蒼ノ歌

Open App

『ベルの音』

何処か遠くで鐘が鳴っているようだった。
私の住む街でもなく、隣街で鳴っているわけでもない。
ただ、それが「合図」なのだ。

街の皆はその鐘の音を合図に、一斉に動き出す。私もその1人だ。
ここから1週間はかなり忙しくなる。ポストを確認し、服を新調して、埃を被った赤のボディを車庫から出し、可愛い我が子のツノを磨いてやる。手間暇かけて1週間を有意義に過ごす。どうやら最近では色々とレンタルできるらしいが、それは性に合わなかった。

今年、私に届いた手紙は24通。
一昔前までは100件だなんてざらにあったというのに。毎年少なくなる紙束に不安が募った。
近年、欲しいものを手に入れる事が容易になり、私達が居なくとも困らなくなってきているらしい。
それでも、こうして送られてきた手紙を前に喜ばずにはいられなかった。
『あたらしいクツを下さい』
『クッキーとミルクをよういしてまってます』
『くつしたのなかに入れておいて下さい』
『ゲームきをよろしくおねがいします』
『いいこでまってます』
内容は様々であった。自然と笑顔になっていくのが自分でもわかった。
確認が終わると、買い出しをしに私は家を出た。
また遠くで鐘が鳴った。

12/21/2023, 9:38:40 AM