語り部シルヴァ

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『失われた響き』

荒廃した街を歩く。
辺りは既に火災が収まり瓦礫と灰まみれ。
地震に嵐に大火事。
各地で唐突に起きた天変地異。

ここは本当に自分の住んでいた国かと思うほど
暴動も起きている。
警察や自衛隊は道という道が無いせいで対応が遅れている。
食べ物や飲み物を探してここを彷徨いているが
いつ襲われてもおかしくない。
けれどそのリスクを抱えてまでも探さないと
誰かに取られて明日を生きることが難しくなってしまう。

少し歩くと雲の隙間から差し込む太陽の光に当てられた
グランドピアノがぽつんと立っていた。
引かれるように椅子に座り鍵盤を押す。
中が壊れているのか綺麗な音は出ない。
右のペダルを踏みながら鍵盤を押しても響かない。

演奏してみる。所々悲しくて沈黙に掻き消されるような音。
けれど街のように荒れた心が和らぐ気がする。

...どうか、どうか少しでも早く復興されますように。

語り部シルヴァ

11/29/2025, 10:14:02 AM