『罰』
シュルシュルと包帯を巻く音だけが響く。今この部屋にいるのは私と彼の2人だけだった。みんな私たちに気を使って部屋を出ていってしまったけれど、私と彼との間には気まづい空気しか流れない。
そんな沈黙を破ったのは彼だった。
「…ありがとう、包帯を巻いてくれて」
少し俯き気味だった彼がぽつりと呟く。
「…いえ、これが私の仕事ですから」
そう返した私に彼は小さく笑った。
「ふふっ…君は優しいね」
その言葉に包帯を巻く手が止まった。彼が心配そうに私の名前を呼ぶ。
そう、これは優しさなんかじゃない。貴方たちが傷つくのを見てることしか出来なかった、私からのせめてもの贖罪。私には止めることも出来た。だが、それをしなかった私への罰。
「ごめんなさい…ごめんなさい……!」
いきなり泣き出す私に彼は驚きながらも背中を撫でてくれた。
私は優しくなんかない。自分の保身しか考えられない臆病者。
背中にある体温がチクリと心に刺さった。
【優しさ】
【ミッドナイト】
『何も言えない』
「それで聞いてよ〜!またさ〜」
そう言ってストローをクルクル回す彼女。グラスの中で氷が音を立てて一緒に回る。
目の前で楽しそうに喋る彼女は、以前まであった暗い影を潜めていた。「結婚するんだ、」と苦しそうな顔で言ってきた時は、どうやったら彼女を救えるかばかり考えていた。あの彼氏は役に立たないし。もう無理やり割り込むしかないかと言ったら慌てたように「いいよ!いいよ!やめて!」と断られてしまった。そう言われてしまったら何も出来ない。友達の危機に何も出来ないのか…と落ち込んだものだ。
不安な気持ちで迎えた当日、新郎新婦の指輪交換の時に現れた謎の男に彼女は連れ去られた。誘拐…というには少し違く、派手なスポーツカーで去っていったし、なにより素顔も隠していなかった。不安に思っていたが。その後すぐに彼女から、大丈夫ということを聞いた。何でも、その謎の男の仲間になったらしい。1度、その仲間に会ったが皆いい人だったので、安心して彼女を託すことが出来る。
……でも、不安なことが1つ。前より断然彼女の怪我が増えた。その活動上仕方がないとはいえ、やはり大事な友達が傷つくところは見たくない。でも、彼女からあの場所を奪うような真似をしたら、また暗い彼女に戻ってしまうのだろう。あんな彼女はもう見たくない。そう思うと何も言えなかった。
「ねぇねぇ、紹介したい人がいるんだけどさ!」
「えー、誰だろう」
彼女の顔を見ながら、私は無理やり笑った。
【安心と不安】
『1枚だけの写真』
パシャ
その音に彼女が振り返った。
「…撮ったでしょ」
「撮った」
撮ったと正直に言うとさらに不満そうな声を上げる。
「ちょっとー!撮らないでって言ってるのにー!」
彼女が背伸びをして俺のスマホを撮ろうとするが、手を上に上げ届かないようにする。
「消してよー!」
「嫌だね、消さない」
写真を消して欲しい彼女と消さないと言う俺で追いかけっこが始まった。
楽しい、最高の時間だった。
「……夢か」
見慣れた天井が目に入る。今まで見ていた彼女は俺の思い出の中だったのだ。
ベッドのサイドテーブルに置いてあるスマホを手に取り、写真アプリを開く。お気に入りの欄を開くと、あの時の写真が残っていた。
「逆光で何も見えねー…」
写真は逆光になっていて彼女の顔がほぼ見えなかった。
今となっては、彼女がどんな顔で笑っていたかも思い出せない。
「もっと綺麗に撮るんだったな」
後悔してももう遅い。
【逆光】
『最期、また』
私ね、夢を見ていたの
貴方とまた一緒にいられることを。貴方がギターを弾いて、私がそれを眺める。そして、目が合ったら笑い合うの。とっても、とっても幸せだった。
……こんなこと思い出すのは、死ぬ前だからかしら。
武器は取り上げられて、目の前には忌々しい男の姿。「最後に言いたいことはあるか?」なんて聞いてくる。
「お前に聞かせる言葉なんてあるか」
「そうか……残念だよ」
私が吐き捨てた言葉に呆れたような顔をする男。男は私の額に銃を突きつけた。私は目を閉じる最期の最期まで彼のことを考えていた。
【こんな夢を見た】