蒼ノ歌

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2/6/2024, 8:50:41 AM

『溢れる気持ち』

最初のうちは自覚症状はない。
何故なら私の場合ドバッと溢れるものではないから。
身体の芯から垂れ流れて、
足元に水溜りが出来ていることに気づいてようやく、
良くも悪くも固執していると、
気持ちが溢れていると、
自覚する。

2/5/2024, 9:31:02 AM

『Kiss』

しっかり記憶に残っている口付けは親戚の結婚式。
笑窪が可愛い新婦さんとクールに見える新郎さん。
新婦さんが美しく屈む。
新郎さんが、木漏れ日の様な優しい色合いのヴェールを少しぎこちなく後ろへと下ろしてあげる。
新婦さんの笑窪がまた見えた。
その笑窪につられてか、新郎さんも自然と笑っている様だった。
2人は恥ずかしそうに正面に向き直る。
少し俯いた後、2人は...。
「あぁ、これが...」
これが、『触れるだけのキス』なのだと初めて解った。
今までマンガや小説でしか「みた」ことがないそれは、どんな字面よりも可憐であった。

1/28/2024, 5:57:10 AM

とある冬の昼下がり。
ストーブは要らない。
八畳ほどの私の部屋は何も動かずに、それでいて壁の軋む音が聞こえた。
結露した窓から、似た様な家々とそれから時々車と飛行機の音。
千草色に、もすこしホワイトを足して混ぜたような空は、チャイムを一際映えさせた。
界隈曲が私を違う道へと案内する。
少し、そうほんの少しだけ、周りが淡く見える。
日に焼けた攻略本、箱から出したままのジグソーパズル、削りカスが少し残った鉛筆削り、3年前に買ったアシカのぬいぐるみ、毛玉の残る紺のセーター。
これではまるで時が止まっている。
止めたのは、私なのかも、しれないが。
ズボンに糸屑が付いていた。

横に置いていたスマホを立ち上げ、レンズを構える。
今この瞬間を何故だか忘れたくなくて、シャッターを切った。
耳鳴りがした。
「、、、 。」

12/21/2023, 9:38:40 AM

『ベルの音』

何処か遠くで鐘が鳴っているようだった。
私の住む街でもなく、隣街で鳴っているわけでもない。
ただ、それが「合図」なのだ。

街の皆はその鐘の音を合図に、一斉に動き出す。私もその1人だ。
ここから1週間はかなり忙しくなる。ポストを確認し、服を新調して、埃を被った赤のボディを車庫から出し、可愛い我が子のツノを磨いてやる。手間暇かけて1週間を有意義に過ごす。どうやら最近では色々とレンタルできるらしいが、それは性に合わなかった。

今年、私に届いた手紙は24通。
一昔前までは100件だなんてざらにあったというのに。毎年少なくなる紙束に不安が募った。
近年、欲しいものを手に入れる事が容易になり、私達が居なくとも困らなくなってきているらしい。
それでも、こうして送られてきた手紙を前に喜ばずにはいられなかった。
『あたらしいクツを下さい』
『クッキーとミルクをよういしてまってます』
『くつしたのなかに入れておいて下さい』
『ゲームきをよろしくおねがいします』
『いいこでまってます』
内容は様々であった。自然と笑顔になっていくのが自分でもわかった。
確認が終わると、買い出しをしに私は家を出た。
また遠くで鐘が鳴った。

11/15/2023, 10:39:12 AM

『子猫』

多分キミは子猫で

言葉は分からないけれど

何故だか懐かしくて

キミはヒトじゃないのに

ヒトより温かい気がして

アンバーの瞳はまるであの日の黄昏時

また一緒に海岸線を歩こう

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