蜩ひかり

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6/27/2024, 5:32:25 AM

 いつがそれになるかわからないけれど、きっとその日が遠くないことはわかるし、ひょっとしたらもう最後に会った日は過ぎ去ってしまったかもしれない。
 二千年ばかり季節が巡れば世界のどこかで空から槍が降った日もあっただろうし、今日のことも明日のことも誰にもわからない。

 あなたはきっと誰かの期待に応えるのが苦手なひとだろう。
 世界のほとんどすべてがあなたの敵だった日、舞台の中央で静かに俯いて四面楚歌の合唱を聴いていた、その姿が最後になるならあなたらしいが哀しい。私は歌なんてどうでもよかった。あなたに会いたいというだけだった。
 あの日のあなたの想いを忘れないひともいる。
 それだけで歩んできた価値はある。

 努力は裏切るかもしれない。
 願いは届かないかもしれない。
 あなたに付き纏う翳がそんなことを囁きつづけるなら、今日は佳い方に傾きますように。

(君と最後に会った日)

6/26/2024, 2:37:27 AM

 あれはすばらしい花だと言われ、咲きそうな蕾を誰かがたいせつに育てている時、その花を見る人がいちばん心ないのはとても悲しいことだ。
 焼け野原に咲いている花はひとつではないし、あなたたちが勝手気ままに踏みにじっていいものでもない。

 わたしの大好きな向日葵が昨日枯れてしまった。あなたたちにへし折られ、わたしたちはきっと水をあげすぎた。
 どうしたら良かったのかはわからない。ただ、まだ根は腐っていないことだけは信じている。

 花は世界にひとつだけとむかし誰かが歌っていた。
 みながみな大輪の花を咲かせられたらいい。
 けれどもそれはとても難しいことだ。
 すべて育て方が違う花同士で向き合って、なんとか咲こうとあがいているわたしたちの世界は、そんなに綺麗ではない。
 けれど、もしも人の咲かせ方が見えた時はどうかそっと教えてあげてほしい、いつか満開の花畑が見られることを願っています。

(繊細な花)

6/20/2024, 1:50:05 PM

 運命の輪の軸に選ばれる人間というのはたぶんあらかじめ神様が決めたもので、あなたは最初から断崖絶壁の淵に立たされてわたしを見下ろしていた。
 あなたはこれを選んできた道だと言った、ほんとうにそうならせめて視線ぐらいは合ってもよかった。偶然でも一瞬でも救わせてほしかった。
 あなたの眼はもう手が届きようのない暗闇を見据えていて、そのときわたしは生まれて初めて誰かのおそろしさに、強烈なうつくしさに心ふるえたのだ。
 
 怖いものほど見つめたくなる、うつくしいから覗きたくなる、けれどそれすらも現状では叶わない、こちらは地上であなたはずっと雲の上に佇んでいる。
 目が笑っていない、あなたをそう評したひとは悲しいかな正しいと思うよ。今にも消えたいと口にしそうな顔で何かとてつもないものに立ち向かっている、わたしたちには何ひとつ教えてくれないまま。
 だから、わたしたちは崖の上まで這いあがろうと必死になって、絶壁に爪をたてている。
 あなたに近づけるなんてすこしも思っていないよ、ただ崖下を満たす黒い霧を晴らしたいと切に願うことのなにが悪いだろうか。

 何もかもあなたが悪いだなんてわけがない。
 何もかもあなたのおかげである必要はない。
 わからないやつは崖から突き落とせばいい。
 それができないからあなたは選ばれている。
 それが恵まれたことではないとも、わかっている。
 
 断崖の花よ、あなたはそこで咲かなくてもいい。
 けれどそうでありたいと願うなら。
 せめて、今日ぐらいは笑っていてください。

(あなたがいたから)

6/15/2024, 2:23:58 AM

 朝起きて、わたしの頭上に覆い被さるどんよりとした曇り空からふと光がさすのを見あげて、今日もあなたが太陽であることをなにより尊いと思う。
 あなたが太陽であること、太陽であらなければいけないこと、それを他でもないあなた自身が一番に咀嚼しながら燃えている、だからあなたの振りまく輝きはこんなにも暖かく世界を包みこむ。

 太陽が出ていても雨は降る。あなたがほんとうは泣いていることを知っている。けれども雲は晴れるから、わたしたちはあなたの天気雨で恵まれている。あなたが通るだけですべてに花が咲く。
 ただ、雨がやむことを祈ってやまない。あなたの笑顔に返せるものが祈りだけても、空に雲がなければ届くと信じられるから。


(あいまいな空)

6/14/2024, 3:52:09 AM

 花言葉というものは時々ひどく理不尽に感ぜられる。移り気と辛抱強さ、無常と元気、浮気と寛容をグラデーションだと意味づけられたとして、わたしが紫陽花ならひどい濡れ衣を着せられたものだと怒ってしまうだろう。
 移り気なものに辛抱を求めてはいけないし、元気なときは永遠ではない、だから浮気には寛容であるべきなのだ、言葉の流れとしてはそういうことになってしまう。変えたくて色を変えているわけではないのに、そこに悪い意味を見いだされたらたまったものではない。
 だいたい人によって言っていることがまるで違うのである。わたしたちは花が喋る言語を幻視している。

 花を見るときはきれいだと思うだけでいいし、ただきれいなものを見てほしいから、という気持ちで送ればよい。
 花束に地雷を仕込んではいけない。
 探そうとしてもいけない。
 そこに愛以外のなにかは無い。
 
(あじさい)

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