koromo(全てフィクションです)

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My Heart

かつて少女の世界は色や光や音に満ちた美しいものだった。
少女の触れたものは、色や光を失ってしまったどんなものでも鮮やかな色彩を取り戻した。
しかし突然、少女の世界は色も光も失われ、少女の心もまた色褪せていった。
少女は心を失ってしまったのだ。
自分の名前すら忘れ、ただひたすら光のない世界を一人彷徨っていた。

ある日、少女は空から降る小さな音の粒を見つけた。少女は一粒一粒それを丁寧に集めた。
するとそれは一つのメロディーとなり、少女の耳に心地よい歌を奏でた。そのメロディーは少女を優しく包み、きらきらと光を放った。それはかつて少女が愛した人が少女に贈った歌だった。



私はアイリスが心を失ってしまったことを知り、アイリスのいる世界へと届くように音を紡いだ。
届かないかもしれない。それでも歌い続けた。
どうか届いてほしい。
砕け散っていたアイリスの希望の欠片を拾い、繋ぎとめようとしたけれど、その欠片は酷く粉砕され元の形へと戻すのは難しかった。

それでも私は諦めなかった。私もアイリスのいないこの世界に希望などなかった。アイリスが心を取り戻してこの世界へと戻ってこれるのならば、私はどうなっても構わない。



「私の心をあげる───」
そう言い放ち、少女の愛した人は自らの心を割った。

その瞬間、少女の目は希望の色で満ちた。
あの歌が響き、少女の世界に光のオーラが現れ、徐々に色や光や音を取り戻した元の美しい世界になり、再び心を宿した。
少女はかつての自分を思い出し、走り出した。



「目を覚まして…!心を失った私に音の粒を届けてくれたのも、私なんかのために心を割ったのも全部セレナ…なんでこんなこと…神様お願い、セレナを助けて!!」
私はうっすらと目を開けた。アイリスが泣いている。
「アイリス、もう泣かないで。私はアイリスを泣かせるために心を割ったんじゃない。私は大丈夫だから。泣かないで。笑ってよ。」
するとアイリスはさらにひどく泣き始めた。こんなはずじゃなかったのに。
「もう目覚めないかと思った…」
「そんなわけないじゃない。アイリスの能力は色彩の再生だけじゃなかったでしょ?アイリスの涙は枯れた大地に生命を吹き返す雨になる。私に雨を与えてくれてありがとう。私を救ってくれたのはアイリスだよ。あなたは私の希望同然。だからもう『私なんか』なんて言わないでね。」
アイリスはまた目に涙を浮かべた。けれども、今度は泣かなかった。
アイリスはしばらくしてハッとなにかを思い出したようだった。
「セレナの能力は光の調和だけじゃない…セレナの歌声が光を集めて私の暗闇に光のオーラを作り出してくれたんだね。ちゃんとセレナの歌、届いてたよ。ありがとう。」



二人は二度と色や光や音が失われない世界を作るために、共に歌い世界を希望の色と光で満たした。
セレナとアイリスの歌は世界中に広がり、永遠の旋律として歌い継がれることとなった。

3/27/2024, 1:26:36 PM