・4『あじさい』
グラウはスキュラに東洋のバラを渡した
スキュラはその美しさに目を奪われた。
朝日を浴びた波打ち際に似た青い色と薄い緑ともつかないグラデーションだった。すこし紫のところもある。様々な色の小さな花が折り重なってブーケとなりスキュラに挨拶をする
あなたの肌に良く映える、珍しい花でしょう。あじさいというらしいです。
海の住人になっても貴女に不自由はさせません。
地上の喜びもあ全てなたの元へ運びましょう。
グラウは言うのだった
【続く】
・3『好き嫌い』
本当はあの男が今日もいるかもしれない、とスキュラは浅瀬に足を遊ばせながら思った
海の神にだって私はモテる
神かどうかは本当のところはわからない
ただの半人半魚かもしれない
あるいは化け物。
元は人間だったと、
海の神々に愛され
神の座を与えられたと、
貴女にもその座を与えられると。
街にこのままいても働き口はないかもしれない。
望んだ嫁ぎ先があるとも限らない
美しいまま海に住むのも悪くないかもしれない……
好き嫌いを言っている場合ではないのかも
私が美しいのは期間限定で
それ以外の価値が自分にも他人にとってもあるとは思えなかった
【続く】
・2『街』
スキュラは自分の住む街が嫌いだった。
特に男達は私を向こうから歩いてくる
無料のエロコンテンツくらいにしか思ってない。
ほんとうに嫌だ。
私はいつも海に来てしまう。だれも来ない浜辺があって
もったいつけて、誰に見られるわけでもないのに
格好つけて、ダルくて、訳アリそうな女を演じながら
歩くのがすきだ。
ほんのちょっとだけ浅瀬に入る。
早く誰かと出逢いたい
運命の誰かと。
【続く】
・1『やりたいこと』
もうすこしで海底にある私の住処に戻れる
キルケーはすこし興奮したまま戻る途中だった。
明日海上で何が起きるのか、ある程度は予想できる。
あの男は私を訪ねてくるに違いない。
彼をこの海の王にしたい
そのためにすこしの犠牲を払うだけ。
落ち着くの。
もっと薬を作らなくては
毒薬も媚薬も治療薬も
住処も整えなくては
飾り付けなくては
宝玉で。
【続く】
・10『朝日のぬくもり』
カヨは自宅アパートに寄り道をせず真っ直ぐ帰り(元義両親に報告する義理はない)朝干した布団と薄手の掛け布団を取り込んだ。
夕方になる前に帰ってこれてよかった。
なんとはなしに取り込んだばかりの布団に頭を沈めて掛け布団を頭から被ってうずくまった。
日の光をたっぷり浴びたであろうそれは自分の味方をしてくれるような気持ちにさせてくれた。温かく良い匂いがした。
ふと昨日職場で見た白無垢を思い出したが
全く何の感情も湧いてこなかった。
私には縁もなく、また必要のないものだと
心の底から思った。
【了】