『2人だけの秘密』
レインコートが雨粒を弾く音、ぬかるんだ土を踏む感覚。
冷たいはずの空気が動悸のせいか暑く感じる。
深く掘った穴に土を埋めていく。
べちゃ、べちゃと土を被る音が徐々に小さくなっていく。
ドラマでよく見た光景をリアルで
見ることになるとは思わなかった。
君は無言で土をかける。
何を思っているんだろうと考えながら
一緒に手を動かす。
元通りになった地面を見てようやく君が「よし」と吐いた。
「じゃ、これは墓場だけ持っていこうね。」
雨が激しくなってきたのに君の声が鮮明に聞こえた気がした。
語り部シルヴァ
『優しさだけで、きっと』
「んじゃ、またなー」
適当な礼で済ませてそそくさとどっか行くチンピラ。
ついさっき車を当て逃げしようとしたところを捕まえ、
処理を終えたところだ。
「いやあ、それにしても災難でしたね。お疲れ様でした。」
チンピラの車が消えたのを確認して
帽子のつばをつまみつつ被害者に声をかける。
「いえ、警官さんがパトロールしてくれて助かりました。
ありがとうございます。」
深く頭を下げてお礼をしてもらったので
仕事ですのでと答えた。
「なんというか...仏みたいな方ですね。
私が駆けつけた時も全然困った顔してませんでしたし...」
そう言われると思っていたのか被害者はすっと言葉を返す。
「ええ、あんな時こそ優しくない人が後々後悔するので。」
この人は優しい。それ故に強い。
そんな直感が頭を過ぎったからか、尊敬します。
と言葉が漏れた。
語り部シルヴァ
『カラフル』
「よし、上出来。」
冷蔵庫から取り出した生チョコは綺麗に仕上がった。
ゴールデンウィーク初日、暇を持て余すと感じた俺は
とりあえずお菓子を作ることにした。
今まで作ったことのないお菓子で、
我ながら上手くいったようだ。
型から取り出して味見する。
とろりとした味とチョコスプレーの食感が絶妙だ。
ついでにコーヒーも淹れて生チョコを楽しむ。
同じ味なのに色が違うと少し風味が変わる気がするのは、
自分の気分が変わっているからだろう。
語り部シルヴァ
『楽園』
夜の怪しい灯りに照らされ、
街は夜の顔へと化粧を変える。
少しでも油断すれば意識が飛ぶような酒の味と
タバコの匂い。
そして両手に咲き始めた花。
明日から仕事も休みでぱーーっとできる。
最高だ。これを楽園と呼ばずになんて呼ぶか。
目の前に注がれた酒を持って花と乾杯する。
冷たい酒が喉を焼く。
あぁ、幸せだ。
語り部シルヴァ
『風に乗って』
最近まで感じていた春の温かさが嘘のように吹き飛ばされ
肌寒さを感じるほど気温が下がっている。
奥にまで片付けてしまった上着を引っ張り出し
お気に入りのマグカップにお湯を注ぐ。
これだけ寒暖差があれば風邪をひくのも無理はない。
それは曇り空で怪しい風が吹いている。
ぺトリコールの香りが風の運ばれる。
雨は降っていないが...そろそろ来るかもしれないな。
外に干していた洗濯物を部屋に干し直していると、
雨粒が屋根に弾ける音が聞こえてきた。
語り部シルヴァ