黄桜

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9/30/2023, 8:46:22 AM

明かりのついた1階のリビングのソファに1人、風呂場からぴちゃんと小さく水音が鳴り響いており、もう1人。最後に、2階の子供部屋に1人ベッドで眠っている。
リビングには赤いスカートを履いた女が眠っていた。風呂場には赤いTシャツを着た男が赤い風呂に入っていた。子供部屋のベッドには赤い水玉模様のワンピースを着た幼女が眠っていた。
現場検証の結果、3名の死亡を確認。念の為、司法解剖を行うために死体を回収したが、殺害されてからの時間経過もあり犯罪の証拠を見つけ出すには時間がかかる模様。

静寂に包まれた部屋で、死体は眠っていた。

お終い

9/28/2023, 10:18:01 PM

釣った魚に、エサをやるのは生きている時だ。死んだ後に餌をやるなんて真似をするのは、よっぽどの物好きくらいなものだ。
だから、皆、求められたものに見合った対価を差し出す。恋も愛も浮気も、間引いても減らない人間の中で対価が等しい者達が手を取り合う事で初めて成り立つものだからだ。言い方を変えれば、大きすぎても小さすぎてもダメということだ。
仮に自分とは違うが、自分のパーソナルスペースに入れてもいい人間がいたとする。君達は、彼等が求めてくれるのを期待していたとする。けれど、彼等は求めるどころか意思表示すらしない。この場合、君達はまず彼等に対して呆れを持つだろう。そして、やがて自分の中のパーソナルスペースから徐々に追い出していく。
つまり、エサが欲しければ自分にも相手にも素直になるべきと言う事だ。

別れ際に、魚は餓死していた事に気づく。

お終い

エサ=見合った対価
餌=不釣合いな対価
餓死=自己満足

9/25/2023, 1:03:37 PM

窓から見える景色は、時間帯によって姿を変えている。私は、気まぐれに外を見ては代わり映えのない景色に興味を失って家事の続きをしたりする。
けれど、夕方の時間帯だけは窓から見える景色に目を凝らしている。すると、小さな複数の人影が我が家に向かって走ってくる。私は、それに気づくと窓からではなく玄関でその人影を迎える準備をする。5分もすれば、玄関は開き家に命が芽吹く。彼らは、疲れた様子も見せずに私の胸元に飛び込んで来てただいまと言う。
私は、それがたまらなく愛おしくおかえりと言うのだ。

窓から見える景色は、鮮やかな笑顔と共に輝く。

お終い

9/21/2023, 10:15:15 AM

秋という季節は、恋をしたくなる人が増えるのだと言う。年中恋人が欲しいと言っている人達は、どうなんだとツッコミたくなるが、口には出さないでおこう。
現に、僕のクラスメイトは恋愛話で持ちきりだった。彼は、恋人にするには性格に難があり過ぎるとか、彼は顔がいいから性格が悪くても許せるだとか、浮気する人間の例をオールコンプリートしそうな発言ばかりが蔓延っていた。
ところで、女というのはコソコソ話が好きなのだろうか。僕も同じ女だが確実に聴こえているし、何より視線が煩しい。やはり、僕には恋愛事はよくわからないな。

秋恋は、人それぞれ。

お終い

9/20/2023, 1:55:00 PM

ふと、思ったことがある。過去に起きた出来事を話す大人達に共感を求められた時、私にはその記憶そのものがなかった。ただ、その時の話は私がまだ1・2歳の時の話だったこともあり思い出せなくても何ら不思議ではないと考えていた。けれど、心の何処かで自分がおかしくなっているのではないかという不安は拭えないままだった。
そして、その不安が確信に変わる出来事があった。父が酒を呑んでいて口が緩んだのだろう。昔話を持ち出してきたのだ。父いわくその時の話は私が10歳の時の事らしかった。母も父も妹も弟もその出来事の記憶があるようだった。だけど、この時の私は酷く取り残された気持ちでその話を聞いていた。
なぜなら、私にはその記憶がなかったからだ。この時、私は気づいた。自分が記憶障害を患っていることに。私だけがそこにいない、その事実に絶句する事しかできなかった。

過去の自分を大事にしたい、けれど、そこに私がいない。

お終い

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