ゆきしろ

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梅雨入り前だけれど、夏の暑さが訪れ始めていた。



高校に入学して、約2ヶ月も経つというのに、せっかくのJKライフを謳歌せず、図書室に入り浸っていた私は、気になる人がいた。
図書室にいるのは、いつも同じような顔ぶれ。
その中でも、一際目を惹くのが彼だった。
図書室だから当たり前なのだけれど、それでも他の人とは違う、落ち着いた雰囲気。
上履きの色は、私と同じ学年を示す赤色。
いつでも私より先に図書室にいる彼を、いつの間にか目で追っていて、いつしか図書室以外でも彼を探すようになっていた。



そんなある日に、珍しく私は彼より先に図書室に訪れていた。
今日はいないのかと少し肩を落としながら、今日読む本を探す。前々から気になっていた本があったな、とその本を探しつつ、本棚を回っていく。


あった、と目に付いた本は、低身長の私には届かないような上の段に置いてある。かといって他の人に頼むのも恥ずかしいし、司書さんも今日に限ってお休みだ。
いや、なんとか届きそうだろうか。
低身長だってやる時はやるのだ。
変なプライドを捨てきれず、脚力を頼りにその場で跳び始めたのは、今思い返せばかなり恥ずかしい。

「あ、」

「…これ、取りたいの?」

まるで、夢見ていた少女漫画のワンシーンのように、私の後ろから伸びた腕が目的の本を掴み取った。

「あ、ありがとうございます…」

目線ははるか上。
普段は座っていたからあまりわからなかったが、彼は驚く程に身長が高かった。

にこりと笑った彼は、私に本を渡すと軽く会釈をして戻ろうとした。

「あ、の!」

思わず出た言葉だったけど、チャンスだと思ったから、止められなんてしなかった。

「お名前、なんですか!」

「…白井 蒼空(そら)です」

その日は、青い空に真っ白な入道雲が浮かんでいた。



テーマ:入道雲

6/29/2023, 2:01:49 PM