霧が出ていて
冷たい暗闇の中。
もちろんこのままだと
何も見えない。
でも自分の前に手を出し
何も無いところにふっと手を添えると
ベルのチリンッという音と共に
中世ヨーロッパ風のランタンが現れる。
淡い光を放ち
たちまち周りを明るく照らす。
そのまま私は慣れた足取りで進んでいく。
記憶のランタン。
ここではこのランタンで
記憶を見ることができる。
方法は簡単。
見たい記憶を
この霧の空間から
ランタンで照らして探し、
見つけたらその記憶の所で止まり
ランタンの明かりを少しずつ消していく。
ランタンが現れた時と同じような
ベルのチリンッという音が鳴れば、
記憶は再生されていく。
しかし、誰もが記憶を見れる訳じゃない。
この霧が充満する暗闇の中では
ランタンがあっても
見渡せる範囲は限られる。
ここへどうやって来たのか
どうすれば戻れるのかすら
分からない人がほとんどだ。
だからここに来た人は迷子になる。
帰れなくなる。
右も左もわからなくなって
ただ記憶だけを探し続ける。
私はもう何千回と来ているから
ここへの来る方法も
記憶の道も帰り方も覚えている。
ランタンの持ち手も手に馴染んでいて
持っていない方が
落としていないかと不安になる。
今日見たかった記憶は
いつもと同じくだらない記憶。
私にとってくだらなくて
大切な記憶。
"Good Midnight!"
迷子になる人に出会うことは無い。
その人はその人の
数多くの記憶の狭間にいるから。
けど私は管理人のような者になってしまったから
今ここにどれだけの人がいるかは
ざっとだが把握できる。
私はもちろん優しくないから
案内しようとも
助けようとも思わない。
自分の記憶を見続けて
自分で鳥の籠に仕舞われる。
11/18/2025, 3:55:06 PM