ペラペラとページをめくる。
木漏れ日が差し込む、
妙に神秘的なこの空間で
私は何をしたいと思うだろう。
人生という名のページを
また1枚めくる。
忘れたくない本。
忘れたい本。
色んな本が混ざって
また1つの本になる。
少し家にいるのが窮屈で、
なんとなく夜まで外にいたかった。
本は好きだ。
時間も嫌なことも
全部忘れてファンタジーにのめり込める。
ちょっと眠くなってきて
ベンチで寝て
起きたらなんか、遺跡にいた。
そこには1冊の本があって
木漏れ日を浴び
綺麗に置かれている。
たくさんの事が書いてあった。
自然と一体化し生きていたこと。
木々がとても大きかったこと。
色んな妖精がいたこと。
魔法を使う人ではない者がいたこと。
しかしその者らは
時代と共に力を無くしていったこと。
後世に伝えたいとは思ったけれど
途絶えてしまったこと。
この人たちは
この生活がいつまでも続くと思ってたのに
無くなってしまったんだ。
そして忘れ去られ、
空想上の者となってしまったんだ。
"Good Midnight!"
誰かが覚えておくことで
確かにそこに居たという証明になる。
私はその本を胸に抱きしめて
また人生のページをめくった。
夏の忘れ物を探しに
私は聞きこみ調査を行った。
元気で明るい印象があって、
夏が始まると
活き活きしているのに
夏が終わりかけると
生気を失い落ち込む。
夏といえば!という代表的存在。
誰もが見た事のあるもの。
押し花が好きな人は
1回はこれを使ったことがあるんだとか。
多分これは向日葵。
でもこれは私の夏の忘れ物じゃあない。
もっと夏の忘れ物について聞いてみた。
暑い夏には打って付け。
どこでも涼しくなれるもの。
怪談話。
味はそこまで感じないけど
啜るのが楽しいもの。
そうめん。
五月蝿くて寝るのも一苦労するのに
夏には欠かせないもの。
蝉時雨。
どこまでも広くて
全てを受け入れてくれる夏の象徴。
海。
こんなにも夏の忘れ物は多いのに
私の夏の忘れ物は一向に見つからない。
"Good Midnight!"
忘れるぐらいのものだったんだって
割り切れるほど
単純じゃないから、
私はまだまだ夏の忘れ物を探し続ける。
8月31日、午後5時。
5時の放送と同時に
私は魔法のラジオのダイヤルを回す。
そしたら辺りは静かになって
空は藍色になる。
ミッドナイトラジオの時間だ。
.......ジーツ、...ザザッ。
えー、皆さんこんばんは。
ミッドナイトラジオのお時間です。
今夜はかめ座流星群。
ぜひ星屑のお供にお聴き下さい。
この魔法のラジオは
午後5時からしか使えない。
ダイヤルを回すと色んな時間の
この地球ではやってないような
色んなラジオを聴ける。
魔法のラジオをつけた時、
私はこの「ミッドナイトラジオ」を
偶然見つけて、
しんみりとした深夜のようなものを感じて
よく聴いている。
話している内容は
地球上に存在しないものばかりだ。
迷子列車「夜の鳥」、
迷子船「深海のクジラ」は
本日も問題なく運行中、
星屑の雨のカケラは
依然として希少性が高いようです。
夜の鳥っていう列車も
深海のクジラっていう船も
ここには存在していない。
星屑の雨のカケラなんか
1番意味がわからない。
でも私はこの藍色のミッドナイトラジオが
たまらなく大好きだ。
おや、かめ座流星群が見えてきましたね。
それでは今夜はここら辺で。
皆さんも良い真夜中を。
"Good Midnight!"
ラジオが終わるのは早い。
けど心はよく満たされる。
ダイヤルを戻すと
いつもの夕焼けと
午後6時の放送。
どこかの誰かさんは
今、良い真夜中を過ごせているかな。
今日も明日も
ずっとふたり。
だって誰もいないから。
だってみんな消えちゃったから。
君も私も人間関係に疲れて
きっと楽園に来ちゃったんだ。
辺りには大きな雲があって
足元には透明な水が流れていて
上には水面が見える。
空の上なのか、
水の中なのか、
よくわからなくて
本当に楽園みたいだ。
君は不安そうに私を見る。
私はここが
綺麗だと思って
ずっとここに居たいって
思っちゃったりして。
でも君は帰りたそうだ。
私は私で、
雲に突っ込んでふわぁっとなって見たり、
寝転んで水面を見ていたり、
自由に楽園を満喫していたので
君は呆れて出口を探し出した。
近くの周りだけ探して
すぐ戻ってくると思ってたのに、
君はどんどん向こうまで行ってしまう。
待って、ここに居ようよ。
だって仲間外れも
無視も虫も嫌じゃん。
ねぇ、置いていかないで。
そう叫びたかったのに
声は喉でつっかえて出ない。
いつの間にか雲に隠れて
君は見えなくなっていた。
急いで追いかけたけど
君は何処にもいなかった。
君と私は
ずっとふたりだと思ってたのに、
同じだと思ってたのに!
力が上手く入らない。
膝から崩れ落ちて
透明な水しか見えなくなる。
きっと君は帰れた。
君は逃げなかったし
帰ろうと思っていたし、
家族と日々を過ごそうとしていた。
私とは
全然違ったんだなぁ。
涙は透明な水に染み込んで
見えなくなっていく。
"Good Midnight!"
いつか私も
ここじゃなくて
君のところに
帰れたら、
帰りたいと思えたらなぁ。
私の心の中の風景は
きっとグレーで
黒が所々混ざりきってなくて
存在感を発揮していた。
誕生日でもなんでもない日に
親に買ってもらった日記帳。
女のロマン溢れる
鍵付きのちょっと良いやつで、
10年分は書けるらしい。
けど、
ポジティブな事を書いてねと言われて
渡された私は、
まだ日記をつけれていない。
元々ネガティブな性格で
今日あった嬉しいこととか
小指ぶつけたくらいで忘れちゃうし
思い通りに動かない自分が嫌いだし。
鍵を開けることすら
もう無いだろうと思ってた。
書きたいことなんかなかったよ。
でも、
それでも、
あの子もあの子も嫌いな私は
せめて日記とは
仲良くした方がいいんじゃないか。
そう思い始めた。
人と物では全然違うし
私でもちょっとよく分からないけど、
作り笑いの日常で
日記にだけは心の鍵を開けても
いいんじゃないか。
多分そんな感じのこと。
"Good Midnight!"
久しぶりに聞いた、
カチャっという音で
私の心の鍵も
日記の鍵も
開いた気がした。