『三日月』
楕円状にかけた月が空を灯す。
実際にはいつも丸い満月なのに
光の当たり具合で欠けているようにも見えるのは
不思議なことだ。
月もいつだって夜を優しく照らすほど余裕は無いのだろう。
私たち人間のように休ませる日が必要なのかもしれない。
そう考えると月も人の心も同じものなのかもしれない。
月も太陽がいないと輝けない。
人間も誰かがいないとずっとは輝けない。
どれだけ形が変われども
空を照らす優しさを持ち続けるその姿を見てるからこそ
月を見れば安心できるのかもしれない。
今日は三日月。もう少しで新月だろうか。
僅かな輝きで世界を照らす三日月に心で頑張れと唱えた。
語り部シルヴァ
『色とりどり』
砂浜のペールオレンジ、海の青、
綺麗な山の緑、澄んでいる空の水色。
いつも見ている景色もいざ見ずに描くとなると調子が悪い。
実際にキャンパスノートを持って
現地で見ながら描くとやはり全然違う。
潮風の香りや太陽の熱で少し温められた砂浜。
見るだけじゃ感じないものを表現できそうな気がする。
色鉛筆で全体像を塗って細部を色を変えつつ
影や濃さを表現する。
色鉛筆を戻し、別の色鉛筆を取り出す。
この繰り返し。けれどそれが楽しい。
真っ白だったキャンパスは
いつの間にか色鮮やかに敷き詰められていて、
白紙の部分はほとんど無くなった。
一通り描き終えて満足した。
...と思ったが手は何かを描きたいらしい。
次ページをめくって新しい白紙に次はどうしようと
にらめっこを始めた。
語り部シルヴァ
『雪』
雪が降ると気温が下がって寒くなっていく。
寒いのは嫌いだ。それでも雪のことは嫌いになれない。
雨と違って静かに降ってはじんわりと体温を奪っていく。
神秘的で触れると消えていく。
それにしても今日は一日晴れの予定だったはず...
空はすっかりどんよりした雲に覆われて振るいにかけたように雪が静かに落ちていく。
指先が冷えきっている。
晴れてるからと手袋を持ってこなかった結果がこれ。
あー...どんどん体温が逃げていく気がする。
カフェを見つけたらそこに逃げ込もう。
それまでの辛抱だと言い聞かせるように
指先を吐く息で温めた。
語り部シルヴァ
『君と一緒に』
都会の夜は眠らない。
すれ違う人は冷たい空気に酒とタバコを混じらせ
思わず空気に飲まれれば酔ってしまいそうだ。
隣からも甘い香りを含めた同じ空気を纏わせた
酔っ払いが歩いている。
手を繋いでいないとどこかへ
飛んでいってしまうんじゃないかと思うくらい
落ち着きのない足取りだ。
いつもの仕事っぷりはどこへやら。
今じゃ威厳も可愛げもないただの酔っ払い。
酒が強くて助かった。
ただ、この酔っ払いといるせいかな。
ひとりで飲むよりも酒が進んでしょうがない。
あぁ。俺もこの空気の一部か。
俺も酒とタバコを纏わせた空気なんだな。
どうりで俺も足取りがちょっと軽いわけだ。
お互いどっか行かないように強く手を握る。
握り返された手は弱く優しかった。
語り部シルヴァ
『冬晴れ』
外は憎たらしい風が吹いていない。
雲がいつもよりのんびりと流れていく。
濃い青い色が永遠と伸びる空。
太陽が睨みつけるからか
いつもより厚着する必要は無さそうだ。
...まあ今日に限って外に出る予定は無いのだけど。
コーヒー片手にベランダに出る。
コーヒーから出る湯気は優しくゆっくりと空に消えていく。
いいな。なんというか...この空気というか...
何も無いけどそれが心地良さを作ってくれている気がする。
今日はいい日だ。
そう思いながらコーヒーを運ぶも
湯気に触れた唇がまだ早いと飲むのを拒んだ。
語り部シルヴァ