暗闇から声がした。
ねえ。
今そこから声がした?
ちょっと。
誰かしら?
なんて
後ろに向かって言ってみたけど
誰もいなかったわ。
もしかしたら
目に見えないのかもしれない。
いつもそこにいるような気はしたのよ。
だから声をかけてみたの。
ねえ。
そしたら子どものような声がした。
はぁい。
きっと恥ずかしがり屋さんなのね。
私も人見知りでそうだから、
気にしなくていいわよ。
って伝えてみたの。
そしたら美しくて可愛らしい少女が見えたの。
腕にはトランシーバー?といったかしら。
それがついていて
もう片方のトランシーバーを渡してきたの。
受け取ろうとしたら
消えてしまったんだけどね。
体調が悪いのかと思って
ご老中に聞いてみたの。
でも首をかしげて
んん?何それ?
と言われて終わりだったわ。
あの言い方はわかってる人の言い方だったけれど。
"Good Midnight!"
少女とは友達になれたらいいなぁと
思うくらいだわ。
これ以上求めてしまったら
戻れなくなりそうだからね。
春らしい気候。
芽吹きのときが私は嫌いだ。
みんなに突き放されて
一人ぼっちで寂しいと思っていた。
でもそれは
自分がみんなを突き放しているだけで
本当は私と居てくれた。
後悔ばかりのこの人生。
最後に何が楽しかったか言えと言われると、
もう一度やり直したくなるかもしれない。
だって一つか二つほどしかないから。
印象に残ってるのは
星の王子さまを声に出して読んだこと。
寂しくて押し潰されそうだった夜、
ふと本棚に目をやると
星の王子さまの絵本が見えて
すぐ手に取って読んでいったんだ。
"大切なものは目に見えない"
なんて
心に染みることが書いてあると
変だなぁ文字が見えなくなってくる。
ポタポタ何か零れ落ちるんだ。
絵本も所詮紙だから、
急いで拭くんだけど。
特にこの芽吹きのときは
死んでやろうかってくらい
夜が嫌いになる。
だから読む。
声が出るってこと、
文字が読めるってこと。
それだけでもう幸せすぎるんだってことを
星の王子さまを
自分に聞かせ続ける。
"Good Midnight!"
星の王子さまも
バオバブも
キツネも
バラも
私も
空を見上げては
星の笑顔を忘れない。
手袋を片方落とした日。
大切にしてたからショックで
友達に無くしたことを言うと
笑って流された。
その日は雨に打たれてる気分だった。
雨は好きだけど
たまに冷たくて染み込んできて
心をギュッと押さえてくる。
でも別の日に
家族に怒られたことを言うと
心配する声が帰ってきた。
ヒーターの前で手を出してる気分で
あの日の温もりは
何日か忘れないだろうと思った。
人との繋がりは
いつか途切れる時が来るというもので。
ある日一気に友達を失った。
数人はまだ仲良くしててくれたけど、
私が手を伸ばしたら
その手を取ってくれる人たちだから
私は手を引っこめて
関わらないようにするしかなかった。
巻き込みたくないから。
なぜ友達を失ったかというと
それは少女からもらったトランシーバーが原因。
少女と毎日トランシーバーで話していたら
自然とみんな離れていった。
ただそれだけ。
本当にトランシーバーが原因なのかは
まだ怪しいくらい。
でも友達は守りたいものであり、
私そのものでもある。
"Good Midnight!"
今日もトランシーバーにそう話しかける。
私がいつ行方不明になってもいいように
ボイスメッセージを録音して。
道端で拾ったパズルのピース。
それは水色で
空の部分かなーなんて思いながら前を見て見たら、
奥の方の空が
ピースと同じ形に空いてた。
戻さなきゃと思って
拾い上げてみると、
ピースの端っこらへんに
鳥の羽根の部分がちらりと見えた。
空を見てみると
一羽の鳥が空中で止まっていて
羽根が片方無かった。
一種のホラーだなとは思ったけど
ここからでもはめられるかもしれないと
ピースを上にあげてみる。
そしたら意外と簡単にはまって
鳥がcute!なんて言い出すから
ほんとに今日は
パラレルワールドか何かにいるのかもしれないと
頬を引っぱたいたりした。
次に見つけたのは黄緑のピース。
絶対雑草だ!って見渡すと
また空いてるところが。
今度はリスのしっぽが切れていた。
はめるとリスはcool!なんて言って
そのまま逃げていった。
可愛い?
かっこいい?
もう頭の中はハテナだらけ。
とりあえず家に帰り、
今日は部屋の明かりを早めに消して
どうでもいい夢を見ようと寝た。
パズルの波に飲み込まれる夢を見て、
目覚めは最悪。
1時なんて微妙な時間に起きた。
"Good Midnight!"
多分疲れがたまってる。
睡眠不足かな。
なんて自分に言い聞かせて
オカシナ世界から無理やり抜け出した。
はぁ〜。
今日の記録をするために
手を動かしノートに書いていく。
毎日毎日これの繰り返し。
したいことは出来ないだろと周りに言われ、
横には逃げ出したくせにヘラヘラ笑ってる人。
ため息の一つぐらいつかせて欲しい。
缶コーヒーを開けて夜の空を見上げる。
飛行機が丁度真上を飛んでいた。
夜の飛行機はなんか好き。
光ってて小さくてもよく分かる。
月は反対側にあるのか、
どこにも見当たらない。
明日は迷子列車に乗ろうか
それとも絵を描こうか迷いながら歩いていると、
蒼いコートにチェックのマフラーをつけた
少女が前を歩いていた。
その足取りは少し嬉しそうで
思わず笑顔が零れた。
なんだか明日は迷子列車に乗りたい気分、
こんな一瞬で決まるなんて思ってなかったから
その後は一人でクスクス笑ってた。
"Good Midnight!"
ため息ついても
幸せはそんな簡単に逃げないみたい。