上手くいかなくたっていい
ある日、僕はパパと語り合った
この世に生きる歓びや悲しみの言葉を。
上手くいかなくたっていい、むしろ上手くいかないほうがいい、パパはそう言って微笑んだ。
失敗は成功への道なんだよ。
人は悲しみが多いほど人に優しくできる
失敗を恐れるな。
勝って強くなるんじゃないんだよ
負けて強くなるんだよ。
パパは、そう言って微笑んだ。
そして、僕は知った悲しみの朝を
僕はパパと約束したことを忘れない
唇を噛み締め拳を握りしめても
胸を張り風に向かって立つ一本の葦のように
僕は立っていた。
その朝、パパは虹の橋を渡った
二度と会えないこと
温もりを感じられないこと
僕は知っていた
だから、最後まで涙をふいて胸を張り
僕は立っていた。
やがて季節が巡り
僕はパパより歳上になった
それでもパパは、僕のパパ
今なら分かる、パパの言葉の
本当の意味を。
そして、僕もパパと呼ばれながら
青空の下パパと話した言葉を
話すよ、その時青空には虹がかかり
パパは微笑んで風を送ってくれる。
そうして、命はひろがる…。
令和6年8月9日
心幸
蝶よ花よ
「こっくりさん、こっくりさん…」
西陽の入る教室で女の子が向かい合って
10円玉に人差し指を乗せて白い半紙に描かれた⛩️をくぐった。
一面の菜の花畑葉っぱに小さな青虫がとまり
食事中その頭の上をモンシロチョウがかすめた
見上げた青虫たちは、「おおきくなったら、なんになる?」と語り合った、「モンシロチョウより大きくて優美なアゲハチョウ」一匹の青虫が菜の花の葉っぱの向こうから遠くに広がる青い空を見上げて言った、「わたしは、あの飛べないけどよく走る頭に麦藁を被せモンシロチョウを集めるものになりたい」「えー、怖いよ、わたしは、鳥になってあの遠くに広がる青い草原を飛びたい」「えー、わたしたちを連れて行くの!?」それぞれに思い巡らす、だけど大きくなったら、この菜の花畑に育った青虫はモンシロチョウになるのでした。
お花畑をひらひらと舞うモンシロチョウになるのでした。
どんなに、遠く遠く離れても、その日に見た蝶と花を忘れぬように、覚えていること。
こっくりさんは、そんな文字を綴り⛩️の中に戻りました。
ハッと女の子たちは目を覚ましたように我に返りました、黄色い西日は、オレンジ色に変わりカーテンが静かに揺れていました。
「こっくりさんに前世を聞いたら、こんなことが起こった、同じ夢のような景色を見たよね!」とひとりの女の子が言うと、もうひとりの女の子が「うん、青虫だったわ、大きくなったら何になりたいか?って話してたの、広い菜の花畑の葉っぱの上で空をひらひら舞うモンシロチョウと青い空を見上げながら…」二人は顔を見合わせ、この一瞬が見せたデジャヴの共有が怖くなって急いでこっくりさんに帰っていただき、半紙を仕舞った。
下校を促す放送とチャイムが鳴り始め、彼女たちは慌てて教室を出た。
茜色に変わった揺れているカーテンの向こうの空で赤いきつねが笑ってた。
蝶よ花よ
令和6年8月9日
心幸
最初から決まってた
最初から決まってたのは、いつかこの人生は終わるということくらいだろう。
あなたの、もとへ続くこの道は
やがて、日が暮れて夜が来るように
静かに眠りにつくのだろう。
どこで終わるのかは分からないけど
どう生きるか、生きる場所はどこにするのか
それは、自分で決めることの出来ること
それが、当たり前のことに思える
時代、国に生まれたことは、もうそれだけで
神様から、ファースト・クラスのチケットを
戴いたようなものだよ。
君、よく心得たまえ
不平不満、批判イライラを
狭い部屋で、壁に向かって唱えてみたって
誰も助けは来ないと分かっているんだろ?
ちょっと、毛色の違ったのを見つけては
吊し上げをさがしてた、突っつく獲物を探してた
禿鷹みたいじゃ、優しくなんてあれないからね
それは、虐めと同じ行為で、正義の味方のすることではありません。
そんな、好きの反対は嫌いではなくて無視
嫌いで嫌いでイライラして仕方ないは
気になって気になって仕方ないってことです。
そんな、ものを見つけては天声人語みたいなことで私刑するような大人にならないで下さい
そんな大人が親になれば、その子供はきっとイライラすると弱いものマイノリティ少数派を叩きます。
優しくありたい品格が大事だと言う人に限って
そんな私刑をします。
笑い悩みしくじりやらかし
それでも、最後に笑う
人は皆、自分の人生という物語の
主人公なのだから
最初から決まってたものは
いつか、悲しみも喜びも終わるってことくらいです。
ならば、喜び数えて生きたいなと思います。
「栄光に向かって走る
あの列車に乗って行こう
裸足のまま飛び出して
あの列車に乗って行こう
弱い者たちが夕暮れ
さらに弱い者を叩く
その音が響き渡れば
ブルースは加速していく
ここは天国じゃないんだ
かと言って地獄でもない
いい奴ばかりじゃないけど
悪い奴ばかりでもない
ロマンチックな星空に
あたなを抱きしめていたい
南風にふかれながら
シュールな夢を見ていたい
栄光に向かって走る
あの列車に乗って行こう
裸足のまま飛び出して
あの列車に乗って行こう
土砂降りの痛みの中を
傘もささずに走って行く
嫌らしさも汚らしさも
剥き出しにして走って行く
聖者になんてなれないよ
だけど生きている方がいい…」
TRAIN-TRAIN 作詞 真島昌利
心のベスト・テン第一位
私の運命を運ぶのはワ・タ・シ。
令和6年8月8日
心幸
太陽
その昔ひとりの娘が太陽の神に恋をした。
ギラギラ燃えるジゴロ太陽神アポロンへの恋は、娘にとっては到底叶うはずない恋でした。
それでも、娘はアポロンが東の空に昇ってくるのをひたすら待ち続けます。
アポロンは天の道を神馬に乗り翔けます。
その姿を娘は追い続け来る日も来る日も西の空にアポロンの姿が見えなくなるまで追い続けるのでした。
そして、とうとう娘の脚は地に根づき肢体は茎に手は葉に顔は花になってしまいました。
娘は、向日葵になったのです。
向日葵の花言葉は「あなただけ見つめている」
あなただけ見つめている
出会った日から
今でも、ずっと
あなただけ、側にいれば
他に、何もいらない…と娘が歌ったかどうかは分からない。
けれど、季節も変わり
娘も乙女のままではいられない
茎になった、しなやかな肢体は
アポロンを追いかけて向きを変え
アポロンの方を向いて咲き誇っていたが
年を取り、茎が硬くなると動けなくなって
しまうのでした。
丁度、その頃
真っ直ぐに、アポロンを見つめ続けた
その顔も、茶色くなり、金髪の鬣のような
たおやかに娘の顔を包んでいた花弁も朽ちてしまうのでした。
もう、アポロンを追いかけて
見つめることが出来なくなった
その娘は、やがて脚から倒れて落ちて
大地に突っ伏して朽ちた肢体を晒すのでした。
それでも、娘は後悔しませんでした。
全身でアポロンを見つめ続けた、その日々を
思い返しなから、静かに微笑みながら土に帰るのでした。
それを、憐れんで見ていた大神ゼウス、アポロンの父は彼女に再び命を与えるのでした。
その朽ち倒れ土に突っ伏した顔から溢れた涙のような種を地中に埋めると、また娘は生まれ
アポロンが一年で一番長く天道を翔る夏の最中に一番美しい時を娘に与え続けたのでした。
娘は毎年アポロンが一番長く天道を翔る季節に花を咲かせアポロンを追いかけて見つめ続けるのでした。
嗚呼 私の太陽よ
私は、あなただけ見つめている
向日葵
ギリシャ神話 太陽と向日葵オマージュ
令和6年8月6日
心幸
鐘の音
その街の小高い丘に教会はあった、鐘を打つ女を見ると呪われると実しやかな噂がその街にはあった。その女は生後間もない頃教会の前に置き去りにされていた、見ると酷く哀しい顔をしていて笑うことも泣くことも出来ず顔の無い表情の無い顔には赤黒い月のような痣が顔半分から首筋に走っていた。通りを行く子供がその子の顔を見ては泣いたり石を投げたりした。みんな違ってそれが良いという御婦人に限って、そのみんなと少し違う容貌の少女をイライラした目で見つめた、そして自分の子供に近づけないようにし、「有り得ないよねあんな人、怖いわ」と言いふらし、教会の前に相応しくないとイライラをぶつけた。憐れんだ司祭が少女を、ひきとり教会の奥一番高いところにある鐘の側に少女を匿うように住まわせた。その日から少女は教会の鐘打ち女になりマントを被り街に時間を知らせる鐘を打つようになった。教会の奥の一番高いところから、何時も独り下界を眺めて、夜は青白く輝き姿を変える月に其々に名前をつけて見上げては溜息をつくように語り、窓の外に飾られている3体の像と遊びに来る小鳥だけが彼女の心を癒す友達であったのでした。
そんな彼女も、少女期を過ぎ毎日鐘をつきながら外の世界に憧れを募らせた。彼女は独りこの部屋で沢山の本を読み司祭の元勉強をしとても聡明で信心深く慈悲深い人に成長していた。だからこそ、司祭は彼女が外に出ることに良い返事をしなかった。
一年に一度の祭りの日彼女は独り意を決して外に出た。
外ではジプシーの女が踊りを踊っていた。
とても妖しくて美しくそして躍動感伝わる激しいリズムに負けることのないジプシーのステップと眼差しにマントを頭からスッポリ被った彼女は魅了され、自然に体がリズムをとっていた。ジプシーが彼女の元に歩み寄り手招きした彼女は戸惑ったが、ジプシーに誘われるままジプシーの手を取りステップを真似リズムに合わせて踊りだした。なんという弾けるような開放感であろうか、彼女は楽しくなって天を見上げた、その時顔をスッポリ隠していたマントのフードが取れた、ハッと思ったがジプシーは彼女のフードをさらに下げる、そしてもっと堂々と踊れと彼女に言った、持っているものを曝け出し堂々と踊れとジプシーは彼女を挑発した。
彼女はマントを剥ぎ取り、ジプシーと共に踊った激しく大地を蹴って踊った…遠巻きに見ていた群衆がはじめは二人の踊りに熱狂していたが誰かれとなく、鐘つき女の彼女の顔があらわになっていることに気づいて熱狂は怒号に変わった。中には石を投げる者もあらわれた。
気づいた司祭が鐘つき女の手を無理矢理引いて舞台から降ろしジプシーから遠ざけ、教会に連れ帰った、司祭は「こんなことになるからお前を人目に晒したくなかったのだ!」と激しく叱責し彼女をまた鐘のそばの教会の一番奥の一番高いところに閉じ込めたのだ、なんと慈愛に満ちた優しい司祭であろうか、司祭は自分だけが彼女の理解者で自分だけが彼女を人々の好機の目から守れると信じていた、そうして自分の慈悲の元でしか生きられない彼女を見ることで、その承認欲求を満たしていたのだ。
聡明な彼女はそのことを見破り自由に憧れ、マントを剥ぎ取ったジプシーにシンパシーを感じた、けれど小鳥が運んできた街の噂話では、ジプシーは人心を惑わせた魔女であるとして追われていると知ったのである。それでもジプシーは堂々とし、「私には恥ずべきことは何もない!」と言い、「私はジプシーだ踊りたい時に踊りたい人と踊りたい曲で私は踊る」と言い放って囚われたのであった。
鐘つき女は、泣き崩れ
ついに立ち上がる、司祭を突き放しジプシーの元に走った。
やっとジプシーの前に走り出た彼女は言った
「私は、もう自分を怖がらない自分の生い立ちを怖がらない自分の姿を怖がらない!私はわたし」
ジプシーは鐘つき女を指差し笑っていた
鐘つき女も笑っていた
最後に笑う人になれ!
令和6年8月5日
心幸