正直猫かぶってる自分は
吐き気がするほど気持ち悪かった。
なんでも引き受けて
何をされても怒らず注意するだけ。
ロボットとはまた違うけど、
人間味のあるロボットみたいな感じ?
言っちゃうとあれかもだけど、
隣ではちょっとやそっとのことで
ぶっ倒れてるやつがいて
気にかけてもらってて
羨ましくもあったけど、
その立場は
私じゃないなって思ってやめた。
それでも疲れてきて
ちょっと歩くの止めて
空でも飛ぼうかなって思ったりもした。
でもね
まだあの神アニメの続き見てないし、
大好きな漫画は完結してないし、
だからそれもやめた。
そしたら待ってるのは
我慢とため息よね。
もういいよ。は
許したんじゃなくて
諦めただけでまだ怒ってる。
すごいねって言ってても
どこかでその人を見下してたり
恨んでたり、妬んでたり…。
鏡に映る顔には
笑顔が張り付いてて
にっこにこ。
人生に疲れちゃった証明みたいな
病気も特にないからね。
持ってちゃダメっていうか
治さなきゃいけないやつなんだろうけど
持ってる人を時々羨ましく思っちゃう。
曖昧で繊細で細かくて
薄れやすくて霞みやすくて
そんなどこかの誰かさんの夜に
少しでも安らぎをもたらせる言葉。
"Good Midnight!"
こう言っちゃえばどんなに最悪な夜でも
いい真夜中になるから。
1つ自分の殻を割ってみたいと思った私は
帽子かぶって
猫は脱いで
にっこにこで
鏡を割ってやろうと思った。
あの時ほんの小さな勇気が
私を動かしていたら
きっと何か変わっていたかもしれない。
そう思うことが多々ある日常の中で
したくなくてもしなきゃいけない、
行きたくなくても行かなきゃいけない、
我慢しないといけない事なんか
山のようにあって
それを毎日自分の感情殺して
こなしていって
本当はとっくに辞めたいのに
とっくに逃げ出したいのに
引き止められちゃって
続けちゃって
何かを変えたいのに
変える選択肢を消してるのは自分で、
やっぱりどうしようも無いのかもって
日が当たるまで
少しだけ息を止めて
少しだけ潜っていて。
そしたら鳥につつかれて、
庭の手入れっていうのかな。
掃除?みたいなのしないかって言われて
その時は投げ出したい気分だったから
引き受けますって言って
全てを捨てて
庭の掃除をする人になった。
でもその庭には
いろんな種類の鳥しかいなくて
人は一人もいなかった。
ちょっと不安になったけど、
無駄死にするくらいなら
鳥に食われた方がマシだって。
綺麗な紫陽花を育てたり
レンガを磨いたりした。
意外にも庭の掃除をする人は
私に合っていて
楽しかった。
前よりもずっと幾らか楽で。
"Good Midnight!"
あの時私をつついてくれた鳥は
手紙を届ける魔法のカモメで
ここ何週間か会っていないのだが
もっと前にあったことがあるような
懐かしいような気がして止まない。
今日も薄い霧の中
紫陽花に水をやる音が庭に響いた。
えへへ。
ニコニコと笑顔な少女には
悩みなど知らないような
明るいオーラが付きまとっていた。
余程いい事があったのか
いつにも増してご機嫌だ。
買っちゃった!
買っちゃったぞ〜。
一緒に使う友達いないけど、
腕時計型トランシーバー!
袋の中の箱にはトランシーバーが1つ、
もう1つは既に少女の腕に付けられていた。
ぬいぐるみにでも付けて
ままごとでもするのだろうかと思われた。
しかし
少女は川に投げ捨てた。
そしてコールを待ったのだ。
何時間も、何時間も。
大きなコール音が鳴ったと思ったら
わぁ!と声を上げたが
少女はすぐに応答し、
"Good Midnight!"
こちら、白雲峠より旅に出た者です。
状況報告します。
星が降っています。
いい夜です。
と言った。
向こう側はなんて言っているか
聞き取れなかったが
構わず少女は続ける。
私の声が聞こえ、状況確認が完了しましたら、
また川に流してください。
どうやら色んな人と話すことが
少女の目的のようだった。
子どもっぽいけど
どこか言葉遣いが大人というか、
手慣れてるというか。
上を見上げても
夜じゃないし、星も降っていない。
白雲峠というのも聞いた事がない。
謎しか浮かばない少女は
鼻歌を唄いながら
スキップでどこかへ行ってしまった。
まるで流れ星のように。
昼間、
あの子を探してたら
草むらに寝転んで昼寝してたんだ。
手をぺろぺろと舐めても起きないから
私は仕方なく隣で寝てやったの。
それで起きたらあの子はもう起きてて、
私より早く起きたんなら
別にどこかほっつき歩いててもよかったのにと
思いながら
花畑でまた寝ようと思ったの。
そしたらあの子、
私を持ち上げて家まで連れて行っちゃって
びっくりしたわ。
でもお腹は空いてたから
晩御飯の時間だったってことに気がついたときは
嬉しかった。
夜なのに暖かいその日、
あの子は寝ようとせずに
1人で家を出ていったんだ。
あの子はしっかりしてるけど
どこか注意力がないのよね。
だからついて行ってあげた。
そしたら湖にボートを出して乗ってて
私もそーっと乗っておいた。
けど流石に湖の真上で危険はなくて
もういいか、って寝てみた。
吊るしたランプで本を読むあの子は
静かだし、
笑ってもいないけど
楽しそうに読んでるのがわかった。
もう年だから
この頃ずっと眠い。って言ってみたいところだけど、
まだ2歳だからね、私。
まだまだ長い終わらない物語だからね。
たまにはあの子とボートに揺られて
過ごす夜もいいなぁと
目を瞑った。
"Good Midnight!"
幸せになるなよ。
昔の私は今の私を
引っ張って
後ろに引きずり込もうとします。
昔と今は違うのに
私はなんだか囚われてしまいます。
ちょっとした事でも
頭に残って
後から前のと合わせて
大勢で私を苦しめます。
どんなことをしていても
頭のどこかにはいて、
何をしても楽しめないんです。
受け入れてあげたい、
でも引きずり込まれたくはない。
少し自己中心的で
欲張りな気もしますが
私は捨てたくなくて
いつまでも目を瞑っていました。
そしていつしか
昔の私と今の私の間に壁を作って
向こう側のことを忘れるようにしたんです。
いや、
忘れるようにしたかったんです。
実際は忘れられませんでした。
忘れようとすると
毎晩毎晩
悪夢を見るんです。
お前なんかが幸せになるな。
私は私だろ?
何も変わっちゃいないさ。
息が浅くなって
汗をかいて起きます。
ある日見つけたのは
夜が似合う
夜の散歩の話でした。
詳しくは思い出すのではなく
読みたいのですが、
私の大好きな本になった事、
"Good Midnight!"
で始まる
お洒落な本だということは言っておきます。
いつの間にかまた昔の私が出てきて
後ろに引きずり込もうとします。
でも今日の私は
私にやさしい嘘をついてあげます。
遠くから見たら星に見えるの。
だからもう少し遠くでお互いを見ようよ。