『美しい』
日常生活においてあまり使われることのない単語だと思う。綺麗や可愛いと言うことはあっても、美しいとは口にしない。人に対して特に。
絵や写真 文章に景色 メロディーに歌声 ジュエリーに光etc. 美しいと思うものは割とある。けれどあまり声には出さない。
思うに、自分にとってその言葉は特別なものなのだ。簡単に用いるものではなくて、心を動かされたとか奪われたとか そういった時に思わず零れ落ちてしまうように。言い換えたら感情の欠片なのかもしれない。
だから、その特別を自分だけのものに留めておきたくて 寧ろ声も出なくて使わない語句なのかと思い当たった。
美しいものは大切に仕舞いこんでおきたい。そう考えているのかもしれない。
(君の美しさを知っているのは自分だけでいい)
正しさを求め多様性を主張し個性を叫んで自由を糾弾し革新を迫る。目まぐるしくて情報や物に溢れすぎて選択肢が多すぎて疲れてしまう。
ただ普通に穏やかに生きることをよしとしてはくれなくて、突出したなにかであれと強いられる。その癖型にはまった思考を出来なければ異端と石を投げられ、否定をいとえば綺麗事と嘲笑われる。
兎にも角にも ただ生きづらい
……それでも
テーマ: この世界は
「どうして?」
それがあの子の口癖だった。
調べてわかること、考えてわかること、想像してわかるかもしれないこと、答えなんてないこと、正解がひとつではないことetc.
絶えず思考回路を回しているような 世界の全てを知りたいと願っているような そんな子だった。
たぶん、あの子の考えは基本的に間違いではなかった。どちらかといえば正しくて、世間では正論と呼ばれるような真っ直ぐな考えを好む子だった。
純粋で気高くて無垢で。知らなくていい事まで知ってしまうような子だった。
『どうして なのかな?』
あの子は最後まで変わらなかった。
答えを求めているようで自己完結で、知ってしまった事象から目を逸らせない素直な真っ白な子だった。
「どうして?」
だから今日だけは。あなたを、あの子を思い出してそう呟くことも許されるでしょう。
__たとえなにがかわらないとしても。
『大人になりたい』
誰もが口を揃えてそう言っていた。
早く自由になりたい。好きなことをしていたい。束縛されたくない。口出しされたくない。自分だけで全て決めたいのだと。
けれど,私は自由を恐怖している。
籠の中の雛でずっと居たいと思ってしまっている。暖かい巣の中で安寧の地で,危機から遠ざけられ守られて餌も与えられ残酷な蒼穹も知らずぬくぬくと 限られた自由を謳歌していたいのだと願っている。
世間は夢を見るには冷たくて,彼らの言う自由は私にとっての責務と同意義で,羽ばたくことは安らぎの地を立ち去ることに思えた。
「子供のままでいたい」
それが私の我儘な願いだなんて言うことは許されないのだけれど。
「すごく幸福なことだと思う。羨ましいわ」
「そうかしら? 私は停滞を好まないけれど」
一枚の紙を中心にテーブルを挟んで向かい合うふたりの少女。彼女たちは教師から出された課題について議論を交わしていた。
その紙に書かれていたのはたった二言
『ずっとこのまま』その一文と,この言葉からあなたが考えたことを書きなさい。 という指示。
一人の少女はその一文を"これ以上を望む必要すらもない最高の状態"だと捉え,もう一人は"希望も目標も失った空虚な状態"だと捉えた。
少女達は互いに思う。自分たちの発言は正反対でいて同一。例えるのであればコインの裏と表のようなものだと。ゴールに辿り着くことは道標を失うことで,願いがないというのは満たされている証拠でもあるように。
そして二人の少女にとって『ずっとこのまま』であるということは理想ではなかった。なぜなら彼女達は成長の真っ只中。変化することに怯えず前に進み続けるのだから。
だから,『夢』とただ一言,用紙には記入されていた。
テーマ:ずっとこのまま