koromo(全てフィクションです)

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3/26/2024, 5:44:22 PM

ないものねだり

「ここ最近天気悪いよねー。」
「そうだねー。この一週間はずっとこの調子みたいだよ、今朝天気予報で言ってた。なんか元気ないね、紗希。」
「そうなんだよー。やっぱ雨だと気分上がらなくてさー。」
君と私は傘を並べて帰り道をたどった。
いつもどおり。
お互い喋ることもなくなって、傘の内に雨音だけが響く。
アスファルトの上はもう所々に水たまりができていて、ぎりぎり濡れない場所を渡って歩く。
ローファーが濡れていた。
こんなに雨が降っても電柱のそばに咲いた花は太陽があるのであろう方向に顔を向けていた。
生きてるんだなあ。

突然、私の視界の隅に映る君の足元に傘が落ちた。
顔を上げると君は傘をすてたまま走り出した。
少し行ったところで立ち止まって、勢いよくこっちを振り向いた。
降り続く雨で、すでに髪も制服もびしょ濡れになっていたけれど、君は無邪気に笑って見せた。
息を飲んだ。
まるでやってやったとでも言っているかのような、とびきりのあの笑顔が私には眩しいほどに輝いて見えた。
あの瞬間だけは、電柱のそばに咲いていたあの花も君の方向を向いていたに違いない。
鉛のような雨雲の下、この地上に、私の目の前に、
一つの太陽があった。

君のようになりたかった。
でもそんなことはできないから、今はまだそばにいさせて欲しいと心の中で願った。

私が持っていないものは全て、君が持っているような気がした。

だからこそ、あの日君と見た遠い夢を叶えられる気がしたんだ。
空に星が舞う静かな夜に、二人で草原に寝転がって星空を見た。
「きっと今ならあの星たちの一粒を掴めるよ。」
「おーなんか懐かしいね。掴めるかな。」
そう言って君はおもむろに宙へ手を伸ばす。
「頑張って」
「あんたもやるのー!」
美しい星空で満ちた私の視界に君が入ってくる。
君は私の腕を引っ張ってなんとか星を掴ませようと頑張る。
とうとうおかしくなって二人で笑ってしまった。

静かな心地いい時間が流れた。

「私ね、あんたみたいになりたかったの。」
君は言った。
「知紗いつも静かで何考えてるのか分からないときもあるけど、本当はすごくいろんなこと考えてて、周りをよく見てる。私はあんまり頭良くないからそういうの苦手で、それで周りからもっとちゃんとしろーって言われてばっか。知紗が羨ましいとも思ってた。眩しかったの。私にはできないことを知紗は当たり前のようにやってのけるんだから。」
私は驚いた。紗希がそんなふうに思っているなんて考えてもみなかった。ずっと、眩しいのは紗希で憧れるのは私だったから。

「私もずっと紗希に憧れてた。紗希みたいになりたいって考えたこともあるよ。いつも危なっかしくて見てて怖いときもあるけど、無邪気で明るくて太陽みたいで、笑ってる紗希を見るとこっちも元気出るって言うか、私が持ってないもの全部、紗希が持ってるような感じがして…眩しいのは紗希だよ…」
ちゃんと言葉になってるんだろうか。
早口すぎたのは確かだ。動揺しまくっている。

「なにそれー?後出しずるいよーまったく。」
君は笑って言った。
続けて言う。
「知紗の言いたいことわかるよ。知紗は私にないものを全部もってる。私もそう思ってたから。今までずっと一緒にいて、ずっと同じこと考えてたなんておかしいね。ほんと、人間ってどこまでないものねだりなんだか。」
「ほんとだね。けど紗希がそんなふうに考えてたなんてびっくりだよ。」
「そー?まあ私もびっくりしたかな。」
「あれー後出しー??」
「私はいいのー!」
「なにそれ理不尽すぎない!?」


静かな月と明るい太陽。星々は彼女たちをずっと照らしていた。

3/25/2024, 3:40:59 PM

好きじゃないのに

「それじゃあみんな年内の活動とか自分のプロフィールとか、書く欄がそれぞれあるから書いて持ってきてねー。提出は今月中。進路に出す書類の参考になる資料だからしっかりねー。」

『今年の振り返り』…。
困った。
活動内容はさておいて、問題は自分について。
プロフィールとか書くの苦手なんだよね。
得意なこと、苦手なこと、頑張ったこと、自分について。
自己分析はたぶん得意な方だと思う。
だけどこうやっていざ文字に起こすとなると頭を抱える。

…とりあえず得意なことは「空気を読むこと」と書こうか。
私は空気を読むこと専門に生まれてきたんじゃないかと疑うぐらい空気が読める人間だと思う。
空気読めるというか、読んでる。
当たり前かもしれないけど、もともと人とのいざこざとか揉め事とか超苦手だし、そもそも人間関係が面倒だと思う人だから空気を読むのは初期装備と同じような感覚。
なんせ空気読まなきゃあとが怖い。
空気悪いときは、あははーって言って話題変えるし最悪その場から何食わぬ顔で逃げ出す。
まったく、ああいう場面って本当にきらい。

たぶん私と同じような人は空気読むのって当たり前だと思ってるから、空気読めない人が苦手。
空気読めない人に遭遇すると、
「何考えてんだこの人!!空気読めよばか!!!こっちがどれだけ察して空気読んでるかも知らずになんてことしやがる!!!!」っていう声がずっと心の中でこだましてる。

空気読むのが当たり前だと思ってると、つい度が過ぎちゃうこともあって、あそこまでしなくてもよかったなあと後になって後悔することもしばしば。
相手に全部合わせちゃってなんの話してるんだかわからなくなったり、その延長で、名前すら聞いたことないまじで知らない地下アイドルの古参みたいな感じで認識されて会話終わってたり。
好きじゃないのに好きって言ってみたり、好きなのに好きじゃないって言ってみたり、いろいろ頭の中で矛盾が生じてしまってパンクしそうになることもある。

空気読むのって社会的にはめちゃめちゃ大事なスキルだけど、やりすぎると自分の首を絞めることになるし、自分を押し殺してまですることじゃないのかなとも思ったりする。
やっぱり何事もやりすぎはよくないね。
ちょうどいいさじ加減が大事。
それが一番難しいんだけどさ。



…やばいやばいやばい!
「空気読むこと」以外なんも書けない!!!

3/24/2024, 1:47:48 PM

ところにより雨

“今日はよく晴れた暖かい一日となりましたね。では、あすの天気を見ていきましょう。あすは低気圧の影響で曇りとなる見込みです。夕方からはところにより雨になるでしょう───”

明日は曇のち雨。
ニュースをかけながら夕飯の支度をすすめる。
今夜はハンバーグだ。それもただのハンバーグじゃない。今日は贅沢にチーズインハンバーグ。
私の大好物。

今日はいい天気だった。いい一日だったかもしれない。
なんだか天気がいいと気分も補正されているような気がする。
今朝の星座占いは最下位だったけれど、上々。
天気がよかったり、占いがよかったり、綺麗な空模様を見れたりするだけで最高に幸せな気分になれる。
単純と言ってしまえばそれだけにすぎないんだろうけど、これぐらいが気楽でいい。
気楽に、楽しんで生きたい。
一つだけでいい、何かしら笑顔になれることがあれば十分。
ずっと幸せを噛み締めていたい。

最近ずっと気分が落ち込んでいた。
何かがあったわけじゃない。ただ、なんとなく。
何のために頑張ってるのか、これは果たして自分のできる最善のことなのか、って考えて空回ってた。
けどそんなことどうでもよくなるぐらいに今、いい一日だったと思えてるから、単純でいてよかったとも思う。

結局思い込みが一番大事。
朝が来てなんとなくいい一日になるって思えばいい一日になって、よくない一日になるかもって思えばよくない一日になっちゃう。
そんなもん。
だから、天気とか占いとかって人の気持ちをコントロールする力があると思ってる。
朝一番に見るし、なんとなくやったーとか、いやだなあとか思うから。
自分で言ってるし、占いとかあんまり見ない方がいいと思ってるんだけど、やっぱ見ちゃうよね。
気になるじゃん。
1位2位とか、大吉小吉とかそういうのじゃない占いならいいのかもしれない。

そんなこんなでハンバーグも仕上げ。

明日は雨降るかもしれないけど気分を下げる必要はない。なんとなく明日もいい日になる気がする。
思い込み大事。
きっといい日になる。

3/23/2024, 2:12:34 PM

特別な存在

記憶の中の決して戻ることのない日々にいる彼らはいつまでも私の特別な存在。
何気ないありふれたものだったはずだ。
けれど、二度と帰ってこないあの日常がたまらなく愛おしくて、かけがえのないものになった。

過去に戻ることはできないから、いい思い出はこれ以上ないほどに美しいカバーをかけられる。
戻ることができてしまったらきっと、美しくもなんともないんだろう。
無情にも時は止まることなく、戻ることなく進む。
だから忘れ去られてしまうことがあって当たり前で、それでもなお覚えていたいと思う記憶がずっと鮮明に宝石のように光り輝く。
届くことはない。だからこそ眩しい。

時の流れによって少しづつ形が変わってしまったとしても、その記憶たちは美しい形になるように、綺麗な形になるようになっている。
今の私が思い出すあの日々の記憶は、どれをとってもキラキラしていて眩しい。
何気ない日々がかけがえのない日々へと変わるのは、それが二度と戻ってこなくなる時だ。

記憶の中の特別な存在。
かけがえのない愛しい日々を共に過ごした仲間。
彼らはずっと美しく綺麗なままで、私の記憶に映っている。

3/22/2024, 1:02:02 PM

バカみたい

私がもう一人いたらいいのにと何度も思う。
本当の私を知ってる人はいない。
誰にも私の核には触れさせない。
そうしたいからそうしてるのに、時々それがどうしてもしんどくなる。

私の核に触れるのは、きっといつか出会う人生の伴侶だけでいい。
私は人と話すとき、いつも厚い壁を作る。
誰も傷つけないように、平和に終わるように。
自分自身も仮面をつけながら、距離を取りながら。
本当にたまにだったけど、私の意見を人に言うことがあった。
明らかに私を傷つけに来ているような人だったから対抗せずにはいられなかった、というか私にも意思があることを伝えたかった。
でも結局、真っ向から否定されるだけだった。
後悔した。
人とは壁を作らないといけない、私の核に触れさせてはいけない、そう強く思った。

私はたぶん、人より精神年齢が高いから周りの人が幼稚に見える。
だから人が他人を嘲笑して「幼稚だよね」とか言ってるのを見るとつくづく滑稽だなと思う。
どっちもどっちだろ。
本当バカみたい。

私は他人の意見を理解しようと努力するし他人の価値観を尊重する。
私なりに考えをもって他人と関わってる。
違う私を作って演じる。
それでいい。
全部平穏に終わらせるにはそうするしかない。
だから仕方ないんだ。
本当の私を理解してくれる人はいない。

私がもう一人いたら、バカみたいだねって本当に苦労しちゃうよねって言い合えるのに。
人と関わるのは本当にめんどくさい。

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