貴方に似た、あの人。
同じ赤色の本が目の前の棚にあるか、手の届かない高い棚にあるかの違いで。
作者も内容もちがうんだろうけど、私はどちらの本も読んだことがない。
だから、どっちを取ったって順番が変わるだけで、またあとで読めばいいだけ。
それなのに、どうして?
私が順番を間違えただけで、あの人はそこまで私を怒鳴るの?
彼は私がもう片方を読み終えるのを、棚の中で待っていてくれたのに。
でも、もうしかたないから、逃げることにしたの。
貴方の街から遠く離れた海辺の街に。
海は思ったほど綺麗じゃなかった。曇った空と鉛色の海は空をそのまま映したみたいで憎たらしい。
貴方と貴方の子供もそうなんじゃない?
しばらく住んで、ふと思い出した。
あの時私は、高い棚の本を読んでいない。
手に取ろうとしてやめてしまった。
今更思い返すのは心臓にくる。
もうやめてしまいたい。
幸い、夏祭りがあるそうで、小さな心の思い出を思い返した。
いつか誰かと、一度だけ海辺の街の小さな祭りに行ったことがあった。
その祭りで水風船を買ってもらった。
その夜があまりに幸せで、私はもう一生ここにいられたらといいと思った。
この手を握るこの人と結婚したいと思った。
私は何歳だった?その人は誰だったの?
ならば、人生最後、行ってみようかしら。
赤色の貴方がいるかもしれない。
そう思った。屋台で赤色の水風船をあの頃のように、釣り上げた。
そして、赤色の水風船に誓った。
「もし、この水風船がしぼむ前に貴方が迎えに来なければ、水風船とともに、私も海に沈もう」と。
やけに気分のいい夜は、それが最後だと私に言い放つ。
私は貴方を心のなかに、おいて置きすぎたのかもしれない。
心の奥の「私」に一番近いところに。
だから、貴方を特別だと思ったのかな。
とっくにすぐ、捨てられたかもしれないのに、
今でも、貴方は特別だったのよってどこかで聞こえる。
バイト代で、貴方の特別のために出かける予定だったけれど、もう行かないのかな。
私は私の中で崩れる貴方に、妄想と想像の真実を探す。
冷
「殺された」みたい。
という表現が一番しっくりくる。
長い時間が経ったから、あんなふうに思い込んだだけ。
感情が混ざり合っているというなら、それは私にとって大きな波だ。
いったいどこ?
本当の貴方を知らない。
知らないことの愚かさを知ってしまった。
知らないことの幼稚さを知ってしまった。
見て見ぬふりと綺麗な霧は、大切なことまで隠してしまう。
私にとって、一番大切なモノはなに?
私が一番大切であるべきなのに。
もしも本当なら、とっくに貴方に会えたはず。私が悪いから?
いいえ、違う。私は私だった。
酔わないと自分を保てないほど、閉鎖していたんだ。
貴方を見ると、いつからか「殺された」
という感情が浮かんで、懐かしかった。
愛おしかった。悲しかった。怒ってた。
そして最後に、嫌ってた。
それがわかって何になるのかしら。
どこからどこまでもわからなかったから、まあいいか、とだいたいは片付けられてしまいそう。
だけど、だけどだけどどうしたらいいの?
魔法が解けたのかもしれない
男性の私物なんて欲しくない、気味が悪い。
魔法なんてほど綺麗じゃない、呪いって言ったほうがいいくらいよ。
貴方、貴方貴方貴方貴方貴方貴方貴方にずっと心のなかで叫んでた。
でも、今はもっと軽いかもしれない。
まだ手放せない私もいるけどね。
ずっと落ち込んでは立ち上がってきたけど、もう冷静にどうしたらいいのかわからなくなっている。
本当はなにがしたいんだろう。なにを求めているのだろう。
なにになりたいんだろう。
小さな世界で、簡単に砕ける希望をどうしたら保っていられるの?私にはそれがないとできないって、最近ようやく気づいた気がする。
ならば、まずそれを見つけることをすべきなのか?
何から始めたらいいかわからない。一番欲しいものはなに?
人を真似て、人をプレッシャーにして、追い詰めて比べて、限界を超えたことがあった。それは崩れ落ちるように最後が失敗だった。
でも今は、人の成功例と自分の成功は別であってほしいと思う。別がいいと思う。縛られた感情や束縛とプレッシャーはもう拒否反応をする体。だから、私にぴったりな「私」を作りたいと思った。見つけたいと思った。
でも、コロコロ変わる気分に疲れて、それもすべて私であると言う私もいる。
そう思いたくない私さえいる。
私はどうなればいい?小さな世界の人々はどれも魅力的じゃない。他人と比べれば、私は私が一番大切だと思える。私は私を愛せると思う。
けれどなぜ?私が私を見つめるとき、私は私をこの世で一番嫌う。
私が私であろうとするとき、私が私を一番否定する。
私の心と体は、水と油みたいで気持ちが悪い。
生きているとき、呼吸をし、食事をし、お風呂に入り、排泄をするとき、汗をかくとき、全てが、水と油を混ぜ合わせた、気持ち悪さが伴う。
生きることが難しいと思ったのはそれだったのか?
今の私の肉体も、ガリガリに骨の浮き出た肉体もどうして気持ちが悪いの?
ねえ、もしも私と貴方、心と肉体がちゃんと二つだったら、二つに別れたら、私は楽になるのかな?
貴方はどうなってしまうのかな。
気が合わないね、私と貴方。
貴方が私をだめにする。肉体が心をだめにする。
埋もれた。私は埋もれているのかな。余計気持ちが悪く思える。
私よ私、早く蛹を脱ぎ捨てて、美しく羽ばたくのよ。
私よ私、今もなお、貴方に邪魔される私。信じることも希望の言葉も怖くなった私よ、もうやめよう?