・9『岐路』
チカノブは叫んでから自分が高揚していることに気付いた。
今が青春で試練の時なんだと。還暦を過ぎてからこんな情熱を起こさせてくれた彼に感謝し、ますます想いは募る。
さてこの家を売ろうか、それとも自宅介護にこの家を改装するか、彼のご両親をどう説得するか、彼を私の下に置くためにはそれなりの誠意をみせなければ。
あの女からすこしでも金を取れればと思ったが。
チカノブは今、人生の大きな転換期にいると思った
【続く】
・8『世界の終わりに君と』
カヨは
「貴方の言いたいことはよくわかりました」
そう言って男の目の前ででっちあげの内容証明証と手紙を破り捨てた
「私は不倫などしておりませんし、元夫も納得して離婚しています。今は他人です。貴方にどんな想いがあろうと知りません、好きにしてください。彼の名を騙って慰謝料を請求されても身に覚えがありませんので払いません。彼に尽くしたいのならどうぞご自由に!!!私を責めている暇があったらあのひとの側についていればいいでしょう!!」
いつの間にか泣きながら唇噛んでいた
そうして男に背を向けて立ち去った
チカノブという男が叫ぶ
「彼が病気でも!世界が明日終わろうとも!そうします!!ずっと側にいます!!」
頭上に降ってくる言葉が気持ち悪かったカヨは
「うるせえジジイ!!」
と叫んだ
【続く】
・7『最悪』
カヨはただただ玄関先で叱責を受けるだけだった
長年、元夫が幼い頃から見守っていただの
恋心を抱いていた、向こうもそうだった
結ばれなかったのはお前がいたからだ、それは世間体だ
なぜ病気の彼を放っておけるのか等、
暴言は暴走となりカヨは
じじい暇なんだなとぼんやり思った
【続く】
・6『誰にも言えない秘密』
手紙に電話番号はなく仕方なく住所を頼りに
手紙の差出人、『ヤマセ チカ』を尋ねることにした
電車で1時間ほどの元義実家の近くの住所で迷うことはなかった
チカというのは幼馴染かなにかだろうか。
そんな話は元夫から聞いたことがない
義実家宅に連絡を入れるか迷ったが
確かめる勇気がなかった。それに内容証明証が偽りだという確信もあった
この件に義実家は関与していない気がする
そもそももう他人なのだ【義】はない
山瀬の表札を確認してチャイムをならした
60代……いや70代だろうか?
背の高い瘦身の男性が玄関の扉を開けた
「はじめまして。私は岩田カヨと申します。山瀬チカさんはご在宅でしょうか」
男性は驚いた表情を一瞬見せた気がした。
が、すぐに答えた
「私です」
「えっ?」
「私が手紙を送りました」
「何ですって?」
「山瀬親信(ちかのぶ)です
貴方のダンナさんに、私は、私は、ずっと………!!」
【続く】
5・『狭い部屋』
この手紙の差出人が内容証明をでっちあげて送ったのではないか?そもそも本物の内容証明というものを見たことがないのでこれが有効か無効かはわからないが、自分が不倫していたという事実はないのだ
この狭いアパートの一室で慎ましく暮らしているだけなのになぜこうも厄介事が降ってくるのか?カヨはそう思った。
ご丁寧に差出人の住所は記されている
貴方は誰?確かめに行こう
【続く】