やりたいこと
今までいくつもの夢を描いてきたけど、
どれも自分じゃない誰かの都合のいいように語って
どれも空回りした。
そんなんだったから自分が本当にやりたいことなんてよく分からない。
その場にいる誰かのために思ってもないことを口走って、
自分って呆れるほど中身がないよなって落ち込む。
作文とか習字で自分の夢を書くような、ああいうイベントが本当に嫌いだった。
なんて書くのが正解なんだろうって考えてるだけの時間だった。
そんなこと聞かないでほしいとさえ思ってしまう自分がもっと憎い。
こんなに中身のない自分が何を語れるんだろう。
今追いかけてる夢だってすぐに捨ててしまえるようものなんだろうって思ってしまう。
全部空っぽだよ。
虚しいだけだ。
たとえ間違いだったとしても
諦めなくていい。
自分がやりたいことをしていい。
まだ始まってすらいないんだ。
みんなが等しいように世界へ生み出されている。
平等に与えられた限りのある時間の中で「何ができる、できない」なんて重要なことじゃない。
私たちは、先に続く時間がまるで永遠かのように錯覚しがちだ。
それというのは私たちが思うよりも遥かに短くて呆気なくて、ふと目を逸らせば終わってしまうようなそんなものなんだ。
わかるだろう。
諦めなければいけないことなんてないんだよ。
私たちには限りがある。
優先順位をつけていい。
自分を優先していいんだ。
人の生き様に正解も不正解もない。
誰かにその舵を取らせて、自分の気持ちを押し殺したりする必要なんてない。
人間は思考する生き物だ。
たとえ間違いだったとしても、また考えてやり直せばいい。
最初から諦めなければいけないことなんてないんだ。
ハッピーエンド
人は俺に「僕、私を殺してほしい」と言う。
これが俺の仕事だから。
死にたい、でも死ねない、
そんなやつを殺してあげる仕事。
この仕事は世間的に見たらものすごく非人道的で基本批判の対象にしかならないし、そもそも殺しを職とするやつは人扱いされていない。
人は人を幸せにするために働く。
この仕事だってそれは変わらない。
だから俺はこの仕事に誇りを持っている。
殺しを依頼するやつらは死ぬことで柵から解放され、初めて自由になれると信じてる。
そいつらにとっては死が幸せにつながるんだな。
死の先に何かがあると思ってるやつもいる。
死は“終わり”だ。
“その先”なんてないんだよ。
だから、やつらのハッピーエンドは“死”そのものなんだ。これまでの辛い思いや苦しい思いを断つ、その瞬間こそが搾り取ったような安らかな幸せなんだ。
この世界で死んだことがあるやつは一人としていない。だから死んだあとの世界なんて知る由もない。
だけど俺にとっちゃたかが知れてんだ。
こんな俺のハッピーエンドはどこにあんだろうな。
そんなもの求めちゃいけないことぐらい分かってんだけどさ。
見つめられると
「なーにー?」
友人が私の顔をまじまじと覗いてくる。
彼女は私の瞳を見つめている。
「そんなに見つめられると照れちゃうなあ。」
「そんなんじゃないってー、さくらにはどんな風に世界が見えてるのかなーって。」
私は色に弱い。
おそらく色弱と言えるほど重度ではないし、色に弱いと自覚したのも割と最近のこと。
遠くからものを見て色を判断するのは難しい。
確かに見えずらい色もあって、黄色は白に見えるし、青と紫の区別も難しい。
私が色に弱いと確信を持ったのは、あの黒いアウターかわいいって言ったときに一緒にいた友人に
「あれ、ちょっと濃い緑だよ?」って言われたときだった。
今まで色に弱いという自覚があまりなかったのは日常生活に支障がなかったからだ。
今もこれといって支障はない。
それ以降これがひどくなって日常生活に支障が出てくるのではと思い、少し怖くなった私は色弱について調べりした。
色弱といってもやはり人によって見えにくい色の組み合わせが違ったり、暖色、寒色など偏りがあったり様々だった。人によって世界の見え方が違うということは小さい頃から認識があったけれど、自分が色に弱いということに気がづいて身をもってそれを実感した。
友人が私の見ている世界を見ることはできないのと同じように、私も他の人の見ている世界を見ることはできない。
私は友人の瞳をじっと見つめた。
「なになに?そんなに見つめられると照れるな。」
「そんなんじゃないって。あいが見てる世界はどんなのー?」
My Heart
かつて少女の世界は色や光や音に満ちた美しいものだった。
少女の触れたものは、色や光を失ってしまったどんなものでも鮮やかな色彩を取り戻した。
しかし突然、少女の世界は色も光も失われ、少女の心もまた色褪せていった。
少女は心を失ってしまったのだ。
自分の名前すら忘れ、ただひたすら光のない世界を一人彷徨っていた。
ある日、少女は空から降る小さな音の粒を見つけた。少女は一粒一粒それを丁寧に集めた。
するとそれは一つのメロディーとなり、少女の耳に心地よい歌を奏でた。そのメロディーは少女を優しく包み、きらきらと光を放った。それはかつて少女が愛した人が少女に贈った歌だった。
私はアイリスが心を失ってしまったことを知り、アイリスのいる世界へと届くように音を紡いだ。
届かないかもしれない。それでも歌い続けた。
どうか届いてほしい。
砕け散っていたアイリスの希望の欠片を拾い、繋ぎとめようとしたけれど、その欠片は酷く粉砕され元の形へと戻すのは難しかった。
それでも私は諦めなかった。私もアイリスのいないこの世界に希望などなかった。アイリスが心を取り戻してこの世界へと戻ってこれるのならば、私はどうなっても構わない。
「私の心をあげる───」
そう言い放ち、少女の愛した人は自らの心を割った。
その瞬間、少女の目は希望の色で満ちた。
あの歌が響き、少女の世界に光のオーラが現れ、徐々に色や光や音を取り戻した元の美しい世界になり、再び心を宿した。
少女はかつての自分を思い出し、走り出した。
「目を覚まして…!心を失った私に音の粒を届けてくれたのも、私なんかのために心を割ったのも全部セレナ…なんでこんなこと…神様お願い、セレナを助けて!!」
私はうっすらと目を開けた。アイリスが泣いている。
「アイリス、もう泣かないで。私はアイリスを泣かせるために心を割ったんじゃない。私は大丈夫だから。泣かないで。笑ってよ。」
するとアイリスはさらにひどく泣き始めた。こんなはずじゃなかったのに。
「もう目覚めないかと思った…」
「そんなわけないじゃない。アイリスの能力は色彩の再生だけじゃなかったでしょ?アイリスの涙は枯れた大地に生命を吹き返す雨になる。私に雨を与えてくれてありがとう。私を救ってくれたのはアイリスだよ。あなたは私の希望同然。だからもう『私なんか』なんて言わないでね。」
アイリスはまた目に涙を浮かべた。けれども、今度は泣かなかった。
アイリスはしばらくしてハッとなにかを思い出したようだった。
「セレナの能力は光の調和だけじゃない…セレナの歌声が光を集めて私の暗闇に光のオーラを作り出してくれたんだね。ちゃんとセレナの歌、届いてたよ。ありがとう。」
二人は二度と色や光や音が失われない世界を作るために、共に歌い世界を希望の色と光で満たした。
セレナとアイリスの歌は世界中に広がり、永遠の旋律として歌い継がれることとなった。