・9『落下』
思わせぶりな態度をとっていた
駆け引きはこの浅瀬と同じように安心で安全なはずだった
私が海で一生を過ごす?あの男と?
ナイナイ。
今朝はもう姿も現さないしスキュラは帰ろうと海に背を向け歩き出した。足が重い。それに何か絡まってる。
海藻かゴミか……と思い取ろうとするとビラビラとしたモノは足とくっついていた
波が引く、波が足に触れる、そのたびに足に付いたビラビラは増えていく
スキュラは恐ろしくなってしりもちをつく。パニックになった。
手で顔を覆うがその手が人間のものではなくなっている事に気付いた
【続く】
・8『未来』
キルケーはグラウを心酔させ使役しようと思っていたが
グラウがキルケーに恋をせず、
キルケーだけがグラウの気持ちを手に入れようともがくこととなった。結果グラウにそれなりの地位を与えるように他の神々にも頼み込んでしまう始末だった。
彼が満足するように。
それなのに人間の娘に恋を?
私は知らなかった。人間の男は相手を一目見て恋をするかどうか決めるのだ。そうでない相手にはもう恋をすることはないと。
私がどれだけ尽くしたとしても無駄だったのだ。
思い通りにはさせない。お前たちに幸福な未来はない。
グラウの地位を剥奪し、スキュラには毒を与えよう。
【続く】
・7『1年前』
キルケーは代わり映えしない海で日々を巡っていた
気まぐれに海を荒らしたりしても哀れな人間達が今際の際に見るのはセイレーンではないし、
まして私に気が付くこともない。船を転覆させても退屈なだけだった
人間を1人、私の為のお人形に出来ないだろうか
私の為だけの人間の男を。
1年前そうして陸上にキルケーお手製の薬を撒いた
薬を撒いた一帯の木々はとても良く育ってくれた
グラウが木こりから海の神の一員になった要因だった
キルケーの薬で育った植物を食べてしまったグラウは喉の渇きが治まらず陸から海へ。
そしてキルケーの元へ
ただグラウはキルケーに恋をしなかった
【続く】
・6『好きな本』
グラウはスキュラの為になら地上の喜びを、
それ以上のものを海に持ち込めると思っていた
海の神の一員ならそれくらい出来て当然なのだから。
しかし好きな本を持ち込めるか?とスキュラ聞かれ
考えた末に海に書庫を作ろうかと考えた。彼女の為だけの海の図書館だ。
海底にスキュラの好きな詩を刻んだ岩を置くのもいいかもしれない。
しかし海の中で読書?
グラウは元木こりで字が読めず書けなかったのでキルケーに相談することにした。あの魔女なら自分の力になってくれるだろう。
【続く】
・5『あいまいな空』
空と海がグレーがかり似た者同士な色
境界があいまいになってきた。
スキュラは決めかねていたが
やはり人間をやめて海の神?に仲間入りするのには抵抗がありまくりだった。
フツーに歳を経て
美しさなど関係のない年齢までまってもらって
俗世に未練がなくなれば
その時は海にこの生をささげても良かった
あの男に会ったら断ろう
とりあえず、今は
【続く】