はぁ。
なんだか夜更かししたくて、
少し古い迷子列車に乗った。
食堂はうどんしか無いし、
自動販売機も
ミルクティーとココアしか無い。
初めてこの列車に乗ったけど、
色々めちゃくちゃだ。
でもまさか
車掌さんが車両ごとにアナウンスするとは。
中々面白い。
嫌な人は星のボタンを押してくれと言っていたが、
一人寂しい夜は
少しの話し相手がいる方がいいと思ったので、
押さずに待っていた。
意外と早くにアナウンスが来た。
初回の人に配ってるという枕を選び、
少しだけ車掌さんと話した。
窓が大きいこと、
星を見るお供の本のこと。
時間はあっという間に過ぎ、
"Good Midnight!"
と言って
車掌さんは他の車両へアナウンスに行った。
また一人に戻る。
食堂のカウンター席からしか見れない
星があると車掌さんが言っていたので、
おすすめしてもらった本をら借りて
食堂へ向かった。
ミルクティーを買い、
1番端のカウンター席に座る。
どの星がここでしか見れない星なのか、
わからなかったけど
やわらかな光が
私を包み込んでくれて、
その中で読む本は最高だった。
首が痛くなってきたので
少し視線をずらす。
5つくらいの
全部同じ味のうどんが目に入った。
にしても、
本の名前にも麺類が入ってるなんて。
さあさあお立ち会い!
今宵ご覧いただくのは
シャボン玉でございます。
はぁ?と思う方もいらっしゃいやしょう。
ところがどっこい。
ワタクシのシャボン玉は
そこらの安モンとは違いまっせ〜?
まあまあ、
気になるなら見てってください。
シャボン玉の液から
少し違くてですねぇ、
これ、ワタクシが作ったんすけど
それはもう大変で。
10年ほどかかっちまいましてねぇ〜。
ある所から仕入れたんすけど、
イッカクの涙が入ってまして
割れにくいシャボン玉ができるんですよ。
お、準備できました。
さー!さー!
道行くみなさん!
ふぅ〜っと吹き込んだこの息、
一体何者だと思います?
ではそこの鋭い眼差しを向けてくるお嬢さん!
ただの二酸化炭素?
大正解ですが、
もう少し表現を変えやしょうか。
こちらシャボン玉液の中に溜めた
タメ息でございやす。
チリリリリン。
あれ、もうタイマー鳴っちゃった。
バターを溶かしてる時間が
どうしても惜しくて、
気になってた本を読んでいた。
当然フィクションだ。
イッカクなんている訳ないもんね。
口調もちょっと古い感じするし。
でも何故か引き込まれる。
半分以上読んでしまった私は
まさかの午前1時まで
マドレーヌを作っていた。
集中力がいいってことで。
"Good Midnight!"
ちょっと本の口調を真似てみたいと思った。
でもこれは英語か。
うーん…。
タメ息溜めて
幸福吸って
シャボン玉みたいに
なってくだされ。
私は虫を寄せ付けるために
甘い香りを纏った紫陽花。
コアジサイというの。
ふふっ。
薄い青紫色、綺麗でしょう?
夏のはじまりにぴったりよね
私って。
でも最近悩みがあって、
高く高く飛んでみたいの。
ずっと地面にいると時々、
どん底にいる気がして、
根っこごと抜け出したくなるの。
バッタみたいに跳ねるんじゃなくて、
飛びたいのよ。
空中を美しく舞いたいの。
こんな思いばかり葉っぱに募って
梅雨時の雨も美味しくなかったわ。
その頃だったかしら。
山に人が出入りするようになったの。
そしては私は千切られた。
次に見たのは
昼夜逆転していそうな女の人。
私はガラス瓶のようなものに
雨の匂いと一緒に
液体として入っているようだったわ。
その人は私を買ってすぐ家に帰って
すぐ寝て、
午前3時頃に起きて、
私を取り出した。
前の私では叶わなかったことが
叶った瞬間だった。
空中を舞ったの。
最高だったわ。
もっと余韻に浸りたかったのに、
"Good Midnight!"
ってその人は急に呟いたの。
その次は、
おめでとう自分。
どん底みたいな人生で
今すぐ手放したくなるけど、
最低最悪なりに最高の日々を過ごしたって
言えるようになろうね。
って言ってたかしら。
カラフルな金平糖を
コーヒーに入れてるのも見たわ。
言葉の意味はわからないけれど、
私、この人に
私で幸せになって欲しいって思ったわ。
ドライアイス触るなら死んだ方がマシ
って言ったら
ドライアイスで死んだんだよね〜。
ここはイマからかけ離れた天界。
子供のようにきゃっきゃっと話しているあの子は、
信号無視のトラックに轢かれて
投げ飛ばされた先で
トラックから落ちてきたドライアイスが
全身に降ってきて死んだ子。
ここでも時々、
全身が焼けるように痛いと
叫んでいる姿を見た。
この人は溺死、あそこにいる人は転落死。
なにで死んだか、
自分で話す人が多い。
つまりここにいる人は
ほぼジコ死の人。
ここで、
イマはこんなに物騒なのかと思うかもしれない。
事故ではなく自己。
事故死ではなく自己死。
あの子は信号無視のトラックに轢かれたと
言っているが
信号無視をしていたのはあの子の方。
ドライアイスも自分で買ったものだった。
この人は年を取りたくなくて
綺麗なまま消えたくて
自分の家の浴槽で…。
あそこにいる人はいい人だよ。
病気にかかったと嘘をつく親友に
お金を借してあげてた。
月80万くらいだったかな?
でもブラック企業でね、
本当は借せるお金なんか無かったの。
借金してまで渡してた。
最期は親友に借金の限界が来たから
そろそろ返して欲しいって言ったら
崖から突き落とされて…。
本当のことを知らずに逝っちゃって、
天界で知ったんだよ。
ま、可哀想だったから
私が教えたんだけどね。
管理者は別に、
こーゆーのんびりした感じでいいのよ。
キマリなんて
片手で数えれるぐらいしか無いしね。
にしてもイマって怖いよね。
暴言飛び交ってて、
その中に放り出される子たち
ほんと可哀想だと思うよ。
いつからこうなっちゃったんだろう。
でもイマを生きる
あの人も、その人も、
そのうちこっち側に来るし、
なんなら毎日誰か来てるし。
結局イマって
夜中みたいなもんで、
天界って
昼間みたいなもんなんだよ。
イマを生きるのは孤独。
暖かさを感じる時もあるにはあるけど、
すごく貴重で少ない時間。
ま、私はイマを生きることをおすすめするけどね。
人いるし、
賑やかだけど、
暖かすぎる。
孤独な時間が足りない。
"Good Midnight!"
イマは両方楽しめるから。
ちゃんと孤独も味わってよね。
海色の切手が無きゃダメだよ。
私はある人に手紙を出そうとしていた。
問題は、名前も思い出せないし、
住所も、生きてるか死んでるかすら
わからないこと。
そんな時
噂を思い出した。
「放課後ポスト」。
学校から開放された放課後のように
自由なポスト。
なんでも、
そのポストは
住所や宛名が書いていなくても
ポストの上にとまっているカモメが
必ず届けてくれるらしい。
でもまさか
そのカモメが喋るとか、
普通の切手じゃダメなのとか、
そんなことは予想つかないよね。
ねー、ボクもう今日の分運んじゃうけど。
カモメに急かされる。
ごめんなさい。切手、それ以外持ってないんです。
海色の切手、本当に持ってないの?
カモメはポケットをまじまじ見る。
よく分からないが、
ポケットをまさぐると、
藍色のような、水色のような、
綺麗な切手が1枚出てきた。
手書きのような字で
"Good Midnight!"
と真ん中に書かれていた。
ほら、あるじゃん。さっさとこの切手の上に貼って。
は、はい。
切手を貼ると、
さっきまで空白だった
住所と宛名の所に文字が現れた。
なるほど、この切手のおかげで
カモメが運べるんだ。
ね、キミさ、あとでそこの雑貨屋行きなよ。
と言うと、
カモメは数枚の手紙を持ち、
すぐに飛び立ってしまった。
言われた通りに雑貨屋へ行くと
フクロウに似たあの人が
店員さんだった。
お久しぶりです。
その声は
驚きすぎて
すぐお店のドアを閉めた
私の耳には届かなかった。