友だちの思い出
ジョバンニの切符 〜創作 銀河鉄道の夜〜
星めぐり 七夕に寄せて
「もう、ここは白鳥座のおしまいです」
窓の外、まるで花火がいっぱいのようで天の川の真ん中、目も覚めるような、青宝玉と黄玉大きな二つの透き通った玉が、輪になってしずかにくるくる回転していました。
「あれは、水の速さをはかる機械です」
案内人の白鳥捕りが言いかけたとき。
「切符を拝見いたします」赤い帽子を被った背の高い車掌は立っていて言い手をジョバンニとカンパネルラの方に差し出しました。
カンパネルラはさっと灰色の切符を差し出しましたがジョバンニは困ってしまいました、はてさて、切符なんてものを持っていたろうか?またしても記憶が夜霧の向こうで薄ぼんやりするのでした。ジョバンニはカンパネルラを真似てもじもじしながらも、上着のポケットに手を入れてみましたら、封筒の端に手があたりました。封筒の中には折りたたんだ紙が入っていました。
「こんなもの入っていたろうか?」ジョバンニは呟いてみながら、その紙切れを車掌に手渡しましたら、車掌は上着のボタンを締め直し真っ直ぐに立直してから、その紙を広げるのでした。
「これは、3次空間からお持ちになったのですか?」と尋ねられ
「なんだか分かりません」そう言いながら、とりあえず大丈夫だとふんだジョバンニはカンパネルラの方を見て安堵したように微笑んた。
「そういうことなのですね、ジョバンニさん大丈夫ですよ、あなたはあの子を救ってここにいらした、お母さんは今は悲しみにくれているでしょうが、次の次の七夕には、ここを見上げあなたを誇りに思うことでしょう」
「えっ…?」ジョバンニは車掌に問い返そうとして
カンパネルラに眼を向けた、カンパネルラはただ黙って深くゆっくり瞼を閉じながら頷いた。
ジョバンニは、なんだか聞かなくても良いようなそんな安心感に包まれた。
「よろしゅうございます 次はサザンクロス駅にございます ご乗車時間が迫っておりますのでご乗車のご準備を」そう車掌は言いその紙切れををジョバンニに渡し向こうへ行った。
「カンパネルラ…」ジョバンニは声を詰まらせた「ぼく、きっと、ぼく、きっと」言葉にならないジョバンニにカンパネルラは、ジョバンニに向き直って「これは、天上界へ行ける切符たよ、きみはザネリを救ってあの裂くような言霊のザネリを救ってここに来たのだから」
「わからない、ぼくは、ほんとうに幸いなの?ぼくが幸いだとお母さんら幸いになれる」
「そうだよ、きみは幸いの王子だ」
「なんだか、わかりませんでした、嫌いなザネリを救いぼくは幸いになりここにいるの、ぼくはひかりにつつまれているから幸いで、お母さんはぼくを誇りに思ってくれる」ジョバンニは赤くなって答えながら、その天上界まで行ける切符をたたんで封筒に入れ直しポケットに入れました。
「もうじき、鷲の停車場だよ」カンパネルラが車窓遥か、三つ並んだ小さな青い三角標と地図を見比べ言いました。
「ねぇ、聞いていい?君はどうしてここに来たの?」
「ぼくはね、君を追いかけたんだ、ザネリは追いかけなかった、お父さんが迎えに来たから還ったの、僕は付添い人僕は君を選んだだから君の名を大きな声で呼んだんだ覚えている?」
「ああ」
あゝ 全くだ、全くその通りだ、あの幾つも聞こえてくる声の中で僕はカンパネルラの声を確かに聞いた。
「僕たちは、ずっと一緒に行ける?」
「あゝ ずっとね」
「君のお母さんは悲しまないの?」
「僕のお母さんなら、君のお母さんといっしょだよ、今は悲しみにくれているけれど、次の次の七夕には、君のお母さんと夜空を見上げ僕たちを誇りに思ってくれる だから、行くんだよ、天上界はまだ遠い、星めぐりをしながら君と僕はお母さんたちの夜道をキラキラ照らすんだよ」
カンパネルラはきっぱりと言いました。
星めぐりは、君とぼく七夕には夜空を見上げてね、お母さん。
大切な友だちの思い出を語るから。
2024年7月7日
心幸
星空 「創作 銀河鉄道の夜」
ケンタウルス祭の夜 〜七夕前夜祭〜
ジョバンニは、口笛をふいているようなさみしい口つきで、檜の真っ黒に並んだ街の坂をおりて来たのでした。
坂の下に大きな街灯が、青白く光って立っていた。
ジョバンニは少し臆病者の足つきで街灯の方へおりて行きますと、いままで化け物のように、長くぼんやり、うしろへ引いていたジョバンニの影ぼうしは、だんだん濃く黒くはっきりなって、足をあげたり手を振ったり、ジョバンニの横の方へまわって来るのでした。
「ぼくは立派な機関車だ、ここは勾配だから速いぞ、ぼくは今そね街灯を通り越す」
「そうら、こんどはぼくの影ぼうしはコンパスだ、あんなにくるっとまわって前の方へ来た」とジョバンニはひとり言を言いながら、大股にその街灯の下を通り過ぎたとき、ザネリが新しい襟のシャツを着て、街灯の向こうから飛び出して来て、ひらっとジョバンニとすれ違いました。
「ザネリ、烏瓜ながしに行くの」ジョバンニがそう言ってしまわないうちに
「ジョバンニ、お父さんから…」その子が投げつけるように叫びました。
ジョバンニは、ぱっと胸が冷たくなり、そこらじゅうキーンと鳴るように思いました。
「なんだい!ザネリ」とジョバンニは高く叫び返しましたが、もうザネリは向こうの家の中へ入ってしまいました。
「ザネリはどうして、ぼくがなんにもしないのに、あんなふうなんだろう?」
ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考え呟きながら、さまざまな灯りや木の枝で、すっかり綺麗に飾られた街を通って行きました。
明日は七夕の夜 ケンタウルス祭です。
時計屋の店には恋の時を知らせる、からくり時計のドワーフに明るく燈がついていて、1秒ごとに石でこさえた梟の赤い眼が、くるくる動いたり、いろいろな宝石が海のような色をした硝子の盤に載って、星空のようにゆっくり循ったり、銅の人馬が向こうからこちらにまわってくるのでした。
その真ん中に丸い星座早見が飾ってありました。
ジョバンニは我を忘れて、星座の図に見入りました。時間に合わせて盤をまわすと、その時間に出ている星座が楕円形の中にめぐってあらわれるようになっているのでした。
銀河が帯になって、その下では微かに爆発して湯気でもあげているようにジョバンニには見えるのでした。1番後ろの壁には、七夕の夜空じゅうの星空の不思議な獣や蛇や魚や瓶の形が描かれ、こんな蠍の赤い勇者だの夜空にぎっしりいるのだろうか、あゝぼくは、その中を旅してみたい、どこまでもどこまでも歩いてみたいと思うのでした。
それから、にわかにお母さんのことを思いだして、ジョバンニはその店をはなれました。そして窮屈な上着を気にしながら、それでも胸を張って顔をあげ大きく腕をふって街を歩いて行きました。空気は澄みきって、まるで清水のように通りや店の中を流れました。
街灯はみんな真っ青な楢の枝で包まれ、プラタナスの小径などはたくさんの豆電燈がついて、人魚の都のようでした。よその子供らはみんな新しいあつらえの着物を着て、星めぐりの口笛をふいたり、「ケンタウルス露をふらせ」と叫んで走ったり、青い花火を燃やしたりして遊んでいました。けれどもジョバンニは、また首を垂れてそこらの子供らの賑やかさとはまるで違ったことを考えながら歩くのでした。
お母さんに牛乳を…ジョバンニは急ぎました。
窮屈な上着を着て、七夕の前夜祭の賑の中を。
「お母さんは、ご病気だから大変ね」牛乳屋のおかみさんは言いました。それには適当な挨拶をしてまたジョバンニは歩きだしました。
また口笛をふく子供らとすれ違いました。
みんな川の方へ走って行くのでした。みんな聞き覚えのある声でした。遠くにカンパネルラの声もザネリの声も聞こえてくるのでした。ジョバンニは逃げるようにカンパネルラの声を避けてしまいました。そしてカンパネルラもまた高く口笛をふいて川の向こうの方へ歩いて行ってしまいました。ジョバンニはなんとも言えずさみしくなって、わあわあと言って泣きました。
まもなくジョバンニは走り出して黒い丘に急ぎました。
〜銀河ステーションにて〜
誰かがこっちを見ました。
それが、カンパネルラだとわかるのにすこしの
時間がかかりました。ジョバンニが、きみ前からここにいたの、きみにここで会うなんて思いもしなかったと言いだそうとしたときカンパネルラが「みんなね、ずいぶん走ったけれど遅れてしまったよ、ザネリもね、ずいぶん走ったけれど追いかけなかった」と言いました。
「どこかで待っていようか?」とジョバンニが聞くと カンパネルラは「ザネリは還ったよ、お父さんが迎えに来たから」カンパネルラはそう言いながら、ずいぶん顔色が青白く苦しそうでした。ジョバンニもすこし忘れものがあるような不思議な気持ちで黙り込むのでした。
すると、カンパネルラが勢いよくいうのでした。
「ぼくはきっと見えるここにいたって」
そして、立派な地図をだしました。どこかで見たことのあるようなその地でした。
「この地図はどこか買ったの?黒曜石でできてるね」
「銀河ステーションで貰ったんだ、きみは貰わなかったの?」
「あゝぼくは銀河ステーションを通ったろうか
…いまホームに立っているけど」
「おや、あの川原は月夜だろうか」
「月夜でないよ、銀河だから光るんだ!」ジョバンニは嬉しくなって飛び跳ねました。
~北十字 彼岸からの便り~
「お母さんは、ぼくを赦してくださるだろうか…」カンパネルラが口火を切った。
「ぼくは、お母さんがほんとうに幸せならそれがいいんだ、お母さんがほんとうに幸いになれるなら、けれどどんなことがお母さんのほんとうの幸いなのだろう」カンパネルラは泣きそうになりながら一生懸命に尋ねました。
「きみのお母さんはきみが幸いなら幸いなのではないの」ジョバンニは、そう応えるのがやっとでした。
「ぼくは、わからない。けれど、誰だってほんとうにいいことをしたら幸せなんだよね、だからお母さんはぼくを赦してくださるんだ」カンパネルラは、なにかほんとうに決心して涙を堪えてそう言った。
にわかに、ぱっと明るくなり見ると煌びやかな銀河の上の十字架がたって、それはもう真夏の赤い星をも凍らせる星の牌と言ったらいいか。しずかに永久に立っているのでした。
「ハレルヤ ハレルヤ」前からも後ろからも声がおこりました。振り返って見ると旅人たちは
みな真っ直ぐに立ち黒いバイブルを胸にあて祈っています。カンパネルラとジョバンニもあわてて立ち上がりました。カンパネルラの頬は熟した苹果のように甘く柔らかく輝いて見えました。
向こう岸が青白く揺れて光って煙り時々すすきが風に揺れてりんどうの花の青が見え隠れするのは、やさしいおくり火のようでした。
さあ、どこまで二人は行くのでしょう。
白鳥の停車場を越えて、蠍の針を踏まないように、赤い心臓を通り抜け、天の川を渡るのでしょう。
今夜はもう遅い。
明日また、必ず七夕の星めぐりきみと二人で。
2024年7月6日
心幸
神様だけが知っている
白い死神は言った
「放っておけば死にゆく運命の肉体を力ずくで生き返らせるのは人間だけよね」
「ある意味医者は随分神様気取りね」
「いったい、それは何処まで赦されるのかしら」
黒いメスは言った
「生きる苦しみから逃れる為に自ら命を断ち切るのも人間だけだ、それは何処まで赦されるのかね」
白い死神は答えた
「それこそ、神のみぞ知る…かしらね」
そんな言葉を交わさせた物語を見た。
二つは共に正論であるのだ、あるのは見解の相違だけだと理解出来ずに、自分の正論は唯一無二の正義と振り回す勘違い浅はかな高慢さを孕んだものが正義の味方だ、勝つために自分の正義の為に両手は殺したもうひとつのの正義の血で真っ赤に染まる。
目の前に横たわる命を何度でも救うと誓った黒いメスと、運命論者の白い死神の戦い。
何のために、戦うのか?
生きるためにだ…
死生観へのメッセージ
どうか、読書力と想像力をつけてください。
2024年7月4日
心幸
この道の先に
たったひとりしかいない自分を
たった一度しかない人生を
ほんとうに生かさなかったら
生まれてきたかいがないじゃないか
生きるためにいきろ!
山本有三の「路傍の石」に出てくる名言
たった一人の自分の
たった一度の人生は
一人で生まれ
一人で終えなきゃならないが
その道は
誰かと誰かの縁があり
誰かと誰かの愛があり
誰かと誰かの青春があり
誰かと誰かの人生がある
その道程に
私と誰かの縁があり
私と誰かの愛があり
私と誰かの別れがあり
私と誰かの人生が交差した
一人で終えなきゃならない
細やかな人生だけど
そこには 幾人もの
人の人生があった
私と誰かの人生が交差した
一人で終えなきゃならない
ちっぽけな人生だけど
愛しい日々なのは
この道の先に
また あなたに会える場所が
あると信じているから
この道の先に…
2024年7月3日
心幸
日差し
日長きこと至る(きわまる)夏至の頃。
今年の夏至は6月21日。
立夏と立秋のちょうど間である夏至は、その字の通り夏に至り秋の準備を始める、この日が1番日差しが長く日の入りが遅いが、もう次の日からは、反転して少しずつ日差しが短く日の入りが早くなる春夏秋冬季節は巡る。
1秒たりとも留まらず進み続ける時間。
今年の夏は至りを過ぎた。
進んで行くしかないのである、終わったことをぐちぐち言わず、裁いても仕方の無い人を裁いたりせず。
夏い至り秋が立つ
裁くのが石打ち処刑が好きな人
他人を裁く前に、自分を顧みる
時間を持つが良い。
怖ろしいくらい
自分は正しいと思い込んでいる
愚かな姿を知ると良い
己を知り百戦危うからずである
日差しは真上
日長きこと至る(きわまる)夏至の頃。
2024年7月2日
心幸