『何も言えない』
「それで聞いてよ〜!またさ〜」
そう言ってストローをクルクル回す彼女。グラスの中で氷が音を立てて一緒に回る。
目の前で楽しそうに喋る彼女は、以前まであった暗い影を潜めていた。「結婚するんだ、」と苦しそうな顔で言ってきた時は、どうやったら彼女を救えるかばかり考えていた。あの彼氏は役に立たないし。もう無理やり割り込むしかないかと言ったら慌てたように「いいよ!いいよ!やめて!」と断られてしまった。そう言われてしまったら何も出来ない。友達の危機に何も出来ないのか…と落ち込んだものだ。
不安な気持ちで迎えた当日、新郎新婦の指輪交換の時に現れた謎の男に彼女は連れ去られた。誘拐…というには少し違く、派手なスポーツカーで去っていったし、なにより素顔も隠していなかった。不安に思っていたが。その後すぐに彼女から、大丈夫ということを聞いた。何でも、その謎の男の仲間になったらしい。1度、その仲間に会ったが皆いい人だったので、安心して彼女を託すことが出来る。
……でも、不安なことが1つ。前より断然彼女の怪我が増えた。その活動上仕方がないとはいえ、やはり大事な友達が傷つくところは見たくない。でも、彼女からあの場所を奪うような真似をしたら、また暗い彼女に戻ってしまうのだろう。あんな彼女はもう見たくない。そう思うと何も言えなかった。
「ねぇねぇ、紹介したい人がいるんだけどさ!」
「えー、誰だろう」
彼女の顔を見ながら、私は無理やり笑った。
【安心と不安】
1/25/2026, 2:54:13 PM