『霜降る朝』
今日の朝はやけに冷える。
コーヒーを飲もうとしたが昨日飲んだ分で
無くなってしまったのを思い出した。
幸い近くに自販機があった。少し厚着をして...よし。
外は冷凍庫に放り込まれたように寒い。
手がかじかみ服がひんやりしている。
さっさと自販機へ...
道の端っこに生えている雑草が凍っているように
霜がかかっている。
なるほど、そりゃ寒いわけだ。
ボタンを押すとガタンとどデカい音で
コーヒーが吐き出される。
あったかい。寒すぎて痛くなった指先が
じんわりと温められていく。
我慢できずに蓋を開けて飲む。
焼けるような熱さなはずなのにごくごく飲めそうだ。
寒い空間の中で暖が取れる幸福感は今でしか味わえない。
...ふぅ。温まった口から吐き出される息は真っ白で
青くなってきた空に消えていった。
語り部シルヴァ
『心の深呼吸』
会場は冬の朝のようにしんとしているのに、
そんな中僕含めた選手の闘志が静かに燃え上がっている。
この時期には半袖は寒いな...
なんて思っていたがこんな闘志に燃やされる訳にはいかない。
逆に燃やしてやる。それくらいで行かないと負けてしまう。
もうすぐ僕たちの番だ。
一定のリズムでゆっくり深呼吸して...
この呼吸のペースをずっと続けよう。
「次のチームの方!準備をお願いします!」
呼ばれた。ついに僕たちの番だ。
僕たちならきっといつものモチベを出せる。
呼吸のリズムを保ちながら
弓と矢を構えて射場へと歩き始めた。
語り部シルヴァ
『時を繋ぐ糸』
「あ...」
道着に着替えてる時にミサンガがちぎれた。
なんてタイミングだ...
ずっと身につけて劣化してしまったのか...
なんて考えていると仲間が背中を叩く。
「ちぎれたってことは願いが叶うってことじゃんか。
もう俺たち優勝間違いないな!」
少しデカい声で笑う。ほんといつもそうだ。
考えてる暇なんてあっという間に無くなる。
でも...そのおかげでここまで来れたのも事実だ。
「よし...頑張って優勝掴むぞー!」
このミサンガは俺たちが入部して初めての試合前に
全員が身につけたものだ。
これが最後の試合。あとは自分の力を出し尽くすだけだ。
弓と矢を持って会場へ向かった。
語り部シルヴァ
『落ち葉の道』
赤や橙の葉も散るようになってきた。
近くの公園も葉を失ったからかどこか寂しい景色になった。
ただ代わりに地面が鮮やかになって、
カラフルなカーペットが出来上がっていた。
1本進む度に少し足が沈んではパリッと砕ける音を
葉が音を立てる。
さっき寂しい景色といったが、
今日は秋晴れなこともあってか
空がより広く見える。
今日は過ごしやすい天気だ。
もう少し散歩をするのも悪くないかもしれない。
行き先は決めてないが...
公園内は落ち葉の道に従って進むのも悪くないかもしれない。
語り部シルヴァ
『君が隠した鍵』
「ただいま。」
いつもの癖で呟いてしまった。
ドアを閉めるとしんとした空気。
もう君はここにいないんだっけか。
ついさっきまで一緒にいたもんだからすごく違和感がある。
まあこんな気分になっていても仕方がないから
さっさと切り替えよう。
とりあえずコーヒーを飲むために電子ポッドに水を入れる。
...あれ。コーヒーはどこだっけか。
いつも君が調度良いタイミングで淹れてくれていたから
場所がわからない。
キッチンを漁っていると、鍵と手紙が置かれていた。
こんなところに...?
手紙には合鍵を返しておくのと
コーヒーの在処を教えてくれていた。
君はどこまで見据えていたんだろう。
コーヒーが完成して早速一口飲む。
...苦い。粉が多すぎたようだ。
語り部シルヴァ