばいばい」

と手を振った彼に、私もいつものように手を振り返した。




そして新学期、張り出されたクラス替えの名簿に、彼の名前はどこにもなかった。
探しても探してもなかった。




海外転勤なんて、聞いていなかった。
最初から言ってくれれば良かったのに。



連絡先もSNSも、気づいたらすべてブロックされていた。



泣きながら開けた手紙には、ギリギリまで黙っていたこと、一緒に過ごした時間はすごく楽しかったこと、自分の忘れて欲しいという旨が書いてあった。




それから1年が経った。
私は彼とすごした日々の写真を、まだ消せていない。


テーマ:1年前