電車に揺られていると、街明かりの少ない私の故郷が見えてきた。誰かが、街明かりは誰かを祝福するための光だと言っていたのを思い出した。私は、どうにかその言葉を口にした人物を思い出そうとしたが、記憶の底に沈んでしまった人物は再び浮かび上がることは無かった。記憶の海から抜け出した私は、電車の扉が開くとゆっくりと階段をのぼり、Suicaで改札をぬけた。残高は、720円だった。私は、電車の長旅で喉が渇いたことに気づいた。確か、駅前の横に自動販売機があったことを思い出すと、足をそこへ向かわせた。目的の自動販売機を見つけると、私は酷く安心した。相も変わらず、商品を照らす自動販売機の明かりが、私の顔を照らした。私は、その中から120円の炭酸ジュースを見つけるとボタンを押して、SuicaをICタグ自販機リーダにかざして購入した。ガタンと金属とプラスチックのぶつかる音が私の耳に響いた後、Suicaの残高は、600円と表記された。
変わらぬ明かりが、そこにはある。
お終い
昔から行事ごとには、あまり興味がなかった。だから、大抵、行事のことは頭にこびりつかず、次こそはと意気込んでみた時もあったが、半日も覚えていなかったことを今、思い出した。そんな事が、毎年繰り返されてはリセットされる日々を私は送っている。
今日は、七夕だ。私にとってはいつもの日常とちっとも変わらない。わざわざ、短冊に願い事を書こうとも思えず、とりあえず頭に浮かんだ願い事を脳に数秒記憶する作業を行った。おそらく、この願い事は半日も記憶されないことだろう。だが、それでいいのだと思う自分がいる。なぜなら、それは忘れるほどの価値しかない願いだと、私の脳はすでに答えを出しているからだ。
この苦しみが、誰にもバレませんように。なんて願い事を知るのは彦星と織姫だけだろうか。なら、都合がいいと言えるだろう。なぜなら、彼らは現実の人間達に干渉するなんて真似はしないと分かっているからだ。だから、私は形に残さず祈ることを選ぶのだ。
いつか、また、星に願いをかけて。
お終い
学校で本を読んでいると、クラスの同級生に肩を2回叩かれた。何事かと、本から肩を叩いた同級生に視線を向けると、その同級生に教室の外に貴方を呼んでいる人がいると言われた。仕方なく、教室のドアを開いて一足踏み出すと、肩を思い切り掴まれて思わず間抜けな声が漏れでた。
肩を掴んだのは、別のクラスの部活友達だった。その友達は、何度も声をかけたのに身じろぎもせずに、本を読み続けるから私のクラスの同級生に呼び出して欲しいと頼んだそうだ。
私が、一言謝罪をすると友達は屈託のない笑みで、そんな事より面白い話があると言って、私の手を引いて、友達の想い人がいる教室に足を運んだ。今日も、本を読み進めることができないと心の中で愚痴をこぼしたが、今、教室に戻ろうものなら友達に半殺しにされかねないと思うと、結局、友達の想い人の教室に留まる選択肢を取った。なんだかんだ、私は友達に甘いらしい。
何よりも、大切なことがある。
お終い
視界に広がる星空は、今の私には、ただの星空でしかないけれど、あの日、君と共に見上げた星空があまりにも輝いて見えたのは、どうしてだろうか。私は、星空から地面に視線を下ろし考えた。けれど、私はすぐに考えるのをやめてしまった。答えはすでに出ていることが分かっているからだ。私は、再び星空を見上げると、かつての情景を思い出し、静かに涙を流した。その涙が、あの時の星空のような輝きをもつことを、密かに願った。
一等星が、地に堕ちて静かに消えてしまったことを私は未だに認められない。
お終い