山と山に挟まれている
大自然の中にある
白い屋根の家に住んでいる。
毎朝決まった時間には起きない。
なんなら昼に起きることの方が多い。
ダラダラと過ごすだけで、
退屈な日々。
人はほとんど来ないから
話し相手も道案内することもなくて、
一応身だしなみには細心の注意を払ってるけど
もう裸で外に出ても別にいいのでは?と
思い始めている。
少し上に登っていくと
茶色い柵が見えてきて
メェー、メェー、
羊の声と
ベルの音が近づいてくる。
こんな山奥の冬はもちろん寒い。
だから羊の毛は貴重で必要なもの。
動物は暖かいから
見つけたら何でもかんでも
この柵の中に入れるようにしている。
なぜこんな暮らしを始めたのかというと、
小さい頃、
「ターシャ・テューダー」という人の
人生を書いた本を読んだ時、
私もこんな暮らしがしてみたいと思い
田舎で自然だらけのところに家を買った。
ターシャ・テューダーさんが
好きなことをして楽しそうに暮らしてたから
真似してみたくなった、
ただそれだけ。
好きなことに一生をかけれるのは
素敵なことだ。
昔も今も
その考えは変わらない。
ただ流石に暇ではある。
川は近いから
飲水を汲むのは簡単だ。
食料も山菜と木の実と動物で
何とかなっている。
どうやらここは
私のあと何十年も残っている
人生の無駄使い場のようだ。
"Good Midnight!"
夜は冷えるから
羊の毛で作った服を着て
憂鬱がないこの場所で
暖かく明日を迎えようと。
スノードームにある
白い粉みたいな。
なんて言うんだろう。
雪みたいで
寒くて冷たくて
でも綺麗で、
大切にしたいって思う。
ああ、
寂しさ
それを言いたかった。
ぐちゃぐちゃに
適当に塗った絵の具が
全部計算されてたみたいに
綺麗な絵に変わっていく姿。
それは私にはできないことだった。
魔法みたいに
絵を綺麗に魅せることなんか。
想像は固くて
広い考えが思い浮かばない。
だからずっと
練習してた。
どう言えばいいのか、
どう想像すれば
硬い頭を破って
白い鳩が飛び散って
世界を超えていけるのか。
歩いて、歩いて
走って
立ち止まって
下を見て
空を見て
また歩き出して。
何か足りない私でも
それが私なんだって
言えるように。
でも
ねえ、私もう歩きたくない。
しゃがんで
歩こうとして
でも足が動かなくて
下を見て
もうここしかないのかもって
縋り付いた地面は冷たくて
寂しさみたいだった。
私には目の前にいる人が
なんで泣いてるのかわからないし、
理由を聞こうとしたら
周りにとめられる。
「やらない善よりやる偽善」なんて
私いつまで
偽善擬きなんだろうって。
善にも偽善にも入れなくて
中途半端で
でも足を引き止めてあげたくて。
どう言えばいいんだろう。
また絵の具の色を間違えたらどうしよう。
"Good Midnight!"
不安だらけの中で
1つでもいいから
想像で世界を変えて
アンテナみたいに
飲み込むんじゃなくて
テレパシーみたいに
言葉が無くてもいいから
もう一度
絵の具を塗り直そうと。
冬眠の季節。
犬も猫も私も
コタツで丸くなっていた。
猫は私の手に噛み付いて
すぐにぺろぺろ舐める。
ただ自然が好きって言えばいいのに
花鳥風月が好きってわざわざ言う人を見た気分。
犬も犬で
私の真隣にピッタリくっついてきて暑い。
コタツの中なのに
なんでくっついてくるんだ…。
ため息をついて
テレビのリモコンに手を伸ばした。
1番最初に流れてきたのは
嫌なニュース。
みんながみんな同じ気持ちなんてことは
ないんだよなぁって
改めて思った。
他人事みたいに聞こえちゃうかもしれないけど、
これは私なりに理解しようとしてるつもり。
つもりってだけで
届かなきゃ意味無いんだけどね。
見る気が失せたので
テレビを切ると
コタツがより一層暖かくなった気がした。
電気の量って
わかりやすい時あるよね。
犬と猫は
流石に暑くなったのか
タイルの床で寝そべっている。
呑気な奴らだなぁ。
私はまだやる事が残ってる。
もう眠いのに
できるわけないから、
面倒事を全て明日の自分に託す!
"Good Midnight!"
終わり良ければ全て良し。
そんな私と冬は一緒に
どこまでも飛んでいけそうな
冷たい風をふーっと吹かせた。
兎の耳がひょこっと出ている少女は
懐中時計を見ながら
そろそろかな。
と言った。
中世ヨーロッパの街中を歩く
その少女には
もう兎の耳は見当たらない。
とりとめもない話が聞こえる中、
少女が急に空中を歩き出すものだから
みな口を開けて上を見ていた。
少女がカチッと懐中時計を押すと
石化したように
街中の人の動きが止まった。
するとツタにまみれた
古びた木のドアが目の前に現れた。
少女は迷う様子もなくその中に入っていった。
少女はまた兎の耳を出し、
今度はふわふわでまん丸のしっぽも出した。
少女は獣人だった。
ようこそ。
お待ちしておりました。
ネッシーのような者が
少女に言った。
ここは伝説と言われる生物の
最後の生息場所。
大昔、
人間に絶滅させられそうになった時
頭に棒付き飴の様な物がついた少女、
面倒くさがりの天才が
ここを作って逃がしてくれたのだ。
しかし人間は逃げた者たちを必ず撃とうと
伝説の生物として
後世に残していった。
だが後世の人間は
伝説の生物は神聖な者として
重宝する考えをしていた。
おかげでここは平和なまま。
ネッシーに乗って川を渡った少女は
家族に会いに行った。
久しぶりの帰還に
少女の家族は喜んだ。
"Good Midnight!"
みなここが
ずっと平和で幸せに暮らせることを願っている。
異世界行きたいなぁ。
そんな考えが浮かぶとすぐに
私は妄想行きの電車に乗る。
ノイシュヴァンシュタイン城みたいな
お城で仕える使用人か、
お城の周辺に暮らすモブになりたいと
心から願ってる。
現実はシャバいから。
少し上から目線のような感じがするが
異世界転生でもしたら
さっき言った通り、
下の人間になろうと思ってるんだし
打首されるのはごめんだから控えるけど
今なら許されるからね。
久しぶりに着た
如何にもモブAっぽいワンピースは
私のお気に入り。
着すぎて1度破れたことがあって、
それからもう1着買って
たまに着るようにしている。
首から足首までストンと
ストレートなこのワンピースを
腰辺りでベルトを付けると
ものすごく平民っぽい。
最近風邪が流行ってるらしく
今日は珍しく着込んだ。
風が強かったのでね。
家を出てからも
妄想の世界は止まらない。
こんなに寒い外も
妄想の中では暖かい。
"Good Midnight!"
私はそんな妄想の世界が
たまらなく好きなのだ。