アトラス彗星。
今を逃すと8万年ほど後まで
見られないといわれている彗星。
秋晴れの今日なら見られると空を見上げた私は
急に天気雨が降ってきたことに気づいた。
狐の嫁入り。
こんな彗星が見れる日没に嫁入りとか
ロマンチックでいいなぁと呑気に思っていると、
段々雲が出てきた。
もちろん彗星は見えなかった。
嫁入りも中止だろうか。
スーパームーンも見れなかったんだ。
今日くらい見せてくれよぅ。と
空に向かって叫んだ。
午前1時24分。
ぼーっとしていたら
いつの間にかこんな時間になっていた。
眠いけど寝たくない。
明日が来て欲しいけど夜更かししていたい。
曖昧な感じだった。
足も腕もクタクタだ。
4時間昼寝をしたってのに、
疲れが取れないのは何故だろう。
買った時は毎晩読んでいたのに
忙しくて触れてすらいなかった漫画に
手を伸ばす。
"Good Midnight!"
はい、この言葉大好きでございます。
心の中で何故か敬語で喋っていた。
今日は本当に疲れたな。
彗星はもう見えないかな。
でも、いっか。
また8万年後に見れば。
用事で出かけた帰り道、
一輪だけ
彼岸花が咲いてた。
真っ赤なやつ。
でも次通った時にはもう無くて
ちょっと寂しくなった。
咲くのをずっと見守ってたとか、
彼岸花がすごく好きとか、
そういう訳じゃないけど
なんとなく。
2Lの水を半分飲みほし
たけのこの里を5袋開ける。
鳩時計が午前3時を知らせてくれる。
することも無かったので
久しぶりに夜外出した。
私は耳が聞こえないので
外に出ても景色以外変わらない。
人の声など気にならない。
手話は苦手だ。
全然覚えられない。
まあ、口の動きでなんとなくは分かるので
コミュニケーションは取れてきた方だが。
街灯が照らす道を
ずーっと歩いた先に
痩せ細った女の子がいた。
まもなく死にそうな彼女は
口を動かしていた。
かみさま、と。
どうやら家族がいないようで
人生終了という目をしていた。
神になるつもりは無いが、
こんな所で死なせたくないと思ったので、
家に運び
食事を与え
手当をしてやった。
今更捨てるのも
自分に悪いような気がして、
家に置いてやっていた。
少し経つとすぐ懐いた。
筆談でおすすめの漫画を教えてやったり、
手話を習いたいと言ったので
通わせたりした。
ある日
急にふらっときて、
あ、これ目瞑ったら終わりなやつだ。と感じた。
必死に目を開けようとするが、
努力は虚しく。
白目をむいて終わりだった。
あれからどれほど寝ていたのだろうか。
目を覚ますと夜で、
病院で、
ベッドの上で、
たくさんの管に繋がれて横たわっていた。
少し横を見ると
あの女の子がいた。
そろそろ死ぬのだろうか。
あ、こういう別れ方をしてみようかな。
声が出ているか
出ていないかはわからないが
口を動かした。
"Good Midnight!"
洒落た一言。
でも大好きな一言。
すまないことをしたなぁ。
中途半端に育てて
私、何も出来てなかった。
何もあげられなかった。
ああでも、
哲学みたいなことは
手話で教えてみたりしたっけな。
どんな気持ちも
記憶に残さなければならない物なんだって。
人生はここで終わんないって。
あー。
あの彼岸花の赤色。
忘れたくても忘れられない。
最後は哲学みたいなことを教えたって話で
終わりたかったのになぁ。
はぁ。
なんだか夜更かししたくて、
少し古い迷子列車に乗った。
食堂はうどんしか無いし、
自動販売機も
ミルクティーとココアしか無い。
初めてこの列車に乗ったけど、
色々めちゃくちゃだ。
でもまさか
車掌さんが車両ごとにアナウンスするとは。
中々面白い。
嫌な人は星のボタンを押してくれと言っていたが、
一人寂しい夜は
少しの話し相手がいる方がいいと思ったので、
押さずに待っていた。
意外と早くにアナウンスが来た。
初回の人に配ってるという枕を選び、
少しだけ車掌さんと話した。
窓が大きいこと、
星を見るお供の本のこと。
時間はあっという間に過ぎ、
"Good Midnight!"
と言って
車掌さんは他の車両へアナウンスに行った。
また一人に戻る。
食堂のカウンター席からしか見れない
星があると車掌さんが言っていたので、
おすすめしてもらった本をら借りて
食堂へ向かった。
ミルクティーを買い、
1番端のカウンター席に座る。
どの星がここでしか見れない星なのか、
わからなかったけど
やわらかな光が
私を包み込んでくれて、
その中で読む本は最高だった。
首が痛くなってきたので
少し視線をずらす。
5つくらいの
全部同じ味のうどんが目に入った。
にしても、
本の名前にも麺類が入ってるなんて。
さあさあお立ち会い!
今宵ご覧いただくのは
シャボン玉でございます。
はぁ?と思う方もいらっしゃいやしょう。
ところがどっこい。
ワタクシのシャボン玉は
そこらの安モンとは違いまっせ〜?
まあまあ、
気になるなら見てってください。
シャボン玉の液から
少し違くてですねぇ、
これ、ワタクシが作ったんすけど
それはもう大変で。
10年ほどかかっちまいましてねぇ〜。
ある所から仕入れたんすけど、
イッカクの涙が入ってまして
割れにくいシャボン玉ができるんですよ。
お、準備できました。
さー!さー!
道行くみなさん!
ふぅ〜っと吹き込んだこの息、
一体何者だと思います?
ではそこの鋭い眼差しを向けてくるお嬢さん!
ただの二酸化炭素?
大正解ですが、
もう少し表現を変えやしょうか。
こちらシャボン玉液の中に溜めた
タメ息でございやす。
チリリリリン。
あれ、もうタイマー鳴っちゃった。
バターを溶かしてる時間が
どうしても惜しくて、
気になってた本を読んでいた。
当然フィクションだ。
イッカクなんている訳ないもんね。
口調もちょっと古い感じするし。
でも何故か引き込まれる。
半分以上読んでしまった私は
まさかの午前1時まで
マドレーヌを作っていた。
集中力がいいってことで。
"Good Midnight!"
ちょっと本の口調を真似てみたいと思った。
でもこれは英語か。
うーん…。
タメ息溜めて
幸福吸って
シャボン玉みたいに
なってくだされ。
私は虫を寄せ付けるために
甘い香りを纏った紫陽花。
コアジサイというの。
ふふっ。
薄い青紫色、綺麗でしょう?
夏のはじまりにぴったりよね
私って。
でも最近悩みがあって、
高く高く飛んでみたいの。
ずっと地面にいると時々、
どん底にいる気がして、
根っこごと抜け出したくなるの。
バッタみたいに跳ねるんじゃなくて、
飛びたいのよ。
空中を美しく舞いたいの。
こんな思いばかり葉っぱに募って
梅雨時の雨も美味しくなかったわ。
その頃だったかしら。
山に人が出入りするようになったの。
そしては私は千切られた。
次に見たのは
昼夜逆転していそうな女の人。
私はガラス瓶のようなものに
雨の匂いと一緒に
液体として入っているようだったわ。
その人は私を買ってすぐ家に帰って
すぐ寝て、
午前3時頃に起きて、
私を取り出した。
前の私では叶わなかったことが
叶った瞬間だった。
空中を舞ったの。
最高だったわ。
もっと余韻に浸りたかったのに、
"Good Midnight!"
ってその人は急に呟いたの。
その次は、
おめでとう自分。
どん底みたいな人生で
今すぐ手放したくなるけど、
最低最悪なりに最高の日々を過ごしたって
言えるようになろうね。
って言ってたかしら。
カラフルな金平糖を
コーヒーに入れてるのも見たわ。
言葉の意味はわからないけれど、
私、この人に
私で幸せになって欲しいって思ったわ。