運命の輪の軸に選ばれる人間というのはたぶんあらかじめ神様が決めたもので、あなたは最初から断崖絶壁の淵に立たされてわたしを見下ろしていた。
あなたはこれを選んできた道だと言った、ほんとうにそうならせめて視線ぐらいは合ってもよかった。偶然でも一瞬でも救わせてほしかった。
あなたの眼はもう手が届きようのない暗闇を見据えていて、そのときわたしは生まれて初めて誰かのおそろしさに、強烈なうつくしさに心ふるえたのだ。
怖いものほど見つめたくなる、うつくしいから覗きたくなる、けれどそれすらも現状では叶わない、こちらは地上であなたはずっと雲の上に佇んでいる。
目が笑っていない、あなたをそう評したひとは悲しいかな正しいと思うよ。今にも消えたいと口にしそうな顔で何かとてつもないものに立ち向かっている、わたしたちには何ひとつ教えてくれないまま。
だから、わたしたちは崖の上まで這いあがろうと必死になって、絶壁に爪をたてている。
あなたに近づけるなんてすこしも思っていないよ、ただ崖下を満たす黒い霧を晴らしたいと切に願うことのなにが悪いだろうか。
何もかもあなたが悪いだなんてわけがない。
何もかもあなたのおかげである必要はない。
わからないやつは崖から突き落とせばいい。
それができないからあなたは選ばれている。
それが恵まれたことではないとも、わかっている。
断崖の花よ、あなたはそこで咲かなくてもいい。
けれどそうでありたいと願うなら。
せめて、今日ぐらいは笑っていてください。
(あなたがいたから)
6/20/2024, 1:50:05 PM