『冬の足音』
強い風が吹く。
昨日まで平気だった風もより寒くなった。
寒さが増している。
12月になったんだ。秋の過ごしやすさなんてものは風に吹かれてどっか行ってしまった。
歩くと木枯らしが枯葉を乾いた音を立てて吹き飛ばす。
この音が余計に寒さを感じさせる気がする。
...明日はもっと厚着しよう。
肩を竦めてポケットに手を突っ込んで歩く。
枯葉と共に木枯らしに吹かれながら...
語り部シルヴァ
『贈り物の中身』
待ち合わせに遅れてしまったが、何とか着いた。
彼女に会う前に店のガラスで身なりを整えて...よし。
ごめん、待たせたね。
気さくに声をかけたが彼女は目を腫らして泣いた後だった。
遅刻したことで悲しませたか、焦ってごめんと改めて伝える。
けれど君は別の理由で泣いていた。
サプライズで美味しいと評判のクッキーを買っていたが
つまづいて落とし、通行人に踏まれてしまって
粉々になってしまったようだ。
話してくれながらまた泣きそうになる君。
君が用意してくれた粉々になってしまった
クッキーを食べてみる。
砂が混じってしまったのか少しジャリッとしたが、
美味しかった。
素敵なものを用意してくれてありがとう。
中身は仕方ないし、用意してくれたことが嬉しいんだ。
頭を優しく撫でる。
慰めようとしたつもりだったけど、
君は抑えきれなかった涙を流し、
結局僕は君を泣かしてしまった。
語り部シルヴァ
『凍てつく星空』
部活に集中しすぎて太陽は
とうのとうに沈んでしまったようだ。
日中の熱もみんな忘れたようで寒い風が耳を凍らせる。
指先もヒリヒリと刺す痛みが伴い
ブレザーのポケットに手を突っ込む。
空は雲ひとつなくて綺麗な星空が広がる。
晴れてる日の方が寒く感じるのはなぜだろう。
なにか暖かいものが欲しい。
そろそろ手袋買うのもいいかもしれない。
近くのコンビニでホットレモンを買って必死に握りしめる。
さっきまで冷たかった指先が今度は火傷しそうだ。
寒かったり熱かったり...
指先が荒れてしまうのも無理は無いな。
温まった口から吐く息は白くなり、
それを見てるのが楽しくなってどんどん息を吐く。
酸欠で息を吸えば今度は冷たい空気が
肺いっぱいに溜まって寒空と一体化してしまいそうだ。
さっさと家に帰ってお風呂に入りたい...
凍るように冷えた足はどんどんペースをあげて
家へと向かった。
語り部シルヴァ
『君と紡ぐ物語』
ふと目が覚めた。
君が隣で眠っている。
ずっと君が隣にいてくれたらと思ってた。
それが叶うなんて思ってもなかった。
昨日から君と一緒に住むことができた。
これから二人でどんな生活になっていくんだろう。
ご飯を食べてお昼寝して、
変な話だけど喧嘩も楽しみだ。
そうやって死ぬまで君と一緒に生きて...
誰かに自慢できるような人生になればいいな。
君の頭を優しく撫でて、布団をかけ直して
もう一度眠りにつこう。
君の温もりが心地よくて、
すぐに眠りにつけそうだ。
語り部シルヴァ
『失われた響き』
荒廃した街を歩く。
辺りは既に火災が収まり瓦礫と灰まみれ。
地震に嵐に大火事。
各地で唐突に起きた天変地異。
ここは本当に自分の住んでいた国かと思うほど
暴動も起きている。
警察や自衛隊は道という道が無いせいで対応が遅れている。
食べ物や飲み物を探してここを彷徨いているが
いつ襲われてもおかしくない。
けれどそのリスクを抱えてまでも探さないと
誰かに取られて明日を生きることが難しくなってしまう。
少し歩くと雲の隙間から差し込む太陽の光に当てられた
グランドピアノがぽつんと立っていた。
引かれるように椅子に座り鍵盤を押す。
中が壊れているのか綺麗な音は出ない。
右のペダルを踏みながら鍵盤を押しても響かない。
演奏してみる。所々悲しくて沈黙に掻き消されるような音。
けれど街のように荒れた心が和らぐ気がする。
...どうか、どうか少しでも早く復興されますように。
語り部シルヴァ