題:手を伸ばしても
私なんかよりも遥か遠くにいる貴方には、いくら手を伸ばしても届かない。
だから私は進もうとしたけれど、これ以上は進んではいけない。
私と彼は、これ以上でもこれ以下でもない。
でも、あともう一歩だけ……。
あと一歩だけで良いから……。
彼とあともう一歩の関係にしたい。
お題『もう一歩だけ、』
題:見知らぬ街の、見知らぬ貴方
俺は見知らぬ街に着いた。
見知らぬ街に少々不安を覚えるが、好奇心もあった。
夜といっても、街はまだ煌々と輝いている。賑やかな街だ。
「まずは物資の補充をしないと……」
そう、俺は冒険者だ。色んな街や村を巡って旅をしている。
一旦広場に出て、順に店を回ることにした。
「ん、誰だあの人……」
見知らぬ街なのだから誰か分からないのは当然なのだが、妙に気になった。
その人は右目を隠していて、肩出しの裾の長い浅葱色のドレスが映える人だった。
それと、隠していない左目が、星空みたいに綺麗だった。
魔導書店で買ったのか、たくさんの魔導書を持ってた。
自分のやる事を思い出したからその人の前を通り過ぎようとしたら……。
立った拍子に魔導書の重さでグラついたのか、魔導書を地面に落としていた。
慌てて俺も拾うのに加勢する。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、こんな事が起こって無視することの方が無理でしょうから」
その人は申し訳なさそうに瞳が揺れていた。
全て拾い終わると、名前を聞かれた。
「リンクです」
「リンクさん、ですね。ありがとうございました、リンクさん」
深々とお辞儀をされ、少し恥ずかしかった。
その人とはその場で別れた。
その後、何ヶ月か街に滞在し、次の街に向かったのだけれど……。
その街にその人が居たってことは、また別のお話。
お題『見知らぬ街』
題:激しい雷雨、彼は虹
遠雷が鳴り止まない。雨も窓を激しく叩く。
朝から曇ってはいたが、ここまで酷くなるとは、誰が予想出来ただろう。
「さて、彼が来るのはもう少し後ですし、皆、絵本の時間よ」
「「わ~い!」」
奥から可愛らしいたくさんのチコ達が出て来た。
(それにしても、この雷雨の中、彼は来れるかしら……?)
何だかモヤモヤしながら書斎に行く。
いくら強い彼でも、この雷雨は厳しいはず……。
迎えに行った方がいいかしら……。
「最近のママって、何だか浮いてるっていうか、一人のことを熱心に考えてるっていうか……」
「ふふん、それはね、ママは今、“恋”に堕ちてるのよ」
「こい?」
「そうよ。この雨の中をママのために走り抜ける、虹のような彼に夢中なのよ……」
「ふうん?」
……。
彼に逢いたくてたまらない……。
こんな気持ちになったのは初めてだわ……。
本を持っても、中々来ない彼を考えてただ膝の上に置くことしか出来ない……。
「ロゼッタ様、来客でございます!」
「……中にいれてちょうだい」
茶色の扉が静かに開く。
「……誰でしょうか?」
そこには、びしょ濡れの黒いフードを身に纏った人がいた。
何となく雰囲気がリンクさんに似ている。
「忘れちゃったんですか?こんなに頑張って来たのに……」
その人はフードを外すと……。
「来ましたよ、ロゼッタさん」
虹のような彼が、姿を現した。
心なしか、雨が弱まってきた気がした。
お題『遠雷』
題:心の傷
一人、小高い丘で泣いていると、誰かがやって来てこう言った。
「どうして泣いているの?」
「どうしてって……」
震える声で答える。
「なぜ泣くの?」
なぜも何も、自分の母親が死んだら誰でも悲しむだろう。
もしかしてこの人は、命を軽く扱っているのだろうか。
「ママのために泣くのはいけないと思うのだけれど……違うかしら?」
「……!」
確かに、そうかもしれない。
……その通りね。
「その、通りね」
「良かった、泣きやんで」
彼女はクスリと笑う。
別に、なぜ泣くのと聞かれたから答えただけ。
お題『なぜ泣くの?と聞かれたから』
題:甘い足音
もうすぐ、“彼”が来る。
そう、その“彼”とは……。
私の教え子のリンクさんのことです!
この前、天文台から見える景色をリンクさんに語ったところ……。
「では今度、天文台に遊びに行っても良いですか?」
と聞かれ、他の人に邪魔されずにいっぱい話せるチャンスなのでは!?と思い快諾したのですが……。
いざとなると緊張しますね。
「ロゼッタさーん、リンクですー!入っても宜しいでしょうかー?」
来ったーーっ!!!意外と早かったし!
でも無視は最低ですので、返事を。
「は、はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
甘い足音とノックの音と共に彼が入ってきました。
太陽を背景に映るリンクさんにドキドキするのは何故でしょうか。
「座ってください」
「ありがとうございます。ロゼッタプラネットで見るように、すごく素敵な天文台ですね」
「ふふっありがとうございます。とても嬉しいです」
「この景色も最高です。でも、ロゼッタさんの方が何倍も綺麗です」
「……」
驚きすぎて目を大きく開いたまま固まってしまいました。
「あ、すみません、こんな告白みたいになってしまって……。って、ええ!?」
いつの間にか顔が真っ赤になっていたみたいです。リンクさんを驚かせてしまいました。
ーー全く、ズルいなぁ、リンクさんは。可愛い。
全てが甘いリンクさんは、どうやら私を好きにさせたみたいです。
お題『足音』