題:泣くときは雨の日で
私はひとり、傘もささずに土砂降りの雨の中を泣きながら駆け抜けていた。
理由はママを失ってしまったからだ。失うーーすなわち、ママがいなくなったということだ。
「別に、私の、ために、ッ、気丈に振る舞わなくてもい、いのに。素直に、ッ、言えばいいのに。ッ」
周りの人には私はどのようにうつっているのだろう。
この雨で傘もささない、泣きながら走る少女ーー。
しばらく走っていると、腕を掴まれた。
「ちょっと、お母さんのためにも泣いちゃダメ!笑って!」
少し大きめの桃色の傘をさした友達ーーママにとてもよく似ているーーピーチ。
ママを失った今、似ているこの子にだけは、会いたくなかった。
「……離してよ」
「えっ」
「離してよ!」
「あっ、ちょっと!」
強引にピーチの腕を振りほどくと、ピーチの声を無視して走る。知らない何処かに向かって。
けれどまた、腕を掴まれてしまった。
「せめて傘ぐらいさしなよ!お母さんを心配さしたらどう責任取るって言うの!?」
ーーああ、今はやめて、その優しさを出さないで。今はやめて、自分よりも私を心配するのを。
ずっと黙ったままの私に焦れったくなったのか、私の隣にやってきて、私を傘の中に入れた。
「ほら、行くわよ」
貴方は雨の香りを、私は涙の跡を残して歩み始めた。
お題『雨の香り、涙の跡』
6/19/2025, 12:37:04 PM