秋の紅の記憶。
紅葉が真っ赤に染まり
山が綺麗に着替えた。
所々にイチョウの木もあって
目が痛くならない。
風が程よく吹き、
落ち葉がカラカラと地面を転がる。
そんな中食べるみたらし団子は
最高に美味い。
私は食欲の秋を満喫していた。
茶団子、三色団子、おはぎ。
秋ってのは紅葉も綺麗だし
いくら食べても
食欲の秋で通せるのが強い。
"Good Midnight!"
そんな紅にそまった記憶は
冬の風で飛ばされ
雪が積もって見えなくなった。
いつかは忘れてしまう夢。
現実ではない何処かなのに
妙にリアルで不思議。
夢の断片は覚えているのに
全ては覚えていない。
こんな所が実際にあったらいいなぁ、
こんなことができたらいいなぁ、
そんな願望だけが増えていく。
覚めたくない夢は
いつの時代にも存在する。
例えば小野小町が書いた詩。
恋しい人を思いながら寝たから
夢に出てきたのかなぁ。
夢だとわかっていたら
覚めないでいたのになぁ。
そんな詩。
ありえないことが
有り得ることに変わる、
天地がひっくり返るのが夢。
そこにずっと居たいと思ってしまうのは
仕方がないことなんだって。
"Good Midnight!"
午後3時。
もう夢に溺れてしまいそうな
深夜のひと時。
見えない未来へは
ものすごい不安と
過去の後悔と
少しの期待を持って
1歩ずつ進んでいく。
真っ暗で、
本当にこの道で合ってる?
もしかしたら方向逆?
そもそも進むこと自体間違えてる?
そんな答えが出ない不安が
濁流のように流れていく。
間違えた時の恥ずかしさや悔しさは
何千回と体験してきた。
だからこそ慎重になるし
自分を極限まで疑う。
二度とあんな思いをしたくなくて
思い出しただけで涙が出たりもする。
未来ってそのくらい
重くて暗くて
時には私には未来がない方が
楽で辛くなくて
逆に幸せなんじゃないかって
思っちゃって。
目尻が熱くなって
目元を触ると涙がつく。
自分じゃ何もできなくて
誰かに引っ張っていって欲しい、
ここから連れ出して欲しい、
私の未来を作って欲しい。
途方もない願いが溢れてくる。
"Good Midnight!"
そんな、
いなくても変わらないような日々に
明日も生きたいと。
ここで終わっちゃダメだと思わせてくれた
1冊の本が
私の未来を作ってくれた。
私の中を吹き抜ける風。
私が透明になったみたい。
雨も私を通り抜ける。
私って空っぽなんだなって
外に出る度思ってしまって。
寒い寒い中
温まるものさえ私には無くて
ずっと風に吹かれてた。
でもある日、
真っ赤なマフラーを巻いた人に出会った。
その人は長所より短所、
完全より不完全、
完璧より失敗を好む人だった。
最初は私にも
ザ・偽善者みたいな笑顔を向けてきてた。
お嬢さん、外は寒いですよ。
そろそろ家に帰らないのですか?
にこにこと張り付いた笑顔で言ってきた。
帰りたい家がないのです。
そう答えると
マフラーを巻いた人は
急に笑顔をやめた。
どうやら私のことを気に入ったみたいで
空っぽな私に真っ青なマフラーをくれた。
それから毎日
真っ青なマフラーを巻いて
真っ赤なマフラーを巻いた人に会いに行った。
空っぽな私に何かをくれて
何かが埋まった気がして。
"Good Midnight!"
もうマフラーはちぎれてしまったけど
マフラーを巻いた人の赤いマフラーは
まだ綺麗に残ってる。
色褪せて真っ赤では
無くなっちゃったマフラーが。
霧が出ていて
冷たい暗闇の中。
もちろんこのままだと
何も見えない。
でも自分の前に手を出し
何も無いところにふっと手を添えると
ベルのチリンッという音と共に
中世ヨーロッパ風のランタンが現れる。
淡い光を放ち
たちまち周りを明るく照らす。
そのまま私は慣れた足取りで進んでいく。
記憶のランタン。
ここではこのランタンで
記憶を見ることができる。
方法は簡単。
見たい記憶を
この霧の空間から
ランタンで照らして探し、
見つけたらその記憶の所で止まり
ランタンの明かりを少しずつ消していく。
ランタンが現れた時と同じような
ベルのチリンッという音が鳴れば、
記憶は再生されていく。
しかし、誰もが記憶を見れる訳じゃない。
この霧が充満する暗闇の中では
ランタンがあっても
見渡せる範囲は限られる。
ここへどうやって来たのか
どうすれば戻れるのかすら
分からない人がほとんどだ。
だからここに来た人は迷子になる。
帰れなくなる。
右も左もわからなくなって
ただ記憶だけを探し続ける。
私はもう何千回と来ているから
ここへの来る方法も
記憶の道も帰り方も覚えている。
ランタンの持ち手も手に馴染んでいて
持っていない方が
落としていないかと不安になる。
今日見たかった記憶は
いつもと同じくだらない記憶。
私にとってくだらなくて
大切な記憶。
"Good Midnight!"
迷子になる人に出会うことは無い。
その人はその人の
数多くの記憶の狭間にいるから。
けど私は管理人のような者になってしまったから
今ここにどれだけの人がいるかは
ざっとだが把握できる。
私はもちろん優しくないから
案内しようとも
助けようとも思わない。
自分の記憶を見続けて
自分で鳥の籠に仕舞われる。