仲のいい友達も
家族も
自分さえも
誰も知らない秘密。
言わなくていいことは口に出さずに
わからなくなって、
誰かを傷つけることは口に出さずに
わからなくなって、
だんだん私のことがわからなくなってきて
耳が曇って
消えてみたくなって。
貰った言葉は自分の中でねじ曲げちゃって
自己嫌悪の海に溺れて
言葉すら発せなくなって。
思いを伝えようと口を開くけど
喉に詰まって
これまで押えてたものが
咳と一緒に出てきちゃって
止められなくて
涙が溢れ出た。
そんな時に
湖に船を出してる人が見えた。
あの湖に人がいるのが珍しくて
涙を風で吹き飛ばすくらい
走って湖に向かった。
船の上には本を読んでる人と
黒猫がいた。
どちらも気づいてなさそうに見えた。
こんな時何を言えばいいか、
またわからなくなった。
それでも2人ともこっちを見てない。
どれだけ悩んでも
わからなくなって泣いても
大丈夫なんだと思うと
気が楽になって自然と声が出た。
"Good Midnight!"
死んだ方がマシなくらい寒い中、
膝下まである雪をかき分けて
私はここにいると言うように
スキーをする少女がいた。
少女に憧れ
スキーの訓練を申し込んだ者は最後、
少女の速さに
技術に
教え方についていけず、
雪に頭を突っ込んで終わり。
右に出る者はいないと思われたが
実は昔はスキーチームに所属していて
少女が1番落ちこぼれで
雪に突っ込んでばかりだった。
ある日リフトの事故で
6人中5人が意識不明の重体、
1人は軽傷だった。
リフトから落ちた時、
5人全員が少女の元へと滑り
急な斜面から引き離したのだ。
引き離した反動で
5人は少女と離れ
直後に雪崩が5人を襲ったのだった。
少女が起きた時
いつも溜まっていた宿舎が
静かな夜明けに飲み込まれているのを見て、
もし
少女が人並みに滑れていれば
6人で急いで斜面を滑り降りたら
助かったかもしれなかった。
そんな考えが少女の頭の中を駆け巡り
鬼のような特訓を積み
ようやく得た技術だった。
努力の天才は
きっとこの先人を助けるだろう。
そしてきっと
5人に縛られて生きていく。
その事は少女もわかっていた。
"Good Midnight!"
夜、いつも思う。
いつか少女を止めてくれる人が
現れてくれると信じることを。
千五百年以上も生きる私には
周りの世界はまるで他人のようだった。
自分はそこにいるのに、
この世界の一員なのに
ここにいないみたいな。
1度だけ
背の低い人を連れて旅をしたことがある。
趣味の予言を伝授したが
私にはまだ遠く及ばない。
精々翌日のことが
ほんの少し詳しくわかるだけだ。
それでも未来の見方を教えて
予言の練習をさせた。
私にはこの人は習得ができないという未来が
バッチリ見えていたのだ。
しかしなぜか教えずにはいられない。
未来をこの手で変えてみたい。
そんな浅はかな願いで
その人に付きっきりだった。
ある日、
その人からカラフルな花束を貰った。
額縁にフィルムで空気を入れずに挟むと
枯れないらしい。
永遠の花束。
永遠なんてそんなもの、
存在しないはずなのに
この花は枯れるはずなのに
人の手によって永遠は実現された。
私はたまらなく嬉しくて、
その日はいつもより細かく教えた。
まだまだ私の寿命は長い。
あともう千年は生きられるだろう。
でもこの数年が誰かの人生を変えて
私という存在を植え付けた。
心に残り、
声も顔も仕草も笑顔も
覚えてしまうのだ。
"Good Midnight!"
白色の額縁に入ったカラフルな花束は
今日も色褪せず綺麗で。
ある日、
背の低い人がこの花屋にやってきて
カラフルな花を額縁に飾りたい、
選んで欲しいと言われたので
明るめな色合いの花を選んでいる時だった。
予言します。
最近テレビに出てる
薬物乱用ダメ絶対!の彼、明日逮捕されるよ。
薬物を取り締まる人だったんだけど、
3日間大麻をやってる人に捕まったことがあって
薬物漬けにされちゃったんだよね。
でも誰もケアしてくれなくて。
それで少し前から取り上げた薬物を
自分で使ってたんだ。
それが今日の夕方に後輩に密告される。
いきなりとんでもない話をし出すので
思わず手を止めて聞き入ってしまった。
少し背の低い人は続けて言った。
あ、もう1つ予言します。
君、2年後死ぬよ。
驚いたが、
別に死にたくないというわけでは無かったので
私は表情を崩さなかった。
その人は花を受け取ると
すぐに店を出てどこかへ行ってしまった。
花屋は18時にはもう閉店で
私は家に帰った。
部屋に入った途端
両目から涙が溢れ出して
口から死にたくないという言葉が出た。
意味がわからずにいた。
私は今までの人生で楽しいことも
苦しいことも無かったから。
生きてても死んでても同じなら
死んでいたいなと思っていたぐらいだ。
鈴をつけた黒猫は
私の涙をペロペロ舐める。
いつもは私と同じで
無表情で感情を表に出さず
気に入らないことがあると
爪で引っ掻くくせに。
やさしくしないでよ。
今日だけはやさしくして欲しくない。
あの背の低い人が言ってたことが本当なら
2年後に死ぬかもしれないってのに
生きたくなっちゃうから。
翌朝、
テレビに出ていたのは
薬物で捕まった彼だった。
昨日の人が言っていたことは本当だったのだ。
この調子なら私死ぬな。
そう思うと
花屋なんかでバイトしていたくないと
バイトを飛び
旅行に出かけた。
もちろん黒猫も一緒に。
行動が早すぎるし
準備もなにも出来てなかったけど、
野宿も視野に入れて
1日を満喫した。
"Good Midnight!"
久しぶりに見た空は
黒くて暗くて
星が沢山散りばめられていた。
ただいつもと同じように
道路を歩いてた。
いつも通り苦しかった。
私は小説家になりたかった。
けど物語を書いていくうちに
これまで書いてきたものも、
今書いてるものも、
全部全部
話が面白くなくて
意外性がなくて
オチがなくて
私に才能がなくて。
ずっと前に見た
魔法みたいに話が進んでいって
まるで目の前で起こってるように思えた話は
私には書けなかった。
薄々気づいてたことだったけど
改めて思うと
もう楽しくなくて。
ずっと苦しくて引っかかるだけだった。
家に帰ると
書きかけの小説と
くしゃくしゃの紙。
久しぶりにゴミ箱に入れると
ゴミ箱の下に隠された手紙があった。
見覚えのある手紙だった。
恐る恐る読んでみる。
小説家になりたい私へ。
今から初めて小説を書きます。
でも多分、
私は綺麗に話を作れない。
1文字も書いてないけど、
わかります。
私のことだから
この手紙をほんのりとしか覚えてない頃、
才能がないから諦めようだとか、
書いてても楽しくないだとか
適当な理由をつけて
簡単に夢を諦めようとすると思います。
でも私は
ごちゃごちゃで分かりずらい話でも
私の書く世界が好きです。
その事を思い出してください。
お願いだからこれ以上
私の世界をゴミ箱なんかに捨てないでください。
大切に持っていてください。
ポロポロと涙が零れた。
私は私のことを誰よりもわかっていた。
未来の私の夢を救ってくれた。
行かなくちゃ。
机に向かって
椅子に座って
白紙に世界を書かなきゃ。
私が書かなきゃ
世界は始まらないから。
"Good Midnight!"