題:美しく輝け
私はキノコ王国のある平原へ舞い降りた。
その理由はただ一つ。明日が『星屑祭』だからだ。
星屑祭とは、百年に一度の盛大な祭りのことだ。
でも私は屋台の物を買うだけで、星屑は観ない。
……悲しくなるから。
私は、チコ達のお土産を買うだけで充分なのです。
星屑祭当日。
ピーチ城の前は、多くの人で賑わっていました。
私はいつも通り屋台の物を買おうとし……
「貴方、いつも星屑祭に来ている方よね」
驚いた。まさか覚えられていたなんて。
「貴方有名よ?土産物だけ買って星屑は観ない謎の女性って。ねぇ、よかったら一緒に観ない?」
とんでもない。今まで悲しくなるのに見なかったのに、今見てしまったらきっと涙腺崩壊する。
でも相手はこの王国の姫だし……。断ろうにも断れない相手……。
「……はい……」
「やった!約束ね。じゃあ、今日の8時に、大きな木のある丘集合ね!」
どうしましょう……約束……してしまった……。
それよりも、集合場所って、もしかして……。
大きな木、丘、ママの眠る、大きな木、星見のテラス……。
星見の……テラス……。
夜8時。約束の時間通り、ピーチさんはやって来た(王国の姫に向かってさん付けは失礼かもです)。
「来てくれたのね!」
「約束したからには来るのは当たり前でしょう?」
「ふふっ、そうね。さ、そろそろ星屑が降るわよ」
もう、降ってしまうのですね。
あの悲しい出来事を、鮮明に思い出してしまうのですね……。
あぁ、星屑が降ってきた。
「……綺麗ね、とても」
「……」
私は黙っていた。涙を堪えるのに必死だった。
夜、パパと観に行って。弟とソリをして。ママとお弁当を食べて……。
もう無理だ。
気づいたら、泣いていた。
ーーああ、空はこんなにも。
美しいものだったなんて……。
ごめんね、ママ、ごめんね……。
『泣かないで』
頭上でママの声。いいえ、ピーチさんの声だったかもしれません。
お題『空はこんなにも』
題:孤独
私は子供の頃、夢がなかった。絶望しかなかった。
ママが亡くなった現実から必死に逃げていただけ。そんな人に夢が与えられるわけがない。
でも、私と同じように孤独なチコと共に過ごしていくうちに、この子たちのママになりたいという夢ができた。
そして、この子たちが寂しくないように、ママになって、努力して。
最初に出会ったチコは、私のために星になった。当時は、泣き叫んだ。
貴方までいなくなったら私は何を糧に生きていけばいいの?と。
泣き叫ぶ私を慰めながら、あの子はそういう運命だった、むしろ大切な人のために星になれてあいつは幸せだと、言ってくれた。
あの温もりは、今でも忘れられない。
……今の私の夢?今の私の夢は……。
この子達の本当のママになること。
お題『子供の頃の夢』
題:白いマーガレットに誓って
「どうして花壇に?」
放課後、リンクさんを花壇に呼んだ。
ここの花壇は私のお気に入りの場所である。レースが終われば門限ギリギリまでここに入り浸っている(よくジュゲムさんに注意されますが)。
だからリンクさんもここが私のお気に入りであることを知っている。
そこで私は、花壇に植えられていた白いマーガレットをとって花占いを始めた。
「好き、嫌い、好き、嫌い……」
実はリンクさんに告白しようと思ってここに呼んだのだ。そして、花占いで『好き』が出たら告白するつもりだ。
ーーでも、『好き』が出るのは確実だから。
だって、マーガレットの花びらの枚数は奇数だから、最初に好きと言えば確実に『好き』が出る。
「え、急に花占い始めてどうしたんですか?」
まだ気付いてないみたい。リンクさんって意外に鈍感?
「……好き」
ーー告白する心の準備はできている。
この想いを、言葉にするだけーー。
「リンクさん、好きです」
リンクさんの顔を見ていなくても、リンクさんが赤くなっているのが分かる。
私の顔も熟れたリンゴくらいになっているのだろう。
「え、えっと……」
リンクさんが言葉を紡ぐ。
「……俺も、好きです……」
その一言で、視界が滲む、ぼやける。
涙が止まらない。
リンクさんがそっと私の手を握る。
ーー大好き。
お題『好き、嫌い、』
題:泣くときは雨の日で
私はひとり、傘もささずに土砂降りの雨の中を泣きながら駆け抜けていた。
理由はママを失ってしまったからだ。失うーーすなわち、ママがいなくなったということだ。
「別に、私の、ために、ッ、気丈に振る舞わなくてもい、いのに。素直に、ッ、言えばいいのに。ッ」
周りの人には私はどのようにうつっているのだろう。
この雨で傘もささない、泣きながら走る少女ーー。
しばらく走っていると、腕を掴まれた。
「ちょっと、お母さんのためにも泣いちゃダメ!笑って!」
少し大きめの桃色の傘をさした友達ーーママにとてもよく似ているーーピーチ。
ママを失った今、似ているこの子にだけは、会いたくなかった。
「……離してよ」
「えっ」
「離してよ!」
「あっ、ちょっと!」
強引にピーチの腕を振りほどくと、ピーチの声を無視して走る。知らない何処かに向かって。
けれどまた、腕を掴まれてしまった。
「せめて傘ぐらいさしなよ!お母さんを心配さしたらどう責任取るって言うの!?」
ーーああ、今はやめて、その優しさを出さないで。今はやめて、自分よりも私を心配するのを。
ずっと黙ったままの私に焦れったくなったのか、私の隣にやってきて、私を傘の中に入れた。
「ほら、行くわよ」
貴方は雨の香りを、私は涙の跡を残して歩み始めた。
お題『雨の香り、涙の跡』
題:糸結び
占い師を始めて2ヶ月が経とうとしている。
どうして占い師を始めたかというと、ロゼッタの願いは高確率で星に届くからである。
そうして届いた願いは糸となり、ロゼッタの手元にくる。その糸は願い事によって違う。燃えるような赤、静かな青、柔らかな緑ーーなどなど。
そのほとんどの願い事の内容は『恋愛』である。
世の中の女性は男性に告白する勇気が無さすぎると、ロゼッタは毎日思う。好きなら好きと言えばいい。なのに運命の赤い糸を頼るなんて……。
ロゼッタは魔女であるため、不老不死。そのせいで男性に会う機会は無く、恋愛はとてつもなく疎い。
今日もロゼッタの元に一人の女性が来た。
今日も赤い糸を小指に結ばなければならないのか……と、ロゼッタが小さく溜め息を吐く。
しかし女性は、意外なことを口にした。
「安産祈願の糸はありませんか?」
「…………………………………え?」
しばしの沈黙の後、出たのはその言葉だけだった。
こんなことを言う人は始めてだ。どうして神社ではなくここに?
「どうして貴方は神社ではなくここに?」
その質問に、女性は少し困ったような顔で答えた。
「確かに安産祈願で有名な神社はあるけれど、ここの方が確実だと思って」
私のことはそんなに知られていないと思っていたが、案外知られていたのだ。
ロゼッタは正直驚いたが、引き受けることにした。
「……分かりました。少しの間、待っていてください」
ロゼッタは目を瞑り、祈る。
すると、ロゼッタの手が光りだし、その手の中に白色の糸が表れた。
その糸を女性に小指に結びつける。
「ありがとうございます」
女性は会釈をすると、走り去っていった。
その後、ロゼッタの元に来た女性がSNSに投稿した『【星祈り ほうき星】の糸結びのお陰で子供が無事に産まれました!』というのを見た人達が、ロゼッタの元に殺到したのは、また別のお話。
お題『糸』